<環境省・大防法アスベスト>「規制強化」の実態は14年間サボり続けた後始末 (9/20)

<環境省・大防法アスベスト>「規制強化」の実態は14年間サボり続けた後始末
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2019/9/20(金) 17:09配信アジアプレス・ネットワーク

<環境省・大防法アスベスト>「規制強化」の実態は14年間サボり続けた後始末
9月2日の環境省・石綿飛散防止小委員会のようす(井部正之撮影)

アスベスト規制の強化をめぐり議論が続く環境省と厚生労働省の有識者会議。両省が検討を始めてからときどき新聞の見出しに「規制強化」「規制拡大」の文字が躍る記事が掲載されるようになった。だが、今回環境省が示した法改正に向けた方針案の目玉として報じられているのは実際には同省がサボり続けた内容でしかない。(井部正之/アジアプレス)

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◆14年サボってようやく規制へ

環境省は9月2日、中央環境審議会・石綿飛散防止小委員会(委員長:大塚直・早稲田大学大学院法務研究科教授)を開催し、来年に見込まれる法改正に向けた方針案を示した。

同省が所管する大気汚染防止法(大防法)で現在対象外となっているアスベストを含む成形板など、(1)いわゆる「レベル3」建材を法の対象に加え、事前調査や作業時の飛散防止を義務づけるほか、(2)事前調査の方法や実施する者の資格を設ける、(3)一定規模の改修・解体などの場合、アスベストの事前調査結果を届け出させる、(4)アスベスト除去工事の終了後に工事が適正に完了したのか目視点検させる、(5)作業基準違反に直罰規定を設ける──というのがその骨子だ。

一部で大きく報じられた改正方針だが、改正方針の目玉とされるのは(1)のアスベストを含有する成形板など「レベル3」建材対策だ。

だが、レベル3建材の規制は厚生労働省所管の労働安全衛生法(安衛法)石綿障害予防規則(石綿則)で2005年から義務づけられている。

じつは当時から大防法でも規制が必要と指摘されていたにもかかわらず、14年間も放置していたのをようやく今回法的に位置づけるというだけに過ぎない。それだけ環境省が本来必要な規制をさぼっていたということだ。

(2)事前調査方法・資格の義務化、と(3)一定規模の改修・解体での事前調査結果届け出にしても、10年以上前から必要性が指摘されていたことを同じく放置してきたもの。これについては先行して示された厚労省の改正方針に合わせただけだ。

その証拠に届け出は厚労省が構築する電子届け出システムで行われ、届け出事項も同省が決定。環境省には決定権がない。しかも詳細を説明できず、委員から細かな確認をされても、「厚労省と相談させていただいて」と繰り返すばかりだった。

◆罰則引き上げは見送り

(4)のアスベスト除去工事の終了後に工事が適正に完了したのか目視点検させる、いわゆる「完了検査」も、2012年の石綿飛散防止専門委員会で必要性が指摘されていたものだ。ようやく今回義務づける可能性が出てきたわけだが、同省が示したのは有資格者による目視点検のみ。

諸外国では有資格者による目視点検だけでなく、発じんさせつつ実施する空気中のアスベスト測定も義務づけられており、そうした海外情報も小委員会で紹介された。委員からは測定の必要性も指摘されたが、同省は認めず、諸外国よりも緩い規制とする方針を掲げた。

ちなみにお隣の韓国では、日本よりアスベスト被害が遅く社会問題化したにもかかわらず、建物などのアスベスト除去などの規制はほぼ米国と同じに強化されており、日本より厳しい。完了検査も上記の発じんさせて実施する測定を義務づけている。

(5)の作業基準違反に直罰規定を設けるというのは、現在の大防法では、仮にアスベストを大量飛散させる違法工事をしたとしても、「規制をよく知らなかった」と言い訳すれば、指導だけですむ。

現状では指導に従わない場合「改善命令」が出され、これにも従わない場合にだけ「告発」との手続きとなる。そのため、アスベストをいくら周辺に飛散させて、それが見つかったとしても、「規制をよく知らなかった」と言い訳して、その後の指導に形だけ従っていれば罰せられることはない。

厚労省所管の石綿則違反では摘発できるが、年に数件書類送検される程度で、起訴されることはまずない。仮に罰せられたとしても最大で6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金でしかない。

ずさん工事のほうが儲かり、正直者がバカをみる世界になっていることから、全体的に現場が良くならないとの構造的問題を抱えている。

環境省は今回ようやく作業基準に直罰規定を設けることで、アスベストを周辺に飛ばすといった規定に違反する行為があっただけで告発ができるようにしようというものだ。

同省は「一定の抑止効果が期待できる」と方針案で見解を示すが、現状で同じ罰則の安衛法石綿則違反が微罪すぎてまず起訴されないことからも、効果はあまり期待できまい。

「悪貨が良貨を駆逐する」同じ問題を抱えていた産廃問題では、廃棄物処理法違反の罰則を強化し続け、現在では法人に最大3億円の罰金。個人にも5年以下の懲役または1000万円以下の罰金である。実際、産廃問題では規制・罰則強化と取り締まりの強化で一定の成果を上げている。

映画館で上映前に必ず流れる「NOMORE映画泥棒」のCMで知られる映画の盗撮などは著作権法違反で10年以下の懲役または1000万円以下の罰金。現状の大防法・安衛法のアスベスト規制違反に対する罰則は緩すぎる。

そもそも罰則強化も10年以上前から指摘されていたことだ。それでも今回両省とも罰則の引き上げは見送った。今回厚労省側の改正方針にはほぼ触れていないが、結論からいってしまえば両省とも抜本改正にはほど遠く、またも「形だけの改正」となりそうである。

9月2日以降に報じられた「規制強化」の内実はこの程度でしかない。

 

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