豪州「ワーキング・ホリデー」7割近くで最低賃金以下の報酬
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NHK News 2020年1月27日 17時30分
就労ビザがなくても外国に滞在して働くことができる「ワーキング・ホリデー」が日本で始まってからことしで40年。日本からの渡航者は対象が23の国と地域に広がるにつれて増え、年間およそ2万4000人にのぼっています。このうち半数近くを占めるオーストラリアでの就労状況について、渡航者の支援団体が経験者およそ200人に尋ねたところ、7割近くが最低賃金以下の報酬で働いたことがあり、このうち75%が雇い主への抗議などをせず泣き寝入りしていたことがわかりました。
日本は昭和55年にワーキング・ホリデーを導入し、これまでに延べ50万人以上がこの制度を利用して海外にわたっていて、学生ビザで留学するより手軽に外国に長期滞在できるとして人気があります。
ところが、日本からの渡航者の半数近くを占めるオーストラリアで低賃金労働に関する相談が相次いで寄せられていることから「日本ワーキング・ホリデー協会」は、去年までの9年間にワーキング・ホリデーでオーストラリアに渡航した日本人を対象にインターネットを通じてアンケート調査を行い、当時18歳から31歳までの男女199人から回答を得ました。
その結果、66%にあたる131人が最低賃金以下の報酬で働いたことがあり、このうち75%が「期間が決まっているので耐えられると思った」とか「仕事を失うことを恐れた」などとして雇い主への抗議などをせず泣き寝入りしていたことがわかりました。
また、雇用契約を結ぶ際契約書や同意書がなかったと回答した人が全体の39%、法律で義務づけられた給与明細を提供されたことがないと回答した人が28%にのぼるなど、日本からの渡航者が厳しい労働環境に置かれている実態が浮き彫りになりました。
一方で、全体の13%が従事していた仕事の最低賃金を知らなかったと回答するなど、現地の制度や環境を十分調べないまま渡航している現状も明らかになりました。
社会学が専門でワーキング・ホリデーに詳しいメルボルン大学の大石奈々准教授は「今回の調査は、ワーキングホリデーで働く日本人の若者の労働環境について初めて情報が得られた非常に意義あるものだ。渡航前に十分情報収集するとともに、トラブルに遭った場合は現地の関係機関に相談してほしい」と話しています。
ワーキング・ホリデーとは
「ワーキング・ホリデー」は2つの国や地域の間の取り決めに基づく国際交流の制度で、利用者は文化や生活様式を理解するため渡航先で一定期間休暇を過ごし、旅費や滞在費を補うために就労ビザがなくても働くことができます。
日本人の場合、制度を利用できるのはおおむね18歳から30歳までで、滞在中どこに住みどこを旅行してもよく、仕事をしても語学学校に通ってもいいという自由度が高いビザが発給されるため、学生ビザで留学するより手軽に外国に長期滞在できるとして人気があります。
日本は、昭和55年にオーストラリアとの間で制度をスタートさせていて、ことしで40年となります。
この間、ニュージーランドやカナダなど徐々に対象を増やし、現在は23の国や地域との間で交流が行われています。
外務省によりますと、これまでに延べ50万人以上の日本人がこの制度を利用して海外に渡ったということです。
両国の関係機関が注意喚起
ワーキング・ホリデーでオーストラリアに滞在している日本の若者の就労をめぐる問題が後を絶たないことから、日本とオーストラリア双方の関係機関が注意を呼びかけています。
このうち、今回の調査を行った「日本ワーキング・ホリデー協会」では、渡航希望者を対象に行っているセミナーで、「オーストラリアは最低賃金は高いが守らない会社もあるので、情報収集し見極める必要がある。英語力がないとちゃんとした給料をもらえる仕事には就けないので、まずは英語力を高めることが大事だ」などと注意を呼びかけています。
日本ワーキング・ホリデー協会広報担当の真田浩太郎さんは「ワーキング・ホリデーは自由度が非常に高い分、出発前の準備が大事で、しっかり準備してから渡航すればそれだけトラブルに巻き込まれる可能性が低くなる。今回の調査でどのくらいの割合の人がどういった心境で低賃金で働いているのかわかったので、今後の注意喚起にいかしたい」と話しています。
また、外務省も対策に乗り出しています。オーストラリアの日本大使館や複数の日本総領事館のホームページでは、仕事を探す際は雇用形態や最低賃金を確認し、勤務時間や給与などの記録をつけるよう呼びかけるとともに、救済機関を通じて未払い賃金を請求できることなどを紹介しています。
さらに、オーストラリア第2の都市メルボルンの日本総領事館では、事態を重く見て、去年からセミナーを開いてワーキング・ホリデーで滞在している日本人に直接注意を呼びかけ始めました。
メルボルン日本総領事館の松永一義総領事は「多くの日本人が労働搾取の被害に遭っているので問題解決に向けた対応が必要だと思った。セミナーを受けたあと現地の救済機関に相談して実際に未払い賃金を取り返したケースなどもあるので、問題があればちゃんと主張し困ったことがあれば行動を起こすことが非常に大切だ」と話しています。
一方、オーストラリア側では、日本の労働基準監督署にあたる政府機関の「フェアワーク・オンブズマン」が現地の労働関連法を理解するのに役立つ情報を無料で提供するとともに、給料の未払いなど労使間の問題の解決を支援しています。
日本語のホームページもあり、労働関連法は外国人を含むすべての労働者を対象にしていて滞在期間やビザの種類を問わず適用されることや、雇用主は労働者と最低賃金を下回る賃金で契約することはできず、労働者に給与明細を渡さなければならないこと、それに、給与は食料や衣類、住居などのサービスではなく金銭で支払わなければならないことなど、法律上で定められた労働者の権利や雇用主側の義務を解説した動画などが掲載されています。
また、電話での問い合わせにも応じていて、無料の通訳サービスを使えば日本語で担当者と話すことができます。