生活環境を整える覚悟なき受け入れは「奴隷制度」と変わらない。改めて問う「技能実習制度」の問題点 (11/25)

生活環境を整える覚悟なき受け入れは「奴隷制度」と変わらない。改めて問う「技能実習制度」の問題点
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2019/11/25(月) 8:33配信HARBOR BUSINESS Online

生活環境を整える覚悟なき受け入れは「奴隷制度」と変わらない。改めて問う「技能実習制度」の問題点
中国人技能実習生の長時間労働、低賃金が当たり前となっていた縫製工場の作業場の様子
日本で働く外国人の数は年々増え続けており、’18年の時点で約146万人。その働き方も大きく変わってきている。鋭いビジネスセンスで財を成すもいる一方で、日本に厳然と残る差別的な構造で「奴隷労働」としか言いようがない働き方を強いられる人々がいる。その最たる例が、「技能実習生」である。

⇒【画像】クリーニング工場で働くベトナム人男性は業務中に火傷を負うが適切な治療をされなかった

奴隷構造で働かされる外国人技能実習生
外国人技能実習生の労働環境は深刻だ。厚労省によると’18年時点の外国人労働者数は約146万人。前年比で約18万人(14.2%)の増加となっており、過去最高を更新。そして、うち21%が「日本の技能、技術または知識の開発途上国への移転」を目的に「技能実習生」として日本に来た外国人だ。

「日本はこれまでも外国人の労働力に頼ってきた。バブル期にはオーバーステイを容認し、’90年代以降は日系人を受け入れて労働力にしてきたが、彼ら彼女らの定住に面倒を感じた政府が、’93年に実施したのが『技能実習制度』。『開発途上国への技術移転』とは名ばかりで、3年間の実習期間が終わったら帰国してもらう=使い捨ての労働力を確保するための制度なんです」と語るのは、30年にわたり外国人労働者の支援活動をしてきたNPO法人「移住連」の代表理事・鳥井一平氏だ。

「多くの技能実習生は契約でがんじがらめになっています。本来は、受け入れ先との契約で労働条件が決まるはずですが、それ以外にも送り出し機関や、送り出し会社などと『日本人と恋愛してはいけない』、『外泊禁止』、『妊娠したら帰国』といった、さまざまな契約を結ばされています。3年間で300万円貯まると契約にあれば、その数字自体は守られますが、休みなく働いて300万円貯金して帰るのです。契約で縛り、いかに安く使うかしか考えていない。これが奴隷構造といわれる理由です」

技能制度は国際社会からの批判も集まる状況
技能制度は国連で人身売買と指摘されており、国際社会からの批判も集まっている。

 縫製工場で働く30代の中国人女性は、「時給300円で毎日働かされて、体がボロボロになってしまった」と悲痛な声で訴える。長時間労働や低賃金だけでなく、業務中の事故にもかかわらず労災の手続きを取ってもらえないというケースもある。クリーニング工場で働く20代のベトナム人男性は、業務中の火傷にもかかわらず「バーベキュー中の事故ということにされ、満足な治療をしてもらえなかった」と火傷の痕を見せる。

 デフレによる価格競争や、親会社から厳しいノルマを課される下請け企業など、雇う側にも厳しい事情はあるだろう。だからといってそれが技能実習生をこき使ってもいい理由にはならない。

構造がまったく変わらない技能実習制度
「賃金が安い、住環境が悪い、人権侵害。この構造が、技能実習制度が始まった’93年からずっと変わっていない。トイレの回数で罰金を取る社長、体調を崩した女性の実習生の布団に潜り込む社長、多くの社長を見てきましたが、みんな見た目は優しそうな普通の人で、見るからにヤクザみたいな人はほとんどいません。技能実習制度という歪な制度がじわりじわりと彼らの倫理観を壊してしまった」

「先進国である日本から途上国への技術移転」という、見せかけの名目が、「低賃金でこきつかってもいい」という雇用者側の意識を生み出してしまったのだ。

「悪影響はほかにもある。技能実習生を3年で使い捨ててきたせいで、現場で技術を引き継ぐ担い手がいなくなり、技能実習生だけでは担い手不足が補えなくなってしまったんです。経営者団体から声が上がり、今年4月に『特定技能』(新設された在留資格で、14の分野に限って外国人の単純労働が認められた)が始まりました。ただ、これも技能実習の延長でしかなく、歪な構造はそのまま。『非熟練労働者』のビザをつくり、きちんと労働者を受け入れるだけでうまく回るはずなんですけどね」

 外国人労働者が増加したせいで犯罪が増えているという報道が散見されることにも鳥井氏は疑義を呈す。

「それは完全なミスリードです。刑法犯検挙件数に占める来日外国人犯罪の件数はこの30年低い水準で推移しています」

 失踪した技能実習生が犯罪を起こすケースも確かにあるが、そもそも劣悪な労働環境から逃げ出した被害者が加害者になるケースが少なくない。理由がどうあれ殺人が許されるわけではないが、’06年に木更津の養豚場で起きた技能実習生による殺人事件では、被害者の第1次受け入れ機関の理事が、送り出し機関の実質的社長もしており、両側からカネを抜いていた事実が明らかになっている。

「労働と生活は分離できません。外国人労働者を受け入れるのなら、単純に労働力とだけ見なすのではなく、彼らの日々の暮らし、生活環境を整えるのが当然の責務のはずです」

 少子高齢化による人手不足、デフレ、価格競争を勝ち抜くための下請け企業への買い叩き、技能実習制度の歪な構造……日本経済が抱えるさまざまな問題のしわ寄せがすべて技能実習生にいってしまっているのだ。

【鳥井一平氏】
NPO法人・移住者と連帯するネットワーク代表理事。30年以上にわたって外国人労働者の支援、救済活動に携わってきた

ハーバー・ビジネス・オンライン
 

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