第207回 今度の総選挙では賃金の引き上げも重要な選択肢として投票しましょう。

明日はいよいよ総選挙の投票日です。マスコミでは自民党圧勝・民主党惨敗の予想が報じられていますが、各種の世論調査の4割前後は「無党派層」で、その半数は投票先を決めていないとも言われています。

今回の選挙では、原発、消費増税、憲法が大きな争点になっています。私はストップ原発、ストップ消費増税、ストップ憲法改悪を明確に掲げる政党の議席が大きく伸びることを願っていますが、今回はきわめて重要でありながらあまり語られていない賃金引き上げの課題について述べたいと思います。

安倍自民党は、賃金の引き上げはまったく言わず、旧態依然とした成長路線に固執して、3%の成長目標と2%のインフレ目標を掲げ、超金融緩和や公共事業拡大で言い立てて、保守的なエコノミストからも、政策の暴走ぶりが疑問視されています。

民主党は、2009年の総選挙では、「最低賃金の全国平均1000 円を目指す」と公約していました。ところが政権獲得後は、この公約は2010年5月には、2020年までの目標に変更され、事実上棚上げにされました。さらに、2012年7月には、小宮山洋子厚労大臣(当時)が参議院特別委員会で、2020年までに時給1000円に引き上げるという目標さえ「達成は困難」と答弁しました。

雇用・労働政策に関しては、野田内閣よりまだましであったともいえる菅内閣にしても、賃上げについては語ろうとしませんでした。2010年9月に閣議決定された菅内閣の「新成長戦略実現に向けた三段構えの経済対策」には、雇用という言葉が91回使用されていますが、賃金という言葉は1回たりとも出てきません。

日本維新の会の経済政策は、「名目成長率3%以上」「物価上昇率2%」を掲げている点で自民党そっくりです。同党が「最低賃金制の廃止」を公約に掲げたことは第205回に述べました。賃金の歯止めなき下落を招く政策に対して多方面から強い批判が噴出したことから、1週間もせずに引っ込めて、「市場メカニズムを重視した最低賃金制度」の導入と言い換えました。

これは同党の浅田均政調会長が言うように「公約変更でなく表現を変えただけ」です。「市場メカニズムを重視」するというのは、政治の原理よりも市場の原理を優先させ、賃金の決定を「労働市場における労働力の売り手と買い手の競争」に委ねるということですから、結局、最低賃金制度を廃止することにほかなりません。労働者を賃金奴隷に追いやるようなこんな危ない政党に、労働者の生活を委ねることはできません。

今回の総選挙では各党は「デフレ脱却」を掲げていますが、民主、自民、公明、維新の政策ではデフレを克服することはできません。

デフレの原因は雇用の非正規化による賃金の長期的な下落にあります。現在の日本のデフレスパイラルは、賃金下落→個人消費の縮小→販売不振→設備投資の減少→物価下落→企業収益の悪化→賃金下落というサイクルを描いている点で、賃金の持続的下落によって引き起こされたものです。別掲の図は、世界の先進国でこの10年あまりのあいだに名目賃金が長期にわたって低下してきたのは日本だけあることを示しています。ここではOECD加盟34ヵ国のうち7ヵ国だけを見ましたが、34ヵ国のすべてを比較しても、長期の賃金下落が起きているのは日本だけです。

経済理論から見ても、デフレ脱却のためには賃上げが不可欠です。第103回「賃上げなしにデフレ脱却はできない」で紹介したように、富士通総研の根津利三郎氏は「わが国が長期のデフレを克服するためには、他の先進国と同様に賃金の緩やかな上昇を安定的に維持していくことが肝要である」と述べています。白川日銀総裁も、最近の講演で、デフレからの脱却のためには「賃金の引き上げを実現していく、という実体的な変化を起こすことが不可欠です」と語っています。

今度の総選挙で「働く人の所得を増やせ」と主張し、デフレ不況から抜け出すためには賃金の引き上げが必要であることを明確に主張しているのは共産党だけです。私はこの1点を重視して政党選択をしたいと思います。

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