毎日社説: 集団的自衛権 根拠なき憲法の破壊だ

毎日新聞 2014年05月16日

 憲法9条の解釈を変えて集団的自衛権の行使を可能にし、他国を守るために自衛隊が海外で武力行使できるようにする。安倍政権は日本をこんな国に作り替えようとしている。

 安倍晋三首相の私的懇談会「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)が、集団的自衛権の行使容認などを求める報告書を提出した。法制懇の委員14人は、外交・安全保障の専門家が大半で、憲法学者は1人だけだ。全員が行使容認派で、結論ありきといえる。

 歴代政府は、憲法9条を次のように解釈してきた。

 ◇9条解釈の180度転換だ

 9条は戦争放棄や戦力不保持を定めているが、自衛権までは否定していない。しかし、自衛権行使は必要最小限度の範囲にとどまるべきだ。個別的自衛権は必要最小限度の範囲内だが、自国が攻撃されていないのに、他国への武力攻撃に反撃できる集団的自衛権の行使は、その範囲を超えるため憲法上許されない。

 つまり個別的自衛権と集団的自衛権を必要最小限度で線引きし、集団的自衛権行使を認めてこなかった。

 報告書はこの解釈を180度変更し、必要最小限度の中に集団的自衛権の行使も含まれると解釈することによって行使を認めるよう求めた。

 これは従来の憲法解釈の否定であり、戦後の安全保障政策の大転換だ。それなのに、なぜ解釈を変えられるのか肝心の根拠は薄弱だ。

 報告書は根拠材料として、9条の政府解釈は戦後一貫していたわけでなく、憲法制定当時は個別的自衛権の行使さえ否定していたのが、自衛隊が創設された年に認めると解釈を大きく変えたことを指摘している。

 現在の憲法解釈は歴代政府が30年以上積み上げ、国民に定着したものだ。戦後の憲法解釈が定まっていない時代に変遷を遂げた経緯があるから、変えてもいいというのは理屈が通らない。その時々の内閣が憲法解釈を自由に変えられるなら、憲法への信頼は揺らぐ。憲法が権力を縛る立憲主義にも反する。

 それでも行使できるようにしたいというのなら、国会の3分の2の賛同と国民投票という手続きを伴う憲法9条改正を国民に問うのが筋だ。

 何のために行使を認めるのか、現実に必要があるのかも明確でない。

 報告書は、中国や北朝鮮情勢など厳しさを増す安全保障環境を指摘し、「安全保障環境の大きな変化にかかわらず、憲法論の下で安全保障政策が硬直化するようでは、憲法論のゆえに国民の安全が害されることになりかねない」と警告した。

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