第88回 派遣法の改正法案は抜け道だらけのざる法案

厚労省は、労働者派遣法の改正法案を3月19日に閣議決定し、同月29日に今通常国会に提出しました。法案とその解説とは同省のHPに出ています。囲みの引用にも示されているように法案は、事業規制の強化、派遣労働者の無期雇用化や待遇の改善、異法派遣に対する迅速・的確な対応などが柱になっています。
 
常時雇用される労働者以外の労働者派遣や製造業務への労働者派遣を原則として禁止するとともに、派遣労働者の保護及び雇用の安定のための措置の充実を図る等、労働者派遣事業に係る制度の抜本的見直しを行う。
 事業規制の強化 ←いわゆる「派遣切り」の多発や、雇用の安定性に欠ける派遣形態の横行
・登録型派遣の原則禁止(専門26業務等は例外)
・製造業務派遣の原則禁止(常時雇用(1年を超える雇用)の労働者派遣は例外)
・日雇派遣(日々又は2か月以内の期間を定めて雇用する労働者派遣)の原則禁止
・グループ企業内派遣の8割規制、離職した労働者を離職後1年以内に派遣労働者として受け入れることを禁止
派遣労働者の無期雇用化や待遇の改善←派遣労働者の不透明な待遇決定、低い待遇の固定化
・派遣元事業主に、一定の有期雇用の派遣労働者につき、無期雇用への転換推進措置を努力義務化
・派遣労働者の賃金等の決定にあたり、同種の業務に従事する派遣先の労働者との均衡を考慮
・派遣料金と派遣労働者の賃金の差額の派遣料金に占める割合(いわゆるマージン率)などの情報公開を義務化
・雇入れ等の際に、派遣労働者に対して、一人当たりの派遣料金の額を明示
違法派遣に対する迅速・的確な対処←偽装請負などの違法派遣の増加、行政処分を受ける企業の増加
違法派遣に対する迅速・的確な対処←偽装請負などの違法派遣の増加、行政処分を受ける企業の増加
・違法派遣の場合、派遣先が違法であることを知りながら派遣労働者を受け入れている場合には、派遣先が派遣労働者に対して労働契約を申し込んだものとみなす
・処分逃れを防止するため労働者派遣事業の許可等の欠格事由を整備
派遣労働者の無期雇用化や待遇の改善
 
※そのほか、法律の名称に「派遣労働者の保護」を明記し、「派遣労働者の保護・雇用の安定」を目的規定に明記。
 
この解説によれば、法案は、登録型派遣や製造業における「「派遣切り」の多発や、「雇用の安定性に欠ける派遣形態の横行」に対処するために、表向きは派遣労働の規制強化をうたっています。しかし、条文をみると、「専門26業種」を規制から除外するなど、「登録型派遣の原則禁止」とはほど遠いものになっています。
 
第26回の講義(2010/1/27)でも述べたように、「専門26業務」は、事務用機器操作、ファイリング、建築建物清掃、受付・案内・駐車場管理など、専門的技能を要さない単純業務が含んでいます。人数比でみれば、「専門26業務」従事者の過半数は単純業務という調査もあります。「専門26業務」を除外した今回の法案は、最初から抜け道を用意したざる法案もいいところです。
 
法案は、労働者派遣事業を行ってはならない業務に物の製造に関わる業務を追加するかたちで、製造業派遣の原則禁止をうたっています。にもかかわらず、「常時雇用」の労働者派遣を例外として、製造派遣にも大きな抜け道を設けています。ここでいう「常時雇用」は、解説では「1年超える雇用」とされていますが、これは「常用雇用」とはまるで異なるものです。そもそも登録型派遣においては仕事があるときだけ「雇用」されるのですから、それがどれだけ繰り返されても、継続的・安定的「雇用」ではありません。「常時雇用」の概念は、厚生労働省の労働者派遣事業関係業務取扱要領の規程*を見ても、きわめてにあいまいでいいかげんです。
                                                   
*厚労省による「常時雇用」の定義
?期間の定めなく雇用されている者
?一定の期間(例えば、2か月、6か月等)を定めて雇用されている者であって、その雇用期間が反復継続されて事実上?と同等と認められる者。すなわち、過去1年を超える期間について引き続き雇用されている者又は採用の時から1年を超えて引き続き雇用されると見込まれる者
?日日雇用される者であって、雇用契約が日日更新されて事実上?と同等と認められる者。すなわち、?の場合と同じく、過去1年を超える期間について引き続き雇用されている者又は採用の時から1年を超えて引き続き雇用されると見込まれる者

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