日本再生戦略 具体性欠き見えぬ道筋

北海道新聞 2012年8月1日

バブル崩壊後、「失われた20年」と言われる長期低迷から日本経済を立て直すというが、現状認識が甘すぎるのではないか。

政府の国家戦略会議が決めた「日本再生戦略8 件」のことだ。2020年までの成長戦略をまとめ、環境、医療、農林漁業を重点分野に位置付けた。

環境、医療を軸に100兆円を超える新市場を創出し480万人以上の新規雇用を生み出すとうたう。

聞こえのよいスローガンと高い数値目標が踊っているが、総花的で具体性は乏しく、達成への道筋は見えない。

まず13年度予算で重点分野の特別枠を設け、手厚く配分する方針という。配分額は1兆円以上とされるが、中身は基本的に各省庁の既存施策の積み上げにすぎない。

「ハコモノ」建設中心のばらまきに終わる心配がある。

さらに問題なのは特別枠の財源確保のため、社会保障費も例外とせずに切り込みを検討していることだ。

社会保障の水準切り下げは、民主党の「コンクリートから人へ」の理念に明確に反する。

再生戦略は、20年度までの平均で名目成長率を3%に引き上げる高い目標を立てた。そのために例えば「分厚い中間層」の復活を掲げる。

日本の民間企業の賃金はこの15年間、ほぼ一貫して減り続けた。派遣社員やパートなどの非正規雇用者が全労働者の35%を超え、年収200万円以下の低所得者が増加。中間層は細る一方だ。

Zだが、並ぶ施策は「若者雇用戦略推進協議会の設置」や「女性の活躍促進・企業活性化推進営業大作戦の実施」。会議やPR事業で、中間層が復活するほど甘くない。

そもそも再生戦略は、国家の基本戦略自体があいまいだ。

食料自給率(カロリーベース)は20年に50%(10年度は39%)まで引き上げる一方、日本の貿易額に占める経済連携協定(EPA)の締結国の割合を80%(11年は18・6%)に高める目標を明記した。

EPAの目標達成には、多国間のEPAである環太平洋連携協定(TPP)への日本の参加が不可欠であり、食料自給率の向上と矛盾するのは明らかだ。

TPP推進派と反対派の双方に配慮したためだが、ご都合主義にすぎないか。

エネルギー政策では、国家戦略会議委員の米倉弘昌経団連会長が「脱原発依存」の方針が盛り込まれたことに強く反発している。「脱原発」も、うやむやになりかねない。

戦略なき戦略なら、抜本的に練り直すべきだ。

この記事を書いた人