中原圭介さん「2020年、日本人は「大転職時代」を迎えることになる」(12/4)

2020年、日本人は「大転職時代」を迎えることになる
終身雇用、年功序列はもう終わり
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/68843
中原 圭介 経済アナリスト 2019.12.4 講談社ismedia

プロフィール
「終身雇用を守っていくのは難しい」――。今夏、トヨタ自動車の豊田章男社長が突然語ったこの発言は産業界に衝撃を走らせた。長年日本的雇用の象徴とされてきた終身雇用が「終わる」と言われて現実味がない人も少なくないだろうが、「この日本で終身雇用崩壊はもはや避けられない」と指摘するのは『定年消滅時代をどう生きるか』著者で経営アドバイザーの中原圭介氏である。しかも、2020年からはこれまでとはまったく違う形へと「雇用」が大激変していくというのだ。いったいこれから何が起きるのか――。中原氏が雇用の現場の知られざる最前線を徹底レポートする!

2020年、雇用の「大変革」が始まる!

2020年は日本の雇用が大変革を遂げる年になります。

その象徴的な動きがすでに始まっていることを皆さんはご存知でしょうか。

トヨタは2019年度に総合職の採用に占める中途採用の割合を2018年度の1割から3割に、中長期的には5割に引き上げるという決定をしました。トヨタが変われば日本の企業全体も変わるといわれているだけに、そのインパクトは計り知れません。

〔photo〕gettyimages

トヨタが中途採用を5割にする方針というのは、岩盤とされる日本型雇用の「大きな山」が動いたと捉えることができます。

遅かれ早かれ、日本における新卒一括採用の重要性は次第に薄れていき、大手企業を中心に中途採用の割合が5割を超えてくるのが一般的な情勢になってくるでしょう。若手を育てる時間とコストをかけるよりも、即戦力の人材を中途で採用しようとする考え方が、多くの企業で主流になってくるはずです。

トヨタに限らず、すでに多くの企業では、終身雇用や年功序列の終わりが近いと感じさせる動きが起きています。

少子化で絶対数が少ない優秀な若者を採用するため、若手の給与を大幅に引き上げる代わりに、中高年全体の給与を引き下げるというケースが増加しているのです。

それに加えて、今のところ業績が好調であるにもかかわらず、中高年の早期退職を募集する大手企業が相次いでいます。一方で専門性が高いデジタル人材の採用では、海外のグローバル企業との人材獲得競争が激しく、従来の給与体系を改めて初任給を1000万円に設定する企業が出始めています。

非常に興味深いのは、大手企業の早期退職を募集する人数が企業の想定を上回って集まっているということ。自らの新しいキャリアを形成するために、前向きに転職を考える人々が増えているからです。それは、高度なデジタル人材の採用も含めて雇用市場が流動化し、新卒採用と中途採用の間にある高い壁が崩れ去るということを意味しています。

「企業が短命、ひとが長寿」になる意味

AI(人工知能)などのデジタル技術の普及に伴って、若手にとっても、中堅にとっても、ベテランにとっても、高齢者にとっても、無縁ではいられない雇用の流動化が起ころうとしています。

これは、私たちにとって大きな危機であり、大きなチャンスでもあります。

1つの仕事や会社に落ち着いて一生を安泰に過ごせる人々は確実に減っていきます。私たちは自らの視野を広げて、持続可能な働き方を模索していかねばならないのですが、それができる人、できない人では経済水準は二極化していくのが必然となっていくでしょう。

経済のグローバル化やデジタル化によって、ビジネスの経営環境が短期間で変わっていく昨今、企業が成長を続けることができる期間も短くなっていく潮流にあります。

株主資本主義のアメリカを中心に企業間の競争は激しくなり、世界的に企業の寿命が短命化する傾向が明らかになっています。企業の寿命が長いといわれる日本でもその影響は免れず、国内企業の平均寿命は2018年の時点で24年にまで縮まってきているのです。

これから20 年のうちに、企業の平均寿命が 20 年を割り込むのは避けられないでしょう。 その一方で、私たちの寿命は確実に延び続けていきます。2018年の日本人男性の平均寿命は 81.25歳、女性は87.32歳と過去最高を更新し続けています。

日本人の三大疾患であるがん、心疾患、脳血管疾患の死亡率の低下傾向が、平均寿命を押し上げているとみられています。これからは遺伝子レベルの研究や、AIを取り入れた医療や戧薬が効果を上げる時期に入ってくるので、平均寿命が男性で 85 歳、女性で90 歳を超えるのは、今後 20 年以内の既定路線にあるといってもいいでしょう。

定年消滅時代に起こること

この2つの流れが意味しているのは、私たちの生きる時間が伸び続けていることで、 70歳を超えても働くのが当たり前の時代になっていくということです。

これからの日本では、大学を卒業後に就職して70〜75歳まで働くことになるので、個人の会社員生活は50年前後と、今の定年より10〜15 年程度も長くなります。将来的に企業の平均寿命が20年を切るようになったら、会社員生活は企業寿命の2・5倍を超える長さになってしまうというわけです。

平均的な働き方をする日本人であれば、計算の上では人生で3つの仕事や会社を経験しなければなりません。そこで充実感のある人生を歩み続けるためには、1つの仕事や会社に従事する期間を15〜20年に区切って自らのキャリアを見直し、必要に応じたスキルアップをはかっていくことが肝要です。

たとえば、30代後半を第一の定年、50代後半を第二の定年としてキャリアを3つに区分したうえで、リカレント教育(学び直し)に勤しみながら、新しいスキルを習得するという生き方が広まっていくでしょう。

世界で企業寿命とビジネスモデルの短期化が進んでいく時代には、たとえ著名な大手企業であったとしても、新卒社員を定期的な研修によって分け隔てなく育成するのは、極めて難しくなります。

企業が行う新卒一括採用が通年採用に少しずつ移行していく過程では、雇用契約が職務や勤務地が限定されない「メンバーシップ 型」から、限定される「ジョブ型」へと大きく変わっていくからです。「ジョブ型」での給与は年齢ではなく職務に対して支払われるので、日本型の「終身雇用」や「年功序列」の制度が崩れていくのは不可避な情勢なのです。

3年で1つのプロを目指す

よってこれからは会社が社員のキャリアをつくるのではなく、ひとりひとりの社員が自らの責任においてキャリア形成を考えなくてはならなくなります。

そして新しいスキルを身に付けようとする訓練は、若者だけではなく、中高年や高齢者にも求められるようになっていきます。

そんな生涯現役時代において日本人が納得できる職業人生を送るには、今の若者の仕事に対する価値観が大きなヒントになると思っています。若者にとって仕事というのは、自らがスキルを磨いて成長できる機会であるのに加えて、やりがいや楽しさを感じることができる対象でもあるからです。

中高年と高齢者も若者と同じような考え方に変えていくことが、人生をいっそう楽しく豊かなものにするポイントになるはずです。

〔photo〕iStock

数年後、私たちは今よりも個人の趣向に合わせて多彩な分野のスキルを学ぶ機会に恵まれているはずです。だから自分の価値をいっそう高めたいのであれば、現時点で有するスキルとは別に、その周辺の新しいスキルを会得することが効果的です。

たとえば、1つのスキルで専門家(プロ)の領域に3年で到達しようとすれば、トータル9年で3つの分野の専門家になることができます。

その結果として、私たちは元々持っているスキルを中心に、関連が深い専門性を高めることができるばかりか、かつてより多角的な視点を持った専門家になることができるでしょう。 無論、これまでのキャリアやスキルを捨て去って、心機一転、まったく別の分野の専門家になるのも一手です。

「掛け算」でスキルを磨く時代へ

その場合にはできる限り、自分が好きなことや関心がある分野を選ぶようにするのが良いでしょう。

人はどのような分野であっても、好きなことや関心があることについては熱意を持ち、労力を惜しまずに努力するため、上達が早くなる傾向が強いからです。好きなことを仕事にする幸運に恵まれれば、それだけでも人生は十分に楽しいものとなるのではないでしょうか。

多くの人々が誤解しているようですが、個人の価値を大いに高める方法というのは、1つの専門性やスキルを「達人」と呼ばれるほど極めるだけではありません。

達人といわれるレベルにまで達していなくとも、1000人に1人(=上位0.1%)、あるいは1万人に1人(=上位0.01%)の価値を有することは、みなさんが考えているほど難しいことではないのです。私たちが専門性やスキルを3つ持っていたとしたら、相乗効果が発揮されて、私たちの価値を格段に高めることができるはずです。

なぜなら私たちの価値というのは、専門性やスキルの習得数の「足し算」ではなく、「掛け算」で決まっていくからです。専門性やスキルの数が増えるほど、掛け算の回数も増えていくので、ネズミ算式に人材としての価値が高まっていく。その恩恵として、私たちの働き方や生き方の選択肢の幅が想像を超えて広がっていきます。

私たちが社外でも通用するスキル戦略を実行することができれば、何者にも縛られない立場で自由な働き方や生き方ができるようになるというわけです。

大転職時代の思考法

今の若い世代を見ていると、興味の範囲は狭いといわれるものの、中高年の世代と比べると仕事を楽しむ能力を獲得する適性を持っているように見受けられます。仕事で成長したいと考える人の割合はとりわけ 20 代で高く、転職することも意欲的に考えているようなのです。

逆に中高年の世代を中心に、転職する、あるいは仕事を変えることに抵抗を感じる人は未だ多いのが現実です。

しかし、人生のなかで異なる仕事を何回も経験できる機会が増えていくわけですから、その変化を楽しもうとする未来志向で臨んでほしいところです。企業が求める専門性やスキルを持っている人は、いくつになっても年齢に関係なく、雇いたいというオファーがひっきりなしに来ます。これからの社会では、考えようによっては、とても豊かで楽しい社会になるはずです。

「定年消滅時代」には、自らの興味や好奇心の幅を広げて学び直すことが、満足できる人生を送る秘訣になってくるのです。

 

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