なにわ人模様: 労働基準監督官・森美大さん/大阪

 毎日新聞 2013年03月19日 地方版

◇時間や賃金の適正化を サービス残業裏付けに真剣−−森美大さん(46)=枚方市

 町工場や飲食店がひしめく大阪市南部。そこで働く人たちの労働条件や安全対策に目を光らせているのが大阪南労働基準監督署だ。労働基準監督官の森美大(よしひろ)さん(46)は特に、サービス残業(賃金不払い)がないかなど、労働条件の監督・指導を担当している。

 大学卒業後、3年余り民間企業に勤務した。ある日のこと、事務所の先輩が足を滑らせて階段から落ち、足を骨折する大けがをした。労基署から監督官が訪れ、職場のサンダル履きが原因だと指摘した。事故前から内心では「危ない」とは思っていた。職場内では声を上げにくいことを指摘してくれ、監督官の仕事に好感を持てた。

 監督官試験を受験して94年に任官した。大阪を振り出しに、新潟県などでの勤務をへて、07年から3度目の大阪勤務だ。

 若い母親が機械に巻き込まれ、片腕を切断する事故を担当したことがある。事故状況を尋ねるために病院に行くと、1歳くらいの子供が母親に無邪気に抱きついていた。「事故をなくさないといけない」。痛切に感じた。

 監督官は労働関係法令に違反する悪質なケースでは、容疑者を逮捕するなど、強制捜査を行うことがある。新潟で担当した、建設会社の賃金不払い事件では、社長を潜伏先の埼玉県まで赴いて逮捕した。

 社長は「労基署はこんなことまでするのか」と言いたげな様子で驚いていた。森さんは事件を振り返り、「監督官が司法警察権を持つことを知らない人も多い。認知度を上げることで、労働条件の適正化につながれば」と思っている。

 近年目立つのが、サービス残業や長時間労働だ。「夫の帰宅が毎日遅い。朝自宅を出る時も、つらそうだ」。本人は相談に訪れる暇もないのか、見るに見かねた家族からこうした通報が入ることがある。

 事業所に赴くと、タイムカードがないことばかりか、タイムカードを押させた後に働かせているケースもある。そうした不正をいかに見破り、長時間労働の裏付けを取るかが勝負だ。

 「企業が従業員の労働時間を把握し、適正な賃金を払う。当たり前のことをどう分かってもらうか」。奮闘を続けている。【熊谷豪】

 

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