東京新聞 過労死認定111社 半数なお長時間残業容認

東京新聞 2012年8月8日 朝刊

二〇〇〇年以降に労働基準監督署や裁判所が社員の過労死や過労自殺を認定した企 業のうち、本紙が把握できた百十一社について残業時間の上限を調べたところ、約半 数の五十四社で依然として月八十時間(いわゆる過労死ライン)以上の残業を認めていることが分かった。社員の働き過ぎを抑制する動きは鈍い。 

本紙は百十一社の過労死があった本社もしくは支店について、労使が結んだ最新の「時間外労働・休日労働に関する協定(三六協定)届」を情報公開するよう労基署の上部機関である労働局に請求。

開示資料によると、月当たりの残業の上限が長いのは、NTT東日本の二百五十八時間や大日本印刷市谷事業部の二百時間、プラント保守大手「新興プランテック」の百八十時間、ニコン、JA下関、東芝電機サービスの各百五十時間など。これらを含め百時間以上は二十七社あった。

労働組合のある五十八社の月平均は約九十三時間。労組のない五十三社は約六十四時間で、労組のある企業の方が長時間労働を容認する傾向が浮かぶ。

本紙は百十一社に労務管理のアンケートも行い、二十六社から回答を得た。

現行制度は、企業が労基署に届け出る三六協定の残業時間について「月四十五時間、年三百六十時間」までという制限があるが、特別な事情があれば、半年間はいくらでも延長できる。

こうした制度の見直しについて二十六社からは「企業ごとの状況や立場が異なるので一律的な見直しは困難」(製造業)「企業モラルの問題」(外食産業)などの回答があった。

労働問題に詳しい森岡孝二・関西大教授(企業社会論)は「過労死があった後も、長時間の三六協定を労基署に受理させている厚生労働省の考え方と、それを許している法制度に問題がある」と指摘する。

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過労死の認定基準について厚労省は「発症前一カ月におおむね百時間か、二〜六カ月におおむね月八十時間を超える残業は業務との因果関係が強い」と通達している。 この通達の「おおむね月八十時間を超える」という表現について、本紙は労働問題に詳しい弁護士の意見を参考に「月八十時間以上」と解釈して報道している。

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