韓国大統領選、雇用増や格差解消訴え 2強の文氏と安氏

 
 【ソウル=鈴木壮太郎】5月9日投開票の韓国大統領選は17日から正式な選挙戦に入った。韓国は所得格差が広がり、若者は就職難に悩む。世論調査の支持率で拮抗する最大野党「共に民主党」の文在寅(ムン・ジェイン)前代表と、野党第2党「国民の党」の安哲秀(アン・チョルス)前共同代表は同日、そろって雇用創出や格差解消を訴えた。

安哲秀氏は朴前大統領の抗議で市民が集まったソウル市の光化門で第一声を上げた

「政権交代の門は大邱(テグ)から開きます」――。



文氏が最初の遊説地に選んだのは大邱市だ。朴槿恵(パク・クネ)前大統領の地元であり、保守の地盤だ。2012年の前回大統領選で朴前大統領に敗れた文氏にとっては不利な地域だ。あえてここから選挙戦を開始することで「地域対立を乗り越え、全国から支持される大統領になる」(共に民主党関係者)とのメッセージを発信した。


一方の安氏は首都ソウルの中心部、光化門(カンファムン)を第一声の地に選んだ。友人による国政介入疑惑が浮上した朴前大統領を糾弾する大規模集会が開かれた“聖地”だ。


安氏はベンチャー企業経営者出身。前回の大統領選では清新なイメージから若者が熱狂的に支持したが、今回は革新色の強い文氏を敬遠する保守層も支持しており、支持層は50〜60歳代が中心だ。安氏は「国民が求める改革を必ず実現する」と強調。若者の支持を取り戻す狙いだ。


韓国は経済成長率が4年連続で2%台の低成長にとどまり、若年層(15〜29歳)の失業率は昨年9.8%と過去最悪の水準にとどまった。中小企業の給与はサムスンなど大企業の半分にすぎず、社会は格差拡大に不満を募らせる。そんななか、大統領と財閥の政経癒着疑惑が明らかになり、世論は一気に現職大統領の罷免に追い込んだ。


両候補の公約はそんな社会の空気を色濃く映している。文氏は17日、「雇用100日プラン」を発表。雇用創出に最優先に取り組むと宣言した。安氏も重工業、自動車、IT(情報技術)に続く「第4次産業革命」を実現させると強調。中小・ベンチャー企業がその主役になると訴えた。


財閥改革も文氏、安氏に共通するテーマだ。文氏はサムスン、現代自動車、SK、LGの「4大財閥に集中する」とし、労働者の経営参画などを進める。安氏も公正取引委員会の権限を強化し、財閥による独占・寡占を厳しく監視する方針だ。


両者の経済政策は実は大筋では大差がない。あえていえば、文氏が公共部門の雇用を増やすなど政府の役割を強調する一方、安氏が民間主導を訴えている程度だ。


政策で大きな違いを打ち出しにくい両候補の戦いは、非難合戦の様相もみせている。文氏、安氏とも親族の就職を巡る疑惑で攻撃され、そろって否定している。


韓国メディアの世論調査によると、両者は現時点でほぼ互角か、文氏が僅差で優勢との見方が多い。17日付中央日報の世論調査では、文氏38.5%、安氏37.3%と大接戦を演じている。同日付朝鮮日報の調査では、文氏36.3%、安氏31.0%だった。
 

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