コロナ5類以降後の福祉労働者(障碍者雇用)の「出勤停止」休業補償の一例

 ある障碍を持ちながら、働くXさんの話である。京都市のある老人介護施設で働いている。就労継続A型事業所で雇用契約を結んでいる。就労継続A型の障害者雇用で働く労働者、要は、支援を受けながらであるが、非常勤で働く労働者である。雇用されて5年を超えると無期転換も可能な労働契約である。

<コロナに罹ったら10日間出勤停止>

 Xさんは、2023年8月のある木曜日にコロナを発症した。その日のうちに受診し、コロナ陽性を事業所に報告した。とにかく、解熱寛解するまでは休むことを連絡した。
 金曜日には熱が下がり始め、土曜日にはほぼ解熱し、回復に向かい始める。20代のXさんの回復は早かった。
 土曜日に職場の管理責任者から電話がかかってきた。Xさんの親御さんはその話を聞いて仰天する。Xさんは障碍があり込み入ったことは親御さんが代わりに話していた。Xさんの親御さんは解熱報告と職場への復帰の相談をするが、管理責任者Yさんは「発症した日から10日間は出勤できない」と言う。コロナが5類に移行した時期に無条件で10日間の出勤停止とはどういうことだろうか、と。

<京都市内で有数の老人介護施設>

 この老人介護施設は、京都市内に施設を展開する大法人である。`コロナが蔓延し始めた頃の京都市内で一番早い時期に、クラスターが発生し利用者が何人か亡くなっている。新聞やニュースにもなった施設である。そういう意味では、社会的に対応に変化がある中で、10日間の出勤停止を打っていることも理解はできる。しかし、その10日間は無給である。

<解熱寛解後の在宅勤務・労基が言っている「休業補償はしなくていい」>

 Xさんの親御さんは、「解熱寛解した後」の出勤停止にする法的根拠を問うた。感染症法にも労働法にも法的根拠がないのではないか、と問うた。すると、管理者のYさんは「在宅勤務の仕事を用意します」と言ってくれた。
 ところが、日曜日になりYさんから電話があり、月曜日までは在宅勤務もできない、とのことであった。Xさんは土曜日には回復して日曜日には元気になっていた。月曜日からは「在宅勤務ができる」と意欲満々であった。ところが月曜日には在宅勤務ができないとのことである。Xさんの親御さんが理由を聞くと「労務が労基署に問い合わせたところ、労基署がコロナ発症から5日間は出勤停止で休業補償はしなくていいという見解を出している」とのことである。時系列から考えてもちょっと妙な感じであるが、Xさんの親御さんは、公的機関がそのように言っているのであれば、火曜日からは在宅勤務にして下さい、と申し入れた。管理者Yさんも了承し、Xさんは火曜日から金曜日まで在宅勤務をする。もちろん、木・金(土日はもともと休み)月と3日間の有給休暇を取得する手はずになっていた。

<「労基署見解」は職員の勘違い>

 ところが、9月20日に事態は紛糾する。管理者Yさんから突然、Xさんの親御さんに電話がかかってくる。内容は「労基署云々というのは間違いでした。」Yさんは「自分の勘違いで説明してしまいました」と言い始める。そして、Xさんの発症5日目の「月曜日」は労基法上の休業補償の対象にすると説明し始める。Xさんの親御さんは、「そもそも無給として、さらに労基署が出勤停止については5日とお墨付きを与えている、というから有給休暇にした。法人の説明が間違っていたなら、全額補償するべきではないのか」と抗議する。ただ、Yさんは若い責任者で労基法や労働基準監督署などの知識があるはずがなく、労務の誰かがいい加減なことを言ったのではないか、と思われた。Yさんがあまりに自分の責任と言うので、Xさんの親御さんは、「6割補償」を受け入れ、4割分は時間休暇を取れないか、と提案した。Yさんは上司に相談したが、法人上層部で判断せざるを得ない事案として、「時間をください」と言ったため、しばらく時間を取ることとなった。

<5類以降後まで遡って労働条件を変更>

 11月中旬になり法人より返事がないために、Xさんの親御さんは問い合わせる。一週間ほどしてからYさんから連絡があった。
 法人回答として、6割補償のみとすると決まったとのことである。Xさんの親御さんは、回答当初は「11月に決定したものを8月に遡ることは、後出しジャンケンなのではないか」とYさんに話す。しかし、「全職員に対する方針を10月に決定していた」とYさんが説明したことから、見解を改める。
 詳細を聞いていくと、内容は「5月のコロナ5類以降時点に遡り、出勤停止期間の無給扱い期間について労基法上の6割補償を適用する。ただし、年次有給休暇を申請するものはこの限りではない」とするものであった。

<法人職員約900名の労働条件が動いた>

 この法人は、8月まではコロナ陽性者に対しては、「無給の出勤停止10日間」を平気でルールとして運用していた。しかし、ある障碍雇用の労働者のコロナ感染を起点に全職員のコロナの出勤停止期間の取り扱いを変えることとなったのである。多くの労働者は有給休暇を取得し、給与を満額得るかもしれない。しかし、有給休暇の少ない非常勤労働者は「無給で泣き寝入り」していたのかも知れない。コロナ感染によって有給休暇を消化してしまい、やむを得ず欠勤せざるを得なかった労働者が6割補償で有給消化をしなくてもよくなるかも知れない。ひとりの障害者雇用の労働者、支援者が声を上げることで、従業員900名近くの労働条件が変更されたのであった。

この記事を書いた人

伏見太郎