小林美希さん「45歳以上の正社員化は困難…この国の「氷河期世代支援」を問う これで効果があるのだろうか」 (1/14)

45歳以上の正社員化は困難…この国の「氷河期世代支援」を問う これで効果があるのだろうか
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/69742
小林 美希 2020.01.14 現代イスメディア

■就職氷河期支援の機運の高まり

2019年12月23日に「就職氷河期世代支援に関する行動計画2019」(https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/shushoku_hyogaki_shien/keikau2019/index.html)が関係府省の会議で決定され、氷河期世代への支援の気運が高まってきている。

年末年始にかけては、就職氷河期支援対策室が設置されたおひざ元の内閣府や厚生労働省でも氷河期世代を対象に12月25日から1月10日を締め切りに中途採用が募集されるなど、いよいよ具体的な支援が動き出そうとしている。

政府は就職氷河期を「おおむね1993年卒から2004年卒で、2019年4月現在、大卒でおおむね37〜48歳、高卒で同33〜44歳」と定義しており、同世代の中心層を「35〜44歳の371万人」として集中支援すると表明している。

対象は、非正規になった理由が「正社員の仕事がないから」という50万人と、非労働力人口のうち家事も通学もしていない無業者40万人など100万人。今後3年間で30万人を正社員にすると目標を掲げている。

目玉となるのは、新規事業としてハローワークに専門窓口を設置すること。相談から教育訓練、就職まで切れ目なく支援する。

加えて、就職氷河期世代向けの「短期資格等習得コース(仮)」を創設して、1〜3か月程度の期間で資格を取得。IT、建設、運輸、農業などの業界団体に委託する形で、訓練と職場体験も行い就労につなげ「出口一体型」の訓練を行う。

さらに「民間ノウハウの活用」も“ウリ”になっており、全国16ヵ所の都道府県労働力に「成果連動型」の民間委託事業を実施。民間事業者が2〜3ヵ月の教育訓練や職場実習を行い、訓練にかかる費用10万円を支給する。

就職して6ヵ月辞めずに続いた場合に民間事業者に委託費を50万円を支給。さらに6ヵ月定着した場合は成果報酬として委託費10万円が支給される。年間で1万人を対象とする。
国、都道府県に「就職氷河期世代活躍支援プラットフォーム(会議体)」を設置。そこで、行政、経済団体、業界団体などが支援について企業に周知していく。
先行して実施されている大阪、愛知、福岡、熊本以外に2020年度明け早々に10ヵ所程度でスタート。来年度中に全都道府県での設置を目指している。

■新規の施策は少ない…

2020年1月20日に召集される通常国会では、2019年度の補正予算、2020年度予算が議論される。

国は2020年度だけでも関連予算が約1300億円になるとしており、「行動計画2019」の実行に必要な予算として2019年度補正予算を含め、3年間で650億円を上回る財源が確保されるとしている。

「行動計画2019」の個別支援に関する施策に要する予算措置の概要を見ると、2019年度の補正予算案と20年度の予算案の額が示されている。

そこには、各施策が新規なのか、今までのものが継続されたのか拡充されたのかなども明記されているが、2019年度の補正予算と2020年度予算のなかで、新規で氷河期世代に絞り込んだ施策は意外と少ない。

新規事業で氷河期世代を対象としている就労支援は、「短期資格等習得コース(仮称)」の34億5500万円、「民間事業者のノウハウを活かした不安定就労者の就職支援」の13億500万円など合計すると、約108億円だった(ひきこもり支援は除く)。

予算案には、金額の横に「内数(うちすう)」が示されるものが多い。これは、全世代を支援する予算としてはいくらで、その内、就職氷河期世代の要件に合った人がいれば、その数だけ予算を消化するという意味となる。

たとえば、「教育訓練・職場実習の職業訓練受講給付金」の全体予算は20年度で61億円だが、そのうち就職氷河期世代が短期資格等習得コースを受けて給付金を受ける要件を満たした実績に応じるため現段階で数字の明記はされていない。こうした「内数」が含まれた関連予算が約1300億円というわけなのだ。

ある官僚は「予算をつけてやっています、ということを見せたい時に関連予算をまるめて出して、内数をつけることがある」と明かす。つまり、ある種の誤魔化しなのだ。

「内数」となっている施策を除いた予算案額は、2019年度補正予算で66億円、2020年度予算案で199億円となる。

業界団体を通じて船員や農業、建設、ITの資格を取得して職場体験や就職に結びつけるという「出口一体型」支援にしても、業界団体に委託するのは新たな取り組みとなるが、資格取得を促して就労支援するスキーム自体はもともと若年層やシニア層も対象の既存事業で、そこに就職氷河期世代も含んでいるというだけのもの。全世代に向けての支援を否定こそしないが、政府が強調するほど氷河期世代に特化しているわけではない。

これまでの施策に効果がなかったから氷河期世代が問題になっているのに、その既存の施策が改めて強調されていて、それで効果があるか疑問だ。

■人手不足業界に呼び込みたい?

そして、「行動計画2019」は、既存の施策が寄せ集められており、全体的に人手不足業界に呼び込みたいという意図も透けて見える。

「出口一体型」支援として、業界団体に委託して短期間で資格をとって就職に結びつけるというが、IT、建設、運輸、農業が挙げられている。

さらに、観光業、自動車整備業、建設業、船舶・舶用工業、船員等への新規就労者を増やすことも掲げられているが、いずれも超のつくほど人手不足に陥っている産業だ。

単に数合わせを行っては効果が薄くなってしまう。なぜなら、就職氷河期にも求人はあったが、常に人手不足の状態の業界が多く、早期離職も多かったからだ。

大卒就職率が史上初の6割を下回った2000年3月卒の場合、就職者総数は30万1000人で、うち男子は18万4000人(就職率55.0%)、女子が11万7000人(同57.1%)だった。

男子は「サービス業」(26.7%)、「卸売・小売り・飲食店」(23.9%)、「製造業」(20.8%)の順に多く、女子は「サービス業」(41.5%)、「卸売・小売業、飲食店」(19.3%)、「製造業」(12.7%)が多かった。

大卒就職率が55.1%と過去最低を記録した2003年3月卒も似た傾向で、いわば、これらの業界は不況でも慢性的な人手不足状態と言えるだろう。

リクルートワークス研究所「ワークス大卒求人倍率調査」を見ると、やはり不況期でも流通業(卸売・小売り)の求人倍率は大きくは鈍化していなかった。最も低かった00年でも3.19倍あり、全体平均0.99倍を大きく上回っている。

卒業後3年以内離職率を見ると、超就職氷河期だった2000年(36.5%)から04年(36.6%)までにかけて山があり、特に00年は1年目での離職が最も高い15.7%となっている。

求人があって就職できたとしても、もともと離職の高い業界が多く、直近でも卒後3年以内離職率は「小売り」で37.7%、「宿泊業、飲食サービス業」で49.7%、「医療、福祉」は37.8%という水準だ。

つまり人手不足の業界や職種に単に送り込んでも長くは続かず、安定した就労になるとはいいがたい現実があり、注意を払わなければならない。もっと人手が不足している農林水産業は外国人労働者に頼っている現状であるのに、就職氷河期世代の新たな活路として見いだせるのか疑問が残る。

■「45歳以上の正社員化は難しい」

一方で、3年間で正社員を30万人、というのは甘い目標値だろう。もともと転職するには30代はまだ比較的有利なため、今の人手不足の状況からすれば30代後半の非正規雇用159万人(2018年)のなかで、ゆうに達成できるのではないか。

そして政府の示す中心層35〜44歳で考えると問題を見誤る。45〜49歳だけで非正規社員は226万人もいて、氷河期全体の非正規社員は約600万人に上る。多くのキャリアカウンセラーが「正直、45歳以上の正社員化は難しい」と口を揃える状態だ。それを見越してなのか、政府が「集中支援して30万人を正社員にする」という対象に40代後半が入っていないのだ。

東京しごと塾の17年度の就職決定者の実績を年齢階級別に見ても、30〜34歳が41.4%、35〜39歳が25.0%、40〜44歳が33.6%で全体として30代前半が高く、支援対象は44歳までとなっている。支援が最も必要でかつ困難な40代後半を丁寧に支援する必要がある。

そもそも、なぜ就職氷河期世代が取り残されたかといえば、不況のなかで経済界から要請されるまま雇用の規制緩和を行い、非正規雇用を生み出す構造を作ったからであって、雇用を劣化させた国の責任は大きい。

それにもかかわらず、依然として経済界の圧力から、国は雇用の規制緩和を行い続けている。就職氷河期世代の不安定雇用と規制緩和は表裏一体の関係にあり、就職難は規制緩和20年の歴史と重なる。非正規雇用を拡大させる法制度があるということは、バケツの底に穴が空いているところに就職氷河期支援という水を注ぐようなものだ。

この根本的な労働法制の規制緩和を強化していくことなしに、氷河期世代の支援を行っても効果は限定的ではないか。

 

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