嶋田佳広(佛教大学)「住居確保給付金は機能しているのか??」(6/16)

新型コロナ感染症によって仕事を失うだけでなく、住居まで失う人が少なくありません。
そうした中で、「住居確保給付金」が注目され、政府もその運用を改善して要件を緩和しています。
しかし、「住居確保給付金」とはどのようなものか? 専門的な論究はまだ見られません。
そこで、社会保障法専攻で、公的扶助、住宅扶助に詳しい嶋田佳広さん(佛教大学教授)に寄稿していただきました。
(主著)『住宅扶助と最低生活保障―住宅保障法理の展開とドイツ・ハルツ改革』(法律文化社 2018)
    〔第21回「損保ジャパン日本興亜福祉財団賞」<受賞>〕

住居確保給付金は機能しているのか??

                           嶋田佳広(佛教大学)

はじめに

 先般テレビで、非正規雇用の女性がインタビューされており、ここ2ヶ月仕事はまったくなく、収入は途絶え、預金通帳は残額1,000円あるかないか、このままでは家賃が到底払えそうにない、と頭を抱えている様子が報道されていました。一定程度は圧縮可能な食費や水光熱費と違い、家賃に代表される固定費は、生活圧迫の主たる原因です。以下、あまり耳慣れない住居確保給付金という制度から、昨今の課題を考えてみたいと思います。

(1)予算措置から社会保障給付に「成長」した住居確保給付金
 コロナショックを遡る12年前、リーマンショックが世界を襲いました。日本でも、職と住居を一度に失う例が各地で相次ぎ、対応すべき労働法や社会保障の仕組みの不十分さが露呈しました(「年越し派遣村」)。当時の麻生内閣において補正予算が組まれ、「住宅手当緊急特別措置事業」が緊急的に設けられました。予算措置という体面ではあるものの、住宅手当という名前の仕組みが日本全体で実施された、おそらく史上初のことであったと思います。そしてこの住宅手当は、同じく予算措置による住宅支援給付と名前を変えたのち、現在の住居確保給付金となっています。

   住宅手当緊急特別措置事業(2009年10月~2012年度):「住宅手当」
   住宅支援給付事業(2013年度~2014年度):「住宅支援給付」
   生活困窮者自立支援法(2015年度~):「生活困窮者住居確保給付金」

 すなわち、もとは予算措置(「事業」)から始まった金銭給付が、ついには法的根拠を獲得したわけです。生活保護による住宅扶助を除くと、住宅に直接関わる唯一の給付であると思われます。

 住宅手当創設当時の制度枠組みは、以下のようなものでした。すなわち、平成19年10月以降に離職した者(かつ離職前に主たる生計維持者であった者)であり、就労能力があり求職申し込みをしている、住宅を喪失しまたは喪失するおそれのある者に対して、一定の収入・資産要件(例えば単身世帯月収8.4万円以下(直後に13.8万円以下に引き上げ)、預貯金50万円以下)のもと、生活保護の住宅扶助特別基準額に準拠した金額を上限に最長6ヶ月間(最長で9ヶ月間)支給する、という具合です。

 この枠組みは、住宅支援給付でもさほど変わらず、法制化された住居確保給付金では、対象年齢が65歳未満、支給期間が原則3ヶ月となっていることを除くと、基本的なスキームは維持されています。

 簡単にイメージするとすれば、失業状態にあり、資産や所得などかなりきつい要件をクリアしてようやく、生活保護の住宅扶助に準じた金額を上限に短期間お金が支給される、という感じです。

(2)住居確保給付金の積極的活用を!
 この住居確保給付金は、登場当初の住宅手当時代は、年間で3万件前後の利用があったものの、その後ピークアウトし、2018年度は全国で5,283件となっています。予算も17億円計上されているに過ぎません。生活保護のもう一つうえの制度を作ろうという当初の意気込みからすると、現在の政策の「本気度」が問われざるを得ません。実際には、最後のセーフティネットである生活保護が拡大・高止まり傾向にあったことを考えれば、事実上、生活困窮者自立制度がスルーされて生活保護にダイレクトにつながっている、といったほうが現状認識としては正確のような気がします。
 そうこうするうちに、この新型ウイルスがやってきました。住居確保給付金についても動きが出ており、ハローワークへの求職申し込みがひとまず不要とされるなど、使い勝手の上昇が期待されています。コロナは待ってくれないので、家賃の支払いに窮している人は、三密に注意しつつ、どんどん役所の窓口をたたいてほしいと思います。

 全体の数字はまだ出ていませんが、仙台市では今年度の申請件数がすでに450件に達し、昨年度1年間の11倍に、北海道全体で4月228件(昨年同月3件)、5月849件(昨年同月8件)、那覇市では4月106件(昨年同月2件)、京都市でも5月までに1400件近くの申請があったことが報道されています。国においても補正予算が組まれています。

 しかし住居確保給付金はつなぎに過ぎません。思うに、このコロナ禍で、店子が家賃が払えないからといって無慈悲に追い出しても、大家にとってもほとんど意味がありません。じゃあ大家に無収入を迫ればいいのかというと、それも違うように思います。ローン付き住宅についても同じようなことが当てはまるでしょう。住居の利用形態に適切に対応させた、家や住まいを全体として支える仕組みを、公衆衛生上の危機や巨大災害対策ともあわせて、トータルに考えるべき時期が来ています。

関連のサイト・情報

厚生労働省の特設サイト(住居確保給付金) 

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