配送ドライバーの苛酷な労働条件。5人に1人が事故と隣り合わせの日常 (10/31)

配送ドライバーの苛酷な労働条件。5人に1人が事故と隣り合わせの日常
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ハーバービジネス オンライン 2019.10.31 鈴木翔大

路駐で仮眠を取る運転手たち ※写真はイメージです

〔写真〕https://hbol.jp/?attachment_id=205282

 明け方の幹線道路で、大型トラックが路肩に列をなして停車し、運転手たちが仮眠を取っている光景を見たことはないだろうか。これが違法駐車として摘発を受けるケースが後を絶たず、社会問題になっている。

 しかし、時間通りの配送を求められる運転手は無駄なく配送ルートを走行する必要に迫られ、その結果として路上で仮眠を取ることになってしまうのだ。これは運転手個人に帰せられるべき責任ではなく、厳しく苛酷な労働条件を強いている企業や社会の問題だ。

 アデコが10月16日に発表した調査では、道路貨物運転手の5人に1人が「睡眠不足や疲労が原因で事故を起こしたこと、もしくは起こしそうになったことがある」と回答していたことが分かった。本記事ではこの調査をもとに、現代社会で配送ドライバーが置かれている状況について考えてみたい。

道路貨物運転手の約6割は、労働日の平均睡眠時間が6時間未満

〔グラフ〕1日当たりの平均的な拘束時間 https://hbol.jp/?attachment_id=205277

 アデコによる調査は道路貨物運転手400人を対象としたものだ。まず労働時間についてだが、1日あたりの平均的な拘束時間は「8時間〜13時間未満」がもっとも多く、全体のちょうど6割を占めている。次に多いのが「13時間〜16時間未満」で、こちらは26.3%という数字だ。なんと「16時間以上」との回答も9%あり、約1割におよんでいる。「8時間未満」と回答したのはわずか4.8%にとどまった。

 また「1日の拘束時間が15時間を超えることが週に何回あるか」という質問に対しては、過半数のドライバーが週に1回以上は15時間以上の労働を強いられていると回答した。

 また、「1回の連続運転時間が4時間を超えることがひと月に何回あるか」との質問に対しては、合計39.5%が「ひと月に1回以上ある」と回答し、そのうちの24%を「5回以上」が占めた。

 今更確認する必要もない基本的な事項だが、労働基準法では法定労働時間を原則として1日8時間・1週40時間以内と定めている。調査の結果はこの範囲内で働くことのできているドライバーがほとんどいない状況が現実であることを物語っている。

 トラック運転手に関しては「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(平成元年労働省告示第7号)」によって、1日の労働時間の上限が13時間(延長した場合は16時間)とする基準が設けられている。このような公示によって制限を設けなければならないほど、トラック運転手の労働は長時間に及ぶ傾向にあるのだ。

 またこの基準に示されている「4時間走った場合は必ず30分以上の休憩時間を設けないとならない」という点も守られていないケースが多い。配送ドライバーは日常的に長時間の労働を強いられ、あまつさえ常に緊張を強いられる、強度の高い労働をせざるを得なくなっているのだ。

 その結果として生じてくるのが十分な睡眠時間を確保できないという状況である。調査の結果からは約6割が労働日の睡眠時間を6時間未満に限定されていることが明らかになった。

 海外の調査研究では、人間が十分なパフォーマンスを発揮するためには8時間の睡眠が必要であるとの結果も出ている。6時間の睡眠時間が10日以上続くと人間のパフォーマンスは徹夜した場合と同じ程度にまで低下してしまうという。この実験調査の結果を踏まえて人間に必要な睡眠時間を8時間とした場合、それを満たしていると回答したドライバーはわずか4.3%に過ぎないことになる。

十分に体を休める時間もなく、事故が隣り合わせの日常。それなのに低収入……

 自動車を運転する上で十分な睡眠時間の確保がいかに重要であるかについては、誰もが何らかの経験を通して知っていることであり、もはや説明の必要はないはずだ。普通に車を運転する場合でもそうなのだから、配送ドライバーにとってその重要性が遥かに大きくなることは容易く想像できる。この点を軽視して顧みない社会で最悪の結果として生まれてくるのが、配送中の事故だ。

〔グラフ〕体を休める時間を充分に取れていると思うか
https://hbol.jp/?attachment_id=205278

 そして今回の調査は、残念ながら現代の日本がそのような謗りを免れない状況にあることを示している。「睡眠や仕事中の休憩など、体を休める時間を充分に取れていますか」との質問に対して、4割以上となる44.0%(176人)が「取れていない」と回答し、そのうちの約半数にあたる47.7%(84人)が「睡眠不足や疲労が原因で事故を起こしたこと、もしくは起こしそうになったことはありますか」との質問に対して「ある」と回答したのだ。

 それでも苛酷な労働に見合うだけの対価が雇用主から支払われているならば、まだ救いはあるかもしれない。だが調査の結果はその可能性をも否定し去ってしまっている。「道路貨物運転手として働くなかで、悩んでいることは何ですか」との質問に対する回答でもっとも多く挙げられたのは「給与が低い」ことであり、この選択肢は61.3%という数字を示した。6割以上の配送ドライバーが自身の年収に満足していないのが現実だ。

 具体的な年収についての回答では年収400万円未満が約4割を占め、その一方で500万円以上との回答が23.6%に及んだ。単純に年収だけを見れば、いわゆるワーキングプアと呼ばれるほどの低収入に悩まされているケースは比較的少数であるようだが、しかし年収は長時間で強度の高い労働に見合うかどうかで考えられるべきだ。

全社会的な問題として配送ドライバーの労働条件改善を

 社会において配送ドライバーが果たす役割とは何か? 商品は生産されるだけでなく、使用価値を認められ実際に消費されることによって初めて価値を持つ。日用品から娯楽品に至るまで、あらゆる商品の生産は交通手段によってそれが必要とされる場所まで配送されることを前提として行われている。配送ドライバーが社会において果たす役割はあまりにも大きい。

 先日の台風19号では首都圏・東海地方の大手コンビニ各社のおよそ5700店舗約1000店が休業を余儀なくされたが、それは台風によってトラックの運行が危険になり、商品を配送できなくなったからだ。そうした役割を担っている配送ドライバーの労働条件の問題はすべての職種の労働者にとって無関係ではない。

 さらに大きな視点でこの問題を捉えるならば、19世紀の後半に活動した社会学者・経済学者・哲学者であるカール・マルクスの思想に立ち返らなければならないだろう。マルクスは『ドイツ・イデオロギー』(1846)をはじめとする著作で、生産と交通を社会でもっとも根本的な役割を担う二つの分野として述べていた。ここで言われている交通という概念は必ずしも商品の配送だけを指すものではないが、配送はあらゆる交通のなかで最も基本的なものと見なされるべきである。

 そのような観点からも、配送に携わる労働者が十分な対価を得られていない社会の状態は明らかに問題である。配送ドライバーの労働条件改善は全社会的な問題として取り組まれるべきだ。

 またマルクスの『資本論』(1867年/第一部)のなかでは、大事故を起こし、それを「自己責任」で片付けられたある鉄道労働者が裁判で次のように生々しい苦悶の声を残している。

「一〇年から一二年前までは自分たちの労働は一日にたった八時間だった。それが最近の五、六年のあいだに一四時間、一八時間、二〇時間とねじあげられ[…]休みなしに四〇−五〇時間働くことも多い。自分たちも普通の人間であって巨人ではない。ある一定の点で自分たちの労働力はきかなくなる。自分たちは麻痺に襲われる。自分たちの頭は考えることをやめ、目はみることをやめる。」(カール・マルクス『資本論』第二分冊、岡崎次郎訳、大月書店、1972年、47ページ)

 長時間労働とあまりにも不十分な睡眠時間を強いられ、鈍麻した感覚が語られた一節である。今回の調査結果を見ていると、その向こう側からこれとほとんど変わらない配送ドライバーの訴えが聞こえてくるような思いがする。

<文/鈴木翔大>
鈴木翔大
早稲田大学在学。労働問題に関心を持ち、執筆活動を行う。

【関連資料】
Adecco 道路貨物運転手を対象にした働き方に関する調査
https://www.adeccogroup.jp/pressroom/2019/1016
プレスリリース(pdf)
https://prtimes.jp/a/?c=1264&r=563&f=d1264-563-pdf-0.pdf

 

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