新型コロナを理由にした「ロイヤルリムジンタクシー」大量解雇事件 (4/12)

 新型コロナ感染症の拡大が止まりません。安倍政権が、「新型インフルエンザ等対策特措法」に基づいて、4/8、緊急事態宣言をしました。同じ日、東京の「ロイヤルリムジンタクシー」がグループ会社を含め、約600人の運転手を解雇するという衝撃的なニュースが流れました。予定された東京オリンピックが中止され、新型コロナ拡大によって乗客が大きく減っていた状況が広がる中で、緊急事態宣言による休業要請などが出ようとする中での大量解雇ということで、国会でもこの事件が取り上げられています。今後の動向が大いに注目されます。
 法的にも多くの問題がある「大量解雇」です。以下、メディアやSNSなどで報じられている事実と、会社側・労働側の言い分、専門家から指摘されている問題点を含めて、現段階(4/12)の状況を整理してみました。

◆当事者
 会社:ロイヤルリムジン(東京都江東区)(金子健作社長) →Home Page
 ・東京都内のタクシーなど6つの会社(ロイヤルリムジングループ)
  ●ジャパンプレミアム㈱/江東区亀戸、● 目黒自動車交通㈱/東京都目黒区、● ㈱東京シティエスコート/東京都新宿区、● ㈱一二三交通自動車/東京都練馬区、●ロイヤルリムジン東京株式会社/東京都中央区)を運営、● オリエンタルタクシー㈱/兵庫県神戸市
 労働組合:
  自交総連・目黒自動車交通労働組合(全労連):目黒自動車交通(210人)
  他の会社には、労働組合なし。
  今回の解雇を機に、日本労働評議会(労評)が相談を受け、組合結成。

◆経過
〇4/8 「ロイヤルリムジン」(解雇)退職発表
 屋外に集められた約80人の従業員を前に、金子健作社長は「非常に重い決断をしました。4月7日付で全員を解雇するという形をとらせていただきました」(J-cast、4/10)
 グループ会社を含む約600人のタクシー運転手を退職させる方針発表(赤旗、4/12)
 運転手など従業員550人全員に解雇を言い渡した。(J-cast、4/10)
〇4/9 会社が労働者に「退職同意書」を書かせる。解雇でなく「合意退職」であると主張(労評HP)
〇4/11 日本労働組合評議会(労評) 労働者から相談を受け、複数人が労評に加盟し、即日、会社に対し、組合結成通知と「解雇撤回」を求め団体交渉の申入れ。(労評HP)
〇4/11 目黒自動車交通で会社説明会。自交総連・目黒自動車交通労働組合(全労連)は、雇用調整助成金を活用して雇用を維持するよう要求。
 金子社長は、「会社都合でやめていただく」「解雇」とは言わず、解雇予告手当なしで「退職合意書」へのサインを求める。 「11月には営業を再開し再雇用したい」 (組合員の雇用継続要求に)「運行継続が総意であれば、そっちの方向に切り替える。話を聞いて最終決断する」、15日に回答。(赤旗、4/12)

◆会社側文書

 ロイヤルリムジングループ社員の皆様へ

 この度、政府より緊急事態宣言が出されることになりました。
それに対し、当社は生き残りをかけ、一旦事業を休止することを決断しました。
 具体的な方策は現場より説明いたしますが、混乱の中少しでも早く、皆様が円滑に失業手当をもらえるために決断したしだいです。また、政府からの30万円の給付金もしかりです。

 タクシー事業の休業補償は歩合給と残業の給与体系のため、失業手当より不利なためこの選択をしました。

 各関係者とグループへの説明のため私は今奔走しており、皆様に直接伝えるべきこと、申し訳ありませんが、取り急ぎまずは書面にてお知らせとさせていただきます。また、一日も早く説明に参りますので、どうかご理解いただき、手続きへのご協力をお願い致しします。今後も、取りうる手段の中で一番の対応をしていきますので、どうかご理解ください。

 長い人生の中で土砂ぶりの時もあるものです。神戸の震災で友人をなくし、家業もなくし、家も全壊となりましたが、私の家は復活しました。私にはその復活のDNAが流れています。
 皆様とたった10台から一緒にこの会社を作ってきました。皆様にお約束いたします。必ず生き残り、皆様の職場を完全復旧できるように、私の人生をかけて戦います。
 そして完全復旧した暁には、みんな全員にもう一度集まっていただき、今まで以上に良い会社を作っていきたいと思います。

 ロイヤルリムジンは永久に不滅です。

 かならず皆さん、再開しましょう!

2004年4月6日
ロイヤルリムジン株式会社
代表取締役 金子健作

◆会社側主張
〇新型コロナウィルス感染症の拡大に伴う業績悪化
〇雇用保険を受給できるようにするため(金子健作社長)
 金子社長は「このまま続けていくと、去年まで40~50万円の給料があった方が、10万円台になってしまう状況にある。失業給付をもらう方が今の収入より高い」と説明する。(J-cast、4/10)
 今回一斉解雇という選択をした理由については、休ませて休業手当を支払うより、解雇して雇用保険の失業給付を受けたほうがいいと判断したと説明しています。(弁護士ドットコム、4/10)
〇感染から労働者を守るため
 堀江一生・専務取締役はきのう9日、「グループの中の1ある会社は平均年齢が62歳で、70歳を超える社員もいます。会社の業務によって、(新型コロナの感染が広がっている)街中に働きに行かせて殺してしまうかもしれない。(解雇することで)そこから守るということもありました」(J-cast、4/10)
〇同社が出した「ロイヤルリムジングループ社員の皆様へ」と題した紙では、「当社は生き残りをかけ、一旦事業を停止することにしました。完全復旧した暁には、全員にもう一度集まっていただき、良い会社を作っていきたい」とあります。(弁護士ドットコム、4/10)
〇同社は、「解雇ではない!」と強弁し、労働者に「退職同意書」を書かせ、「合意退職」であると主張(労評HP)

◆労働側主張
〇「退職合意書がないと離職票が出せない」とウソをついて労働者に無理やり書かせた。真意から退職に同意していない(労評HP)
〇「業務をやらないから仕事がなし」という説明通りならば、会社都合の「解雇」。当然、「離職票」を出す必要(労評HP)
団交要求の内容
①「解雇撤回」 ②入社時に約束した「保障給」の支払い
の2点〔「保障給」=入社から3か月間は最低保証給として月○○万円を支払う約束〕(労評HP)
〇役員は残して、労働者だけを全部首にし、再建資金を残して、事業復活が社長の本音(労評HP)
〇「家族を含めた1800人の未来がかかる」のに社長として無責任=目黒自動車交通の労働者(65歳)、「雇用保険だってもらえない人がいる。雇用を継続すべきだ」=組合員(赤旗、4/12)
〇労組のない他のグループ会社では、仕方なく退職合意書へのサインに追い込まれた人も
 定時制(非正規)運転手として別のグループ会社に約10年勤める男性(73)は、サインさせられた。「決して退職に納得しているわけではない」「年金だけで暮らせないから働き続けてきた」「この年で仕事が見つかるか不安」(赤旗、4/12)

◆問題点 解雇の使用者責任
 労働弁護団の指宿昭一弁護士、「新型コロナにより企業が追い詰められていることの象徴だが、労働者も追い詰められている。最後の最後まで解雇を避けるのが、使用者の責任だ」と話し、解雇はあくまで最終手段であると強調(弁護士ドットコム、4/10)
 使用者側の倉重弁護士「個別の企業でカバーできる限界を超えている」「これまでとはフェーズが違う」(弁護士ドットコム、4/10)

◆問題点 雇用保険の不正受給では
 髙橋知典(弁護士)「かりに、失業保険を受給するためだけの目的で偽装的な解雇を行っているとしたら、不正受給にあたる可能性もあります」(J-cast、4/10)
 厚労省雇用保険課、「(再雇用前提の場合、失業給付を受け取れるか)「一般論」だが、「元の会社に戻るということで、別の仕事を探すつもりがない場合、失業状態にあると言えない」「原則として、4週間に1度、失業状態にあることの確認」が要件(弁護士ドットコム、4/10)
 東京労働局職業安定部担当者、「そもそも受給資格が認められない」「雇用保険の受給資格を有する方の定義は、現に元の会社と雇用に関する契約が完全に失効していて『積極的に求職活動をし、いつでも就職可能』な環境にある方。元の会社に早期に戻ることが約束された状態では、そもそもこの受給資格を満たしていません。
 ただ一度、受給資格が決定した後に、『他の会社に対して求職活動を行ったが、本人の意志で元の会社に戻った』ということであれば判断は難しい。ただ悪質な場合は不正受給と見られる可能性もあります。報道の内容が事実だとすれば、雇用保険の主旨にはそぐわないと思います」(Business Journal、4/9)

◆問題点 解雇予告なし
 即時解雇の場合、労働基準法は使用者に、30日分以上の平均賃金を解雇予告手当として支払うよう義務付けている。しかし、会社側は「資金がないので払えない」と拒否(赤旗、4/12)

◆問題点 「雇用保険の失業給付の方が良い」は本当か
 休業手当がさかのぼって3ヶ月間に支払われた賃金の総額を期間の総日数で割ったもの
 雇用保険の失業給付は、退職前6カ月の賃金合計を180日で割った数の5〜8割が給付
 倉重弁護士「タクシー業界はこの数カ月売り上げが減っている」「半年で計算する失業給付の方が良いと考えたのではないか」(弁護士ドットコム、4/10)

◆問題点 社会保険切れ、勤務の継続証明なし→開業の許可を受けられない
 自交総連目黒自動車交通労働組合に加入する男性(45)は、個人タクシーの独立開業をめざし、準備を進めていました。 開業許可を得るためには、タクシー会社への10年以上の勤務などが必要とされます。退職となった場合、社会保険が途切れ、勤務の継続を証明できずに許可を受けられない事態に直面することになります。(赤旗、4/12)

【出典】
□東京のタクシー会社、全乗務員600人解雇へ 自粛影響(朝日、4/8)
□ロイヤルリムジン、全乗務員一時解雇し失業保険勧める→労働局「受給資格を満たさず」(Business Journal、4/9)
□タクシー会社「ロイヤルリムジン」ついに全員解雇!街に人がいなくなって売り上げ半減(J-cast、4/10)
□ロイヤルリムジンの「一斉解雇」が波紋…「休業手当より失業給付の方が良い」って本当?(弁護士ドットコム、4/10)
運転手が「全員解雇」の撤回を要求 都内のタクシー会社(朝日、4/11)
□ロイヤルリムジン株式会社に「解雇撤回」を求め、団体交渉を申し入れ!(日本労働組合評議会(労評)HP、4/12)
□コロナで退職押しつけるな ロイヤル社長に抗議 組合「雇調金で雇用守れ」(赤旗、4/12)

この記事を書いた人