厚労省、2019年度「過労死等の労災補償状況」を公表(6/26、6/28更新)

厚生労働省が、2019年度(令和元年度)の「過労死等の労災補償状況」を公表しました。
脳・心関係では、請求件数は年々増加していますが、支給決定(業務上認定)件数は大きく下がり続けています。
この点では、昨年にも労働行政が認定を厳しくしているという問題点指摘がありましたが、それがさらに強まったのではないかと思われます。
また、精神障害関係では、請求は5年間にほぼ倍増しており、とくに20歳代の増加が目立っています。この間、電通事件以来、大企業で入社間もない社員がパワハラを受けて自殺する例が続いています。日本企業は、若い世代の社員を追い込まないように、「労働尊重」の就労環境を実現することが重要です。今月から施行されている「パワハラ防止法」は不十分ですが、職場ごとに、本気でパワハラ規制を強めることが必要だと思います。

令和元年度「過労死等の労災補償状況」を公表します

 厚生労働省は、本日、令和元年度の「過労死等(※1)の労災補償状況」を取りまとめましたので、公表します。
 厚生労働省では、過重な仕事が原因で発症した脳・心臓疾患や、仕事による強いストレスが原因で発病した精神障害の状況について、平成14年から、労災請求件数や、「業務上疾病」と認定し労災保険給付を決定した支給決定件数(※2)などを年1回、取りまとめています。

(※1) 「過労死等」とは、過労死等防止対策推進法第2条において、「業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡若しくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡又はこれらの脳血管疾患若しくは心臓疾患若しくは精神障害をいう。」と定義されています。
(※2) 支給決定件数は、令和元年度中に「業務上」と認定した件数で、令和元年度以前に請求があったものを含みます。

【ポイント】
 過労死等に関する請求件数は2,996件で、前年度比299件の増となった。
 また、支給決定件数は725件で前年度比22件の増となり、うち死亡(自殺未遂を含む。)件数は前年度比16件増の174件であった。

1 脳・心臓疾患に関する事案の労災補償状況

(1) 請求件数は936件で、前年度比59件の増となった。【P3 表1-1】
(2) 支給決定件数は216件で前年度比22件の減となり、うち死亡件数は前年度比4件増の86件であった。【P3 表1-1】
(3) 業種別(大分類)では、請求件数は「運輸業,郵便業」197件、「卸売業,小売業」150件、「建設業」130件の順で多く、支給決定件数は「運輸業,郵便業」68件、「卸売業,小売業」32件、「製造業」22件の順に多い。【P4 表1-2】
業種別(中分類)では、請求件数、支給決定件数ともに業種別(大分類)の「運輸業,郵便業」のうち「道路貨物運送業」144件、61件が最多。【P5 表1-2-1、P6 表1-2-2】
(4) 職種別(大分類)では、請求件数は「輸送・機械運転従事者」185件、「専門的・技術的職業従事者」127件、「サービス職業従事者」114件の順で多く、支給決定件数は「輸送・機械運転従事者」68件、「専門的・技術的職業従事者」と「サービス職業従事者」26件の順に多い。【P7 表1-3】
職種別(中分類)では、請求件数、支給決定件数ともに職種別(大分類)の「輸送・機械運転従事者」のうち「自動車運転従事者」177件、67件が最多。【P8 表1-3-1、P9 表1-3-2】
(5) 年齢別では、請求件数は「50~59歳」333件、「60歳以上」294件、「40~49歳」248件の順で多く、支給決定件数は「50~59歳」91件、「40~49歳」67件、「60歳以上」42件の順に多い。【P10 表1-4】
(6) 時間外労働時間別(1か月または2~6か月における1か月平均)支給決定件数は、「評価期間1か月」では「120時間以上~140時間未満」33件が最も多い。また、「評価期間2~6か月における1か月平均」では「80時間以上~100時間未満」73件が最も多い。【P13 表1-6】

2 精神障害に関する事案の労災補償状況

(1) 請求件数は2,060件で前年度比240件の増となり、うち未遂を含む自殺件数は前年度比2件増の202件であった。【P15 表2-1】
(2) 支給決定件数は509件で前年度比44件の増となり、うち未遂を含む自殺の件数は前年度比12件増の88件であった。【P15 表2-1】
(3) 業種別(大分類)では、請求件数は「医療,福祉」426件、「製造業」352件、「卸売業,小売業」279件の順に多く、支給決定件数は「製造業」90件、「医療,福祉」78件、「卸売業,小売業」74件の順に多い。【P16 表2-2】
業種別(中分類)では、請求件数、支給決定件数ともに業種別(大分類)の「医療,福祉」のうち「社会保険・社会福祉・介護事業」256件、48件が最多。【P17 表2-2-1、P18 表2-2-2】
(4) 職種別(大分類)では、請求件数は「専門的・技術的職業従事者」500件、「事務従事者」465件、「サービス職業従事者」312件の順に多く、支給決定件数は「専門的・技術的職業従事者」137件、「サービス職業従事者」81件、「事務従事者」79件の順に多い。【P19 表2-3】
職種別(中分類)では、請求件数、支給決定件数ともに職種別(大分類)の「事務従事者」のうち「一般事務従事者」339件、49件が最多。【P20 表2-3-1、P21 表2-3-2】
(5) 年齢別では、請求件数は「40~49歳」639件、「30~39歳」509件、「20~29歳」432件、支給決定件数は「40~49歳」170件、「30~39歳」132件、「20~29歳」116件の順に多い。【P22 表2-4】
(6) 時間外労働時間別(1か月平均)支給決定件数は、「20時間未満」が68件で最も多く、次いで「100時間以上~120時間未満」が63件であった。【P24 表2-6】
(7) 出来事(※)別の支給決定件数は、「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」79件、「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」68件、「悲惨な事故や災害の体験、目撃をした」55件の順に多い。【P26 表2-8】
※「出来事」とは精神障害の発病に関与したと考えられる事象の心理的負荷の強度を評価するために、認定基準において、一定の事象を類型化したもの

3 裁量労働制対象者に関する労災補償状況

令和元年度の裁量労働制対象者に関する脳・心臓疾患の支給決定件数は2件で、すべて専門業務型裁量労働制対象者に関する支給決定であった。また、精神障害の支給決定件数は7件で、すべて専門業務型裁量労働制対象者に関する支給決定であった。【P27 表3】
※ 詳細は別添資料をご覧ください   
別添資料1 脳・心臓疾患に関する事案の労災補償状況[PDF形式:3.5MB]
別添資料2 精神障害に関する事案の労災補償状況[PDF形式:2.3MB]
別添資料3 裁量労働制対象者に関する労災補償状況[PDF形式:119KB]

【関連情報】
精神障害の労災申請 過去最多 “パワハラなどのストレス原因”(2020.6.28 NHK)
 専門家「経営者が真剣に対策進めるべきだが意識は変わらず」
 労働問題に詳しい龍谷大学の脇田滋名誉教授は、過労自殺が増加している要因について「特に精神疾患の労災はここ数年増加が著しく、新入社員やそれに近い人たちが自殺に追い込まれている。上から強制する、命令する、長時間労働をいとわないといった働かせ方が企業に根強く残っており、それを反映している」と話しています。
 そのうえで「働き方改革関連法が施行され、本来であれば経営者が真剣に対策を進めるべきところだが、意識は変わっていない。人間らしい労働時間で働くには、仕事量にあう人員を確保するといった考え方を広めていく必要がある」と指摘しています。
労災申請、7年連続で過去最多 7割は精神障害が原因(2020.06.26朝日)
新ストップ! 過労死 2019年7月21日 発行 全国ニュース 第8号

この記事を書いた人