第307回 広がる新入社員の自衛隊研修は見過ごせない大問題です

4月4日のNHKニュース(首都圏)は、新潟県の北越銀行がこの春就職したばかりの新入社員69人を研修目的で上越市の自衛隊駐屯地に3日間の体験入隊をさせたと伝えています。これは規律の厳しい自衛隊で集団行動の大切さを学び、学生気分から抜け出し、社会人としての一歩を踏み出すために行われるのだそうです。

新入社員の自衛隊研修はめずらしいものではないのに、なぜいまニュースになるのでしょうか。3月29日に戦争法が施行され、自衛隊が殺し殺される軍隊になってからの最初の新入社員研修だったからではないかと推測されます。しかし、先のニュースは奇妙なことにそのことにはまったく触れていません。ニュースを文字で読んで印象に残るのは、NHKが新入社員の自衛隊研修にまったく無批判であることです。

昨年9月16日の「しんぶん赤旗」によると、2014年度の1年間に企業研修で自衛隊に体験入隊した労働者は1万3041人のぼるそうです。防衛省が共産党の吉良よし子参院議員事務所に回答したものです。同じ記事は、防衛省が2013年に、民間企業の新入社員に対する2年間の自衛隊入隊制度を検討していたとも伝えています。

企業の社員研修は、業務に関係するものと、関係ないものとに大別されます。銀行員の自衛隊研修が銀行の業務に無関係であることはいうまでもありません。銀行に限らず企業は、新入社員に「社会人」としての「自覚」を持たせることは業務遂行に必要だと言うかもしれません。

私がYou Tubeで見た陸上自衛隊下志津駐屯地の取材報道では、2泊3日の日程で、千葉県内3企業の79人の新入社員が迷彩服を着て軍靴を履き、怒声が飛ぶ中で、基礎教練や行進訓練をさせられていました。2日目のように早朝から深夜に及ぶ研修は、たとえ昔の日本軍のようにビンタやリンチがないとしても、「しごき研修」あるいは「スパルタ研修」と言えます。

企業による「しごき研修」は、古くは寒冷の五十鈴川での「みそぎ研修」のような例が知られています。ネットには餃子の王将が、神奈川県の山中にある施設で、軍隊のような生活を5日間送る「ブラック研修」を行っていたという情報も出ています。

それにしても企業はなぜわざわざ自衛隊で新入社員研修を行わせるのでしょうか。費用が安く、食事代やその他の経費を入れても1人1日2000円ほどで済むからです。業者に委託すればおそらくその何倍もかかるでしょう。また、自衛隊にとっては社員研修の受入は広報活動の一環でもあるからです。自衛隊に対する抵抗感をなくしたり、隊員募集への理解を広めたりするために、国費による出血サービスの研修を行っていると考えられます。

ごり押し戦争法の影響で、自衛隊員の応募者数が減少しています。また、防衛大学校を卒業しても自衛官にならない任官拒否者が増えています。このように自衛隊はいままで以上に「嫌われる軍隊」になってきていますが、そうなればそうなるほど、さまざまなルートを通じた自衛隊の売り込みも強まっていると言わなければなりません。それだけに、いま止めなければ自衛隊に研修に行かされる労働者は1万人台にとどまらず、2万人台あるいは3万人台に増える心配もあります。また、2〜3日の研修ではなく、徴兵制並みに2〜3年入隊し、銃を持っての行進や射撃訓練もさせられるということもありえるかもしれません。そうした徴兵制への地ならしにつながる恐れのある新入社員の自衛隊研修は見過ごせない大問題です。

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