ブラック企業 真相は闇 監督官不足 調査に限界

【西日本新聞】ワードBOX – 2013.12.18

 厚生労働省が「若者の使い捨てが疑われる企業」として選んだ5111企業・事業所への監督結果を公表した。ブラック企業への社会的関心は高い。厚労省は対策を続ける方針だが、最前線で違反を取り締まる労働基準監督官の数は少なく、権限も限られる。現場の監督官からは「本当に悪質な企業はまだ多数あるが、たどり着けていない」との声が漏れる。
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 長時間労働、残業代未払い、労災隠し…。監督官の守備範囲は幅広い。しかし、多くの職場で問題となっているパワーハラスメントやセクハラは直ちに違法とはいえず、取り締まりの対象外。ブラック企業が若者を退職に追い込む手口の一つにしている執拗(しつよう)ないじめには、対応しきれないのが現状だ。

 厚労省によると、監督官は全国に約3千人で、監督対象となる事業所は約430万に上る。2012年には約13万事業所を立ち入り調査。約9万事業所に是正勧告して約1100を送検したがすべてをカバーするのは無理がある。

 英国やドイツなど欧州各国に比べると労働者当たりの監督官の数は見劣りするが、全体の公務員数が抑制される中、大幅増員を見込むのは困難。田村憲久厚労相は17日の記者会見で「ブラック企業は許さない」としつつも、「(監督官の)大幅増は厚労省だけではやれない」と話した。
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 厚労省は今回、離職率の高さや過去の違反歴、労働者からの情報提供を基に、調査対象の5111事業所をリストアップ。ただ、現役監督官の一人は「労働時間や賃金の違反は改善可能な場合も多い」として、是正勧告した事業所が必ずしもブラック企業とは言えないと指摘する。

 この監督官は「委託や請負の形で働くトラック運転手などは、雇用保険や労災保険に加入できず、最低賃金も守られていない。こういう働かせ方をする会社こそが問題だ」との見方を示す。法律上の“労働者”として扱われないことが多く、労基署も実態を把握しきれない深刻なケースもあるとみている。
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 劣悪な労働条件を改善するためには労働組合の役割も重要だが、17日に厚労省が発表した調査では全体の組織率は17・7%で過去最低。中小企業では労組がない方が多く、非正規労働者の加入もなかなか進んでいない。厚労省や全国の労働局、労基署職員でつくる「全労働省労働組合」の森崎巌委員長は「労使が対等に話し合うため、職場に労組をつくるよう促していく政策も必要だ」と提案する。

 一方で、ブラック企業を見極める目を養うことに力点を置いた取り組みも進む。法政大キャリアデザイン学部の上西充子教授らは、学生向けに冊子「ブラック企業の見分け方」を作成、無料で公開している。上西教授は「学生は仕事の中身には興味を持つ。だが、企業がどう自分を働かせるかに関心を持つことも大事だ」と指摘した。

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