米ウーバーに規制の包囲網 事業成長でも市場に懸念
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO55368320X00C20A2TJC000/?n_cid=NMAIL007_20200207_Y
日経新聞 2020/2/7 11:30
〔写真〕ウーバーのコスロシャヒCEOは6日の電話会見で米カリフォルニア州や英ロンドンの当局との対決姿勢を示した=ロイター
米ウーバーテクノロジーズの成長が続いている。ライドシェアや料理宅配などの主要事業が高い伸びを維持し、2019年10〜12月期の売上高は40億6900万ドル(約4400億円)と前年同期比37%増えた。ただ、労働者の権利保護などめぐって世界各地の当局は規制強化に動いている。従来のビジネスモデルの見直しを迫られれば黒字化が遠のく恐れもある。
ウーバーの時価総額は6日の終値ベースで約630億ドル。19年5月の上場前には成長力への高い期待から1200億ドルに達するとの試算が報じられたこともあったが、市場にかつてのような高揚感はない。規制をすり抜けて急拡大したライドシェア事業に対し、当局が監視の目を強めていることが投資家の心理を冷やしている側面がある。
例えば同社のお膝元である米カリフォルニア州。20年1月、ウーバーの運転手のようにネットを介して単発で仕事を請け負う「ギグワーカー」と呼ばれる労働者らの権利を保護するための州法「AB5」を施行した。州内の企業は一部の例外を除いてギグワーカーらを従業員として扱わなければならない。ウーバーも社会保障費や残業代などの負担を迫られる可能性がある。
ウーバーは自社のライドシェアサービスなどを担う運転手らは仕事をするかどうかを自分で決められるとして、独立した個人事業主として扱ってきた。AB5の下でも従業員には当たらないと主張している。ただ、仮に従業員に分類するよう迫られた場合、州内の労務関連費用は年5億ドル増えると見込まれている。
ウーバーは同業の米リフトなどとともにAB5の改正に向けた住民投票を目指す考えを示している。19年末には運転手らとともに、州政府を相手取って訴訟を起こした。訴状でウーバーはAB5について「オンデマンド経済の労働者と企業を標的とし、抑圧するよう設計された非合理かつ違憲な法律だ」と批判し、法令が無効であることの確認などを求めた。
ウーバーに対する規制当局の関心は労働者保護に限らない。英ロンドンの交通当局は19年11月、運転手のなりすまし行為が頻発するなど、安全管理上の懸念を払拭できなかったとして同社に対する営業免許を更新しないと発表した。タクシー業界がライドシェアサービスに強く反発する南米コロンビアでも裁判所の判決を受け、ウーバーは同国でのサービスを停止すると表明している。
全社の営業損益は12四半期連続で赤字が続いているが、ライドシェア事業は付加価値の高いハイヤー配車や法人向けサービスの伸びなどによって採算が改善している。
6日の電話会見でダラ・コスロシャヒ最高経営責任者(CEO)はこれまで21年12月通期としていた調整後EBITDA(利払い・税引き・償却前利益)の黒字化の時期が20年10〜12月期に早まるとの見通しを示した。ただ、規制強化に伴う費用が増加すれば黒字化の達成が遅れかねない。
コスロシャヒ氏はロンドンでの安全管理体制について「2年前に比べ大幅に改善している」と述べ、交通当局とは裁判を通じて争う考えを示した。カリフォルニア州のAB5についても「運転手が働きたい時間を選べる自由を確保する」と話し、施行後も既存のビジネスモデルを大きく見直す考えがないと強調した。
成長のためなら規制のグレーゾーンを突くこともいとわないのがシリコンバレー流だが、時に独善的とされるテック企業に対する社会の風向きは過去数年で大きく変わった。米国内ではニューヨーク州のようにAB5をならった労働者保護のルールを検討する動きもある。仮にウーバー経営陣が社会の変化を読み間違えてビジネスモデルの現状維持に努めるようなら、その先には大きなしっぺ返しが待ち構えることになる。(シリコンバレー=白石武志)