第120回 若年労働者の雇用対策にもディーセントワークの理念を

昨年末の更新からずいぶん日にちが経ってしまいました。締め切りの過ぎた原稿に追われてのこととご了解ください。

前回は「雇用戦略対話」の「合意」を取り上げて、その「新卒者等雇用対策の推進」の項について評価しながら、「合意」には見過ごせない問題があると言いました。

問題はほかでもなく雇用の創出、それも評価するとした「新卒者等雇用対策」に関連しています。この対策には二つの雇用奨励制度が設けられています。一つは、事業主に「正規雇用での雇入れから6ヵ月経過後に(1人)100万円を支給」するというものです。これは正規雇用の奨励という点ですっきりしています。

もう一つは「3年以内既卒者トライアル雇用奨励金」です。これは卒業後3年以内の既卒者を、原則3ヵ月間の有期雇用として雇い入れ、その後に正規雇用で雇い入れた事業主に、3か月の有期雇用期間に1人月額10万円、正規雇用で雇い入れ後に1人50万円支給するというものです。これは、「有期雇用終了後、対象者が正規雇用へ移行しなかった場合でも、原則として有期雇用期間は奨励金の支給対象」とされている点で、有期雇用の奨励策であるとも言えます。

実は、「トライアル雇用」はほかにもあって、その一つでは、事業主は、「原則3か月間の試行雇用(トライアル雇用)を行うことにより、対象となる労働者の適性や業務遂行可能性などを実際に見極めた上で、トライアル雇用終了後に本採用するかどうかを決めることができ」、「試行雇用期間に対応して、対象労働者1人あたり月額4万円(最大12万円)の奨励金を受け取ること」になっています。これはまさしくお試し雇用=テスト雇用奨励策です。

そういう事情があるからでしょうか、昨年12月の「雇用戦略対話」の「合意」における「新卒者等雇用対策」の項目には、「正規雇用」という言葉はありません。言葉の問題でいえば、昨年9月に発表された菅内閣の「新成長戦略実現に向けた三段構えの経済対策」には、「雇用」という言葉が91回使用されていますが、「賃金」という言葉は1回も出てきません。前述の「合意」では、雇用という言葉は56回出てきますが、賃金は2回しか出てきませ。「未払賃金立替払制度」で1回、「最低賃金」で1回です。

民主党は最低賃金の全国平均額(加重平均)が713円だった09年の総選挙で「全国平均1000円を目指す」ことを公約に掲げました。これは次の総選挙までに達成するという公約だったのでしょうから、1年にせめて70円は引き上げられてしかるべきですが、昨年の実際の引き上げ額は17円でした。これでは1000円になるには16年もかかります。「合意」は「最低賃金引上げにより最も影響を受ける中小企業に対する支援を行う」としていますが、最低賃金は公約にほど遠い17円増に留まっているのですから、引き上げが聞いて呆れると言わざるを得ません。

ILO(国際労働機関)は、近年、その活動の基本的理念としてディーセントワーク(まともな仕事)の実現をうたっています。それは「権利が保護され、十分な収入を得られ、適切な社会的保護が与えられる生産的な仕事」のことです。最低賃金さえ下回るような賃金の仕事や、過労死する恐れのあるほど長い労働時間の仕事は、とうていディーセントとは言えません。そうである以上、雇用政策にはたとえ緊急対策であろうと、働きつづけられるまともな賃金や労働時間が企業には求められていることが明記されるべきです。

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