東京社説 企業と賃上げ 中間層復活の役割担え

東京新聞 2013年2月18日

 安倍晋三首相が経団連などに賃金を引き上げるよう求めた。労働者の懐を温めてデフレから脱却することが狙いだ。企業には所得増→内需拡大→企業業績好転の好循環を引き寄せる重い役割がある。

 ボーナスなど、すべての給与を合わせた二〇一二年の給与総額(月平均)は前年比0・6%減の三十一万四千二百三十六円で、一九九〇年以降の最低水準。ピーク時の九七年に比べ約五万七千円も減っている。

 厚生労働省の調査結果であり、懐の寂しさを象徴する数字といえる。十年以上にもわたって名目賃金が下がり続けているのは、先進国の中では日本だけだ。消費が縮んでデフレ・低成長が常態化するのも当然と言わざるを得ない。

 家計の年収の分布は六百五十万円台以上が減って、六百万円台以下が増える低層化が著しい。消費性向の高い中間層がすっかり傷んでしまった。中間層とは「自ら働いて、人間らしい生活を営める所得層」を指すが、深刻なのはその中間層だけにとどまらない。

 生活保護世帯の中で大幅に増えたのは母子世帯などではなく、就労可能層を含む「その他世帯」だ。三人に一人に膨らんだ非正規労働者を中心に、賃金を抑え込まれて食べていけなくなっている。これではデフレ脱却は望めない。

 安倍首相は経団連などに、業績が改善した企業から賃金を引き上げるよう要請した。賃上げは個別企業ごとに決めるべきものだが、デフレから抜け出すにはやむを得ないというべきだろう。

 その根っこにあるのが、現預金二百兆円をゆうに超える企業の内部留保だ。麻生太郎財務相も「企業は給料に配分せず、ため込んできた」と経済界に賃上げを迫っているが、経団連の米倉弘昌会長らは「景気がよくなれば」などと腰を引いている。今春闘も退職金などに反映される定期昇給やベースアップを拒み、一時金や賞与の増額で収拾を図りたいようだ。

 オバマ米大統領は一般教書演説で経済再生に向け中間層の底上げを最優先課題に掲げた。安倍首相も中間層復活を日本再生の原動力として明確に位置づけるべきだ。

 経団連は基本方針に「企業は雇用の維持・拡大を実現し、国民生活を豊かにする役割を果たしている」と明確に記している。ならば手元資金をため込む内向きの経営を排し、稼いだ富のうち労働者の取り分を示す労働分配率を引き上げる度量を示してほしい。

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