日経社説 旧姓使用認めぬ判決への疑問

日経WEB 2016/10/16
http://www.nikkei.com/article/DGXKZO08426720W6A011C1PE8000/

 釈然としない判決である。東京都内の私立学校に勤める女性教諭が結婚後も職場で旧姓を使いたいと学校側に求めていた裁判で、東京地裁が教諭の訴えを退けた。

 判決は旧姓の使用が法律上保護される利益であると認める一方で、「旧姓を戸籍姓と同じように使うことが社会に根付いているとまではいえない」という判断を示している。

 ちぐはぐな印象が否めず、社会の流れを理解していないとらえ方といわざるを得ない。

 確かに旧姓がすべての職場で使えるわけではない。しかし状況は、確実に変わりつつある。たとえば国家公務員は2001年から職員録など広い範囲で旧姓を使うことができる。政府は5月、女性活躍のための重点方針に「旧姓使用の拡大」を盛り込んだ。マイナンバーカードや住民票も旧姓が併記できるようになる。

 旧姓が根付いていない根拠の一つとして判決は、既婚女性の7割以上が職場で主に戸籍名を使っているとのアンケート調査をあげた。だが旧姓は希望する人だけが使えばいいものであり、この数字をもって定着していないとするのは説得力に欠ける。

 今回の判決は15年12月の最高裁判決とも食い違う。

 最高裁は民法の夫婦同姓規定を合憲と判断した。その理由としてあげたのが、旧姓を通称として使うことの広がりだ。改姓により女性は、心理的にも、社会的な信用維持の面でも不利益を受ける。だがこの不利益は、通称使用で一定程度は緩和される。そういう論理だ。今回とは逆の見方になる。

 この最高裁判決では、15人の裁判官のうち5人が夫婦別姓を認めないのは違憲とした。結婚後の姓を巡る考え方が今まさに変化のさなかにあることがうかがえる。

 そもそも選択的夫婦別姓が実現すれば今回のような問題は生じない。結婚後の姓のあり方は本来、国会や社会で考えていくべきテーマだ。地裁判決を改めて議論を深める契機にしたい。

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