安倍晋三・自民党総裁「無制限の金融緩和」 果たして…劇薬か、良薬か

毎日新聞 2012年12月10日 東京夕刊

 非正規雇用の問題や厳しい就職状況を訴えるため東京都内で行われたデモ行進。雇用状況の改善より、インフレが先行すれば、生活を直撃しかねない=塩入正夫撮影 新聞各社の総選挙予想で、優勢が伝えられている自民党。その同党の安倍晋三総裁が思い切ったデフレ対策を主張している。「無制限の金融緩和」。しかし、異論も多い。果たして良薬か、劇薬か。何より家計にはどう影響するのか。【内野雅一】

 ◇賃金上げる政策必須

 4854円。1回当たりの忘年会予算だ(ぐるなび調べ)。昨年冬より500円ほど増えた。「昨年は東日本大震災による自粛傾向で低かった。今年はその反動」のようで、庶民の懐が温かくなったわけではない。

 この冬のボーナス(パートを含む民間企業)は1人当たり平均で36万6500円(三菱UFJリサーチ&コンサルティング調べ)。前年より1・6%少なく、過去最低を4年連続で更新した。「所定内給与の低迷に加え、2012年度上期の企業の経常利益が伸び悩み、人件費を中心にした固定費抑制姿勢はさらに強まると考えられます」。これからも厳しい環境が続きそうという。せめて忘年会は予算を奮発して浮世のつらさを忘れないと年を越せない−−多くの人の本音だろう。

 そんな中、驚きの発言が飛び出した。安倍総裁の「無制限の金融緩和」だ。金融緩和とは要するに、市中に出回るお金の量を増やすこと。物価上昇率2%を目標に設定し、達成するまで日銀による国債買い取りの増額や、銀行が日銀に資金を預ける際の金利をマイナスにするなど、考えられるあらゆる手段を駆使すると息巻いた。

 株式市場は発言を好感した。衆議院解散が決まった11月14日、8600円台だった平均株価は解散当日(16日)に9000円を超え、現在9500円前後で推移。少し前、12年第3四半期(7〜9月)の実質国内総生産(GDP)成長率が発表され、年率換算マイナス3・5%と大幅に悪化したことがわかったばかりだからなおさら活況ぶりが目立つ。

 物価が下がることでお金の価値が上がるデフレでは、企業も個人もお金を使わなくなる。物価が上がることで、モノへの投資が誘発されるインフレは逆で、お金が動き経済を元気にさせるとされる。安倍総裁は「無制限の金融緩和」で、それを実現しようというわけだ。東短リサーチの加藤出チーフエコノミストは株高について「いよいよ日本がインフレになるというシナリオを描き、ヘッジファンドが仕掛けてきた。実際にその通りになるかは関係ない」と話す。

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