厚労省の特別指導、決裁書作らず 手続き規定なし 野村不動産、違法な裁量労働

朝日DIGITAL 2018-03-17

https://digital.asahi.com/articles/ASL3J62ZJL3JULFA025.html

安倍政権は16日、男性社員が過労自殺した野村不動産に対する厚生労働省東京労働局の特別指導が、決裁書を作らずに実施されたとする答弁書を閣議決定した。希望の党の山井和則氏の質問主意書に答えた。特別指導の前に加藤勝信厚労相が3回報告を受けていたことも分かった。そもそも特別指導の手続きを定める規定自体がなく、異例の特別指導の経緯に野党は疑念を深めている。

特別指導は東京労働局長が「口頭で行っており、文書を発出していない」ため、「省内の決裁規定の適用の対象外」である――。

厚労省の土屋喜久審議官は野党6党がこの日開いた合同ヒアリングで、決裁書を作らなかった理由をそう説明した。加藤氏への報告の内容については「個別事案なので回答を控える」として明らかにしなかった。

東京労働局は昨年12月25日、裁量労働制を全社的に違法に適用していたとして、野村不動産の宮嶋誠一社長に対し、是正を図るよう特別指導し、翌26日に記者会見で公表した。特別指導は電通に続いて過去2例目。会見で公表するのは初めてだった。異例中の異例の対応だったが、厚労省は会見で記者団に配った資料に関する決裁書もないと説明している。厚労省はすでに、特別指導の手続きを明文化した文書が省内にないことも明らかにしている。

加藤氏は今国会の答弁で、裁量労働制の乱用を取り締まった例として野村不動産に言及。野党は「過労自殺の事実を知りながら、それに触れずに答弁したなら政治的責任は免れない」(立憲民主党の長妻昭代表代行)と問題視し、加藤氏が特別指導の時点で過労自殺を知っていたかどうかの追及を続けている。

決裁書を作らずに異例の特別指導に踏み切った経緯について、山井氏は「極めて恣意(しい)的」と批判。野村不動産への特別指導が、裁量労働制の乱用を取り締まった例として国会答弁で取り上げるためだったのではないかと追及した。

厚労省で労働行政に携わっていた中野雅至・神戸学院大教授(行政学)は「記者発表用の文書もあり、過去に前例がないような重大な案件なのに、決裁をとっていないのは不可解だ」と指摘する。
 ■自殺巡る答弁、野党反発

東京労働局が野村不動産に監督指導に入ったのは男性の自殺が端緒だった。だが、厚労省は特別指導に至った経緯の説明を拒み続けている。男性の労災認定の事実についても、野村不動産が認めているのに、「個人情報に関わる」という理由で認めていない。

加藤氏は5日の参院予算委員会で、特別指導を公表した昨年12月26日に男性が労災認定されたことについて、民進党の石橋通宏氏から「もちろん知っておられたんでしょうね」と質問され、こう答弁した。

「それぞれ労災で亡くなった方の状況について逐一、私のところに報告が上がってくるわけではございませんので、一つ一つについてそのタイミングで知っていたのかと言われれば、承知をしておりません」。特別指導の公表時点で「労災認定の事実を知らなかった」と取れる内容だった。

このやりとりの直前に安倍晋三首相は「特別指導については報告を受けておりましたが、今のご指摘については報告は受けておりません」と答弁した。「今のご指摘」が「労災認定」を指すことは明らかだった。

しかし、加藤氏はその4日後、閣議後の記者会見で、5日の答弁の趣旨について「一般論を申し上げた」と発言。野村不動産社員の過労自殺を「知らなかった」という意味ではないと説明した。

石橋氏は「一般論だと言うなら、答弁で言わないといけない。後になって『一般論だった』と説明するのはおかしい」と反発。野党は「答弁の修正ではないか」と批判を強めており、今後、衆参両院の厚労委員会で加藤氏をさらに追及する構えだ。(千葉卓朗、贄川俊)

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