(Interview)「学歴分断社会、吉川徹・大阪大院教授に聞く」 (2/6)

学歴分断社会、吉川徹・大阪大院教授に聞く
https://www.chunichi.co.jp/article/feature/manabu/list/CK2020020602000253.html
中日新聞 2020年2月6日 朝刊

〔写真〕「現実の人生ゲームのルールを知っておく必要がある」と語る大阪大大学院の吉川徹教授=大阪府吹田市で

 「学歴による社会の分断が進んでいる」−。調査結果をもとに警鐘を鳴らす大阪大大学院の吉川徹教授に、大卒・非大卒を巡る現状やこれから進路を決める中高生の留意点を聞いた

 −学歴を巡る現状は。

 私たちが実施した社会調査を分析すると、日本の総人口のほぼ半分を占める二十〜五十代の現役世代の学歴は、大卒と非大卒の比率がほぼ半々です。この大学に進学するかどうかの選択がその後の人生を大きく決定づけ、分断を生み、それが世代を超えて繰り返され始めています。この分断が教育格差や若者のワーキングプア、子どもの貧困などさまざまな問題の根本にあることが見えてきました。
アメリカのトランプ大統領の誕生や欧州連合(EU)離脱を巡るイギリスの国民投票など、各国で明るみに出ている社会の分断は、日本でも静かに、確実に進行しつつあるのです。

 −非大卒の若者を「LEGs(レッグス)(Lightly Educated Guys)」と名付けました。

 高校や専門学校で将来設計に必要な知識や技能を手早く身に付けて社会に出る「軽学歴」という意味合いで、大卒はお金や時間がかかる「重学歴」です。
人口減少などで地方の消滅が懸念される中、高校卒業後も地元に残るLEGsは地域のコミュニティーを支える貴重な存在でもある。なのに十分にサポートを受けられず、切り捨てられようとしています。
格差や地方消滅などの問題は、大卒層のことだけを考えていても解決できず、余計にひどくなるかもしれません。大卒層と非大卒層は日本社会という飛行機を支える両翼なのです。

 −「国は大卒層の人生イメージしか提示していない」と批判していますね。

 国が推進する大学無償化も「成功するためには大学に行くべきだ。お金がないなら国が出す」というメッセージと言えます。受験や就職など世の中の仕組みもほとんどが大卒前提で、就職情報の提供やインターンシップ(就業体験)の受け入れなども充実しています。非大卒層にはそれがありません。少なくとも同じぐらい厚みのある支援を十八歳の高校生にも用意しないと対等ではないでしょう。

 −中高生は進路をどう考えればいいですか。

 大学に進学すれば、ふらふらしていても卒業時には「大卒」の学歴を得られる。一方、非大卒の場合、同じようにふらふらしていると、大卒の学歴がある人たちに労働市場で勝てません。政策的な支援がほとんどありませんから。
高卒時に就職や専門学校を選ぶ人こそ、十八歳の時点で自分なりの戦略を持っていなければいけません。非大卒の道を選ぶなら、「車の技能者として働く」とか「絶対ネイリストになる」など、「大学進学よりも大事な人生の歩み方を見つけた」と明確に語れることが必要です。

 −大学進学を目指す人や大学生はどうですか。

 大卒層を勝ち組と考える人がいるかもしれませんが、考え違いをしてはいけない。果たす社会的な役割は異なっても、上下関係はありません。非大卒層を社会を支えるもう一人の自分と考え、互いに尊重し、共生していく必要があるでしょう。
(河原広明)

 <きっかわ・とおる> 1966年、島根県生まれ。専門は計量社会学、学歴社会論。2015年実施の「階層と社会意識全国調査(SSP調査)」の研究代表者。著書に「日本の分断」「学歴分断社会」など。
 

この記事を書いた人