第154回 これはルールなき新卒採用の究極のかたちです

数日前の「朝日新聞」にユニクロの新卒一括採用について、次のような記事が出ていました。

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ユニクロ、新卒一括採用を見直しへ 大学1年で採用も

「朝日新聞」2011年11月19日 

カジュアル衣料最大手のユニクロを展開するファーストリテイリングは、来年にも大学新卒の一括採用を見直す検討に入った。従来の慣行にとらわれない採用方式が、企業に広がる可能性がある。柳井正会長兼社長が朝日新聞のインタビューで明らかにした。
 
現在、同社は国内では年1回採用を行っている。新しい方法では、採用時期を通年とし、選考する学年も問わない方式を検討している。柳井氏は「一括採用だと、同じような人ばかりになる。1年生の時からどういう仕事をするか考えて、早く決められる方がいい」と話す。
 
具体的には、1年生の時点で採用を決め、在学中は店舗でアルバイトをしてもらい、卒業と同時に店長にするといったコースが想定されるという。

また、現在は外国人社員は主に各国の店舗などで働いているが、東京勤務の外国人も増やし、3〜5年後には東京本部の社員の約半数を外国人にする考えという。現在の日本の採用形態では、東京本部が必要とする多様な人材を取りにくいことも、採用方法変更の背景にあるとみられる。
 
一括採用の見直しは、ネスレ日本が今年9月、学年にとらわれない通年の採用を始めた。初回は約500件弱の応募があったという。(高重治香)

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最近では企業による学生の採用活動の開始時期があまりに早期化して、学生と大学教育に大きな困難をもたらしています。私は先頃出た拙著『就職とは何か――〈まともな働き方〉の条件』(岩波新書)のなかで、3年生の秋に本格化する就活の現状とその見直しの動きを検討しました。ユニクロ(ファーストリテイリング)の見直し案は、経済界が遅ればせながら早期化の是正に向かい始めたこととは反対に、「1年生の時点で採用を決め、在学中は店舗でアルバイト」をさせるというものです。

hamacyan、こと濱口桂一郎氏は「これって、高卒で採用して、管理職になるまでの4年間の養成期間は大学に通わせてあげる、というのとどう違うのだろう……それを「高卒」採用としないために、わざわざ大学1年になってから採用するというわけかな」とコメントしています。労働基準局の監督課長のキャリアもある濱口氏には、ついでに「これって、労基法からみてどうなの」と訊いてみたいところです。

私の素人考えでは、大学1年生でも、ユニクロに限らずどの企業とであれ正社員として労働契約を結ぶことはできます。社会人学生の多くは大学に入学する前から定職に就いています。また1年生のときから、学生たちは大小無数の企業とアルバイト契約を結んで働いています。

しかし、3年後に正社員にするという条件で、卒業までの期間をアルバイトとして働く/働かせるという拘束的な契約は無効だと考えられます。もちろんアルバイトの労働契約を結ぶことはできますが、それに3年先に正社員として採用するという約束を盛り込むことは、将来の不確かな約束を条件に現在はアルバイトとして働くことを強制することになる点で、無効と考えられます。労働条件の明示義務に照らしても、3年先の「初任給」を明示できるかどうかは疑問です。

日本の主だった企業のほとんどは、年々定期的に、高校や大学の新卒者を卒業よりかなり前に採用内定してきました。この日本企業独特の定期採用(新卒一括採用)制度は、今日、さまざまな面で見直しが迫られていますが、ユニクロの新方針は歯止めなく早期化してきた企業の採用活動の弊害を是正するものではなく、「ルールなき新卒採用」を極限まで推し進めようとするものです。

ユニクロを擁するファーストリテイリングは、英語を社内「公用語」にするという方針が嫌われて、「2012年卒大学生の就職人気ランキング」で、前回の63位から262位と199位もダウンしたと伝えられています。おそらく、今度の1年生から新卒採用・アルバイト就労という新方針も、就活生からは手ひどく嫌われるでしょう。

ファーストリテイリングの柳井正社長は「3〜5年後には東京本部の社員の約半数を外国人にする」というのですから、日本人学生がきてくれなくてもかまわないと考えているのでしょうか。

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