第216回 大学生の就活自殺は放置できません

(大学生の就活自殺問題については本講座の第179回にも似たようなタイトルで書きました。問題の重要性から『年金時代』に寄稿した拙稿を転載します)。

社会保険研究所 『年金時代』2013年3月号(No.622)随筆 

一昨年の秋、衆議院議員会館で「過労死防止基本法制定実行委員会」の結成総会が開かれました。その冒頭で私は短い基調報告を行い、ちょうど同じ頃に出た小著『就職とは何か――〈まともな働き方〉の条件』(岩波新書)を紹介するなかで、若者の過労自殺の増加に関連して大学生の就活自殺が急増していることに触れました。

2006年に自殺対策基本法が成立し、警察庁の自殺統計が整備され、学生・生徒についても自殺の原因・動機別の内訳が詳しく示されるようになりました。それによると、「就職失敗」による大学生の自殺が07年から10年の間に13件から46件に増えています。

 学生たちのなかには、数十社から百数十社におよぶ会社に応募し、一つの内定さえとれずに希望も自信も失ってしまい、疲労困憊してついには自分を否定するしかない状態に追い込まれてしまう者もいます。

ネット上で自殺宣言をして思い止まったというある就活生は、「つらくてつらくてつらくてしょうがないのです。ESを出して、説明会に行って、面接を受けて、作り笑顔をして、思ってもない志望理由をいって、面接官に値踏みされて、『お前は価値のない人間だ!』と通告されることには、もう、耐えられません」と書いています。

2011年は、就活自殺は若干減っていますが、就職問題に関わりの深い「進路に関する悩み」や「学業不振」を苦にしての自殺が顕著に増加しています。また、11年は、「勤務問題」のなかの「仕事疲れ」による大学生の自殺が四件もあることが注目されます。「ブラック企業」の横行が問題になるなかで、大学生のアルバイト環境も悪化していることがうかがえます。

 様々な理由による大学生の自殺総数は、このところ毎年500件を超えています。2012年『自殺対策白書』(内閣府)は「我が国における若い世代の自殺は深刻な状況にあり、15〜39歳の各年代の死因の第一位は自殺となっている」と指摘しています。大学生協共済連の給付データでも大学生の死亡原因のトップは自殺であることが明らかになっています。

最近では、中学生や高校生の自殺が大きな問題になっています。しかし、就活自殺を含め大学生の自殺が社会問題になることはまずありません。その理由としては、被害・加害関係が不明確で背景がとらえにくい、家庭も大学もそっとしておきたいか隠したい、取材が困難であるといった事情が考えられます。

大学の対応もないわけではあません。しかし、多くはメンタル不調に対する精神的ケアにとどまっていて、就活自殺対策は手つかずの状態です。

大学生の就活自殺問題をこれ以上放置することはできません。この問題ではまずもって大学の取り組みが求められています。就活生を打ちのめす圧迫面接をなくすには、企業の面接マニュアルの適正化も必要です。

今では15歳から24歳の若年者の2人に1人は非正規労働者です。それだけに就職環境の改善に向けた政府の取り組みの強化も急がれます。

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