第157回 書評? 西谷 敏『人権としてのディーセント・ワーク』

西谷 敏『人権としてのディーセント・ワーク――働きがいのある人間らしい仕事』旬報社、2000円

「まともな働き方」を4つの視点で探る
 
本書は労働者の味方の労働法学者による、雇用と労働の現状とあり方に関する平易な概説である。

「ディーセント・ワーク」とは「働きがいのある人間らしい仕事」という意味での「まともな働き方」のことである。著者はこの言葉を標題に入れることにずいぶん躊躇したという。それは、この実現が今日のILO(国際労働機関)の最大の課題であることは知られてきていても、カタカナ英語としては、セクハラやワーキングプアほどには定着していないからである。

それだけではない。日本の労働者は、雇用でも、賃金でも、労働時間でも、あまりに酷い状況に置かれてきたために、まともな働き方とその権利について語ることは、決定的に重要でありながら、絵空事のような印象を与えかねない。その点に著者がこの言葉を標題に使用するのをためらったいま一つの理由がある。

にもかかわらず、この言葉をあえて主題に据えたことは、規制緩和で壊れた労働法の世界を四次元映像で見る効果を本書に与えている。

第一に、ディーセント・ワークが手の届かない理想ではないことを言うための憲法の視点。本書によれば、ディーセントな働き方とは、労働基準法にいう「人たるに値する」働き方であるが、それは憲法に保障された勤労の権利、個人の尊重、幸福追求権、生存権、法の下の平等、自由権、自己決定権などの人権が要請する働き方にほかならない。

第二に雇用不安の深刻化と非正規労働者の急増に焦点を合わせた現状分析の視点。これによって本書は、労働法の退屈な概説ではなく、労働者の置かれた状況の生き生きとした説明と労働者の権利の知って役立つ基礎知識を与えてくれる。

第三にまともな働き方の国際基準の視点。たとえばEU諸国では、年休は30日前後あり、そのほとんどが消化され、2週間以上の連続休暇が一般化していることがわかる。

第四にブラック企業や内定切りも見逃さない最新の視点。これをも含め、評者一押しの一書である。

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