ヤマト、夜間専門ドライバー新設へ 「残業を大幅減」

 朝日DIGITAL 2017年9月28日

http://digital.asahi.com/articles/ASK9X3R7QK9XULFA00F.html

宅配便最大手のヤマトホールディングス(HD)は28日、2019年度末までの中期経営計画を発表した。違法な長時間労働が常態化した宅配現場の負担を軽減するため、夜間配送に特化したドライバーを新設して残業時間を大幅に減らす「働き方改革」を柱に据えた。ただ、人手不足が加速するなか、計画実現へのハードルは高い。社内外から計画の実効性を疑問視する声が出ている。

「我々にはインフラとしての社会的使命がある。働き方改革を実行し、社会、社員に利益を還元できる企業グループにする」。ヤマトHDの山内雅喜社長は計画を発表する記者会見でそう強調した。

荷物量の急増や人手不足といった経営環境の激変を受け、2016年度末に公表する予定だった中期経営計画の発表は半年延期された。この日公表した計画は「働き方改革」を最優先の課題に掲げ、残業時間を正社員は半減、パートは大幅に抑制するとした。労働時間や休日、給与体系を選べる制度も設ける。働き方改革に関連し、約1千億円の費用が発生すると見込む。

18年度までは荷物量を抑制し、その間に宅配事業の構造改革に挑む。改革の柱になるのが、インターネット通販の普及で荷物量が増えている夜間や、宅配ロッカーへの配送を担う「配達特化型ドライバー」の新設だ。7時間勤務の契約社員として、19年度までに1万人超を確保する計画だ。正社員のセールスドライバー(SD)が早く帰れるように負担を軽減する狙いだ。

燃料費や人件費の変動を法人客の運賃に反映しやすくする仕組みの導入も正式に表明した。人件費の上昇が続くなか、一度決めると運賃が数年間固定される今の仕組みを改め、「継続的に運賃を上げられるシステムにする」(山内氏)。運賃決定方法の見直しなどで荷物量を17年度に18・3億個、18年度に17・7億個、19年度に18・4億個にする計画だ。当面は16年度(18・7億個)より少ない水準に抑制する。(石山英明、森田岳穂)

■「値上げだけでは難しい」

ヤマトHDは荷物量の抑制に向け、9月末を目標に、大口の法人客約1千社と値上げなどの交渉を進めてきた。すでに8割超と交渉を終えたという。最大顧客のアマゾンとの交渉内容について、山内氏は「個々の取引状況は申し上げられない」と言及を避けたが、あるヤマト関係者は「最初から取引を継続する前提で話し合い、値上げも理解を得られた」と明かす。アマゾンの当日配送は当面は引き受けず、態勢が整ってから再開する予定だという。

法人客との交渉で誤算だったのは、値上げに応じる企業が多かったことだ。「ヤマトなしでは物流は回らないとみんな分かっている」(首都圏の運送会社長)ため、荷物量の抑制は思ったほど進まなかった。17年度に8千万個減らす計画は、すでに3600万個に下方修正している。18年度の目標は17・7億個。ネット通販の荷物が今後も増えると見込まれるなか、達成は簡単ではない。物流コンサルタントの角井亮一さんは「ヤマトの決意は明確だが、荷物量の抑制は値上げだけでは難しく、大口取引先への総量規制も進めないと難しいのでは」と見る。

人手不足の中で「配達特化型ドライバー」を計画通り確保するのも難しい。関東の営業所では今月、夜間配達のドライバーを探すよう通達があったが、見つかっていないという。荷物量は春からほぼ横ばい。男性SDは「残業半減はかなり難しいのでは。半分くらいのSDは『どうせ何も変わらない』と無関心になっている」と話す。(贄川俊、上地兼太郎)

■ヤマトHDの中期経営計画の主な内容

・残業時間を正社員は半減、パートは大幅に抑制

・大口法人客との契約見直しにより2018年度までは荷物量を抑制。その間に宅配事業の構造改革を進め、19年度以降の荷物の取り扱い個数は拡大基調に

・夜間の配達を専門に手がけるドライバーを導入。パートからの転換や新規雇用で1万人超を充てる

・宅配ロッカーの整備やコンビニ受け取りの拡充などにより、自宅外での受取率を10%に引き上げる

・燃料費や人件費などの変動を反映できる法人客向けの新運賃体系を導入

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