東京新聞 社説 パワハラ対策 労使で意識の共有を (9/24)

社説 パワハラ対策 労使で意識の共有を
https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2019092402000128.html
東京新聞 2019年9月24日

 パワハラ防止を定めた女性活躍・ハラスメント規制法が今年五月に成立した。来年から順次、事業主に防止策が義務付けられる。実効性ある対策となるよう各企業は取り組みを進める必要がある。

 働きやすい職場にするにはパワハラやセクハラ、妊娠出産を巡るマタニティーハラスメントなどの被害防止は不可欠だ。

 厚生労働省の二〇一八年度の労働相談状況によると「いじめ・嫌がらせ」など、パワハラ関連の被害者などからの相談は八万件を超え、過去最高を記録した。各相談内容の中でも最も多い。

 セクハラやマタハラ対策は既に義務付けられているが、パワハラ防止策が義務付けられたのは初めてだ。パワハラは働く人の尊厳を傷付け、健康被害も招く。退職を余儀なくされる場合もある。被害実態を考えると法制化は当然だ。

 規制法は事業主に相談体制の整備などの防止策を義務付けた。大企業は二〇二〇年四月から、中小企業は二二年から適用される。

 パワハラは(1)優越的な関係を背景に(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により(3)就業環境を害する−の三つをすべて満たすことが要件とされた。

 使用者側は「パワハラと上司の適切な指導との線引きは難しい」と主張するが、被害を防ぐには、何がパワハラに当たるのかを明確にする必要がある。

 明確な線引きについて労使双方が認識の共有に努めるべきだ。労使が納得して防止に取り組まなければ、被害はなくならない。

 厚労省はパワハラの具体例や企業が講ずべき措置などは指針で定める方針だという。雇用関係のないフリーランスなども含めて幅広く保護の対象に位置付け、指針をまとめてほしい。

 規制法の課題は、パワハラを罰則を伴う禁止規定にしなかったことだ。実効性が問われる。

 六月、国際労働機関(ILO)総会で、職場のハラスメント禁止条約が採択された。どんなハラスメントも許さないとの考えが国際基準だろう。

 日本政府は、条約の批准には禁止規定などを講じる必要があるとして慎重姿勢だ。ILOは日本政府に早期の批准を求めており、批准に向けた国内法整備などの検討を避けて通るべきではない。

 パワハラ被害は企業にとっても損失である。職場からどうやって被害をなくすのか、その意識の共有が進めば、罰則を伴う禁止規定などへの理解も広がるはずだ。

 

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