第55回 失業統計からも切り捨てられている派遣労働者

昨年秋以来、派遣やパートなどの非正規労働者の解雇・雇い止めが急増するなかで、失業率の上昇が問題になっています。これまでのところ失業者の増大がとくに深刻なのは、未曾有の販売不振で生産が前年比3割減、ピーク比4割減と言われるほど大幅に落ち込んでいる製造業です。

しかし、意外なことに、政府の雇用失業統計である総務省「労働力調査」では、製造業に限らず産業別の就業者の増減は把握されていません。ほかにこれという統計もありません。

「労働力調査」で判明する産業別の就業者数は、自営業者、家族従業者、雇用者に分かれています。そこで製造業について雇用者の増減を見ると、2008年8月から2009年3月までに、季節調整をしていない原数値で1094万人から1033万人に61万人減っています。この大半はパート、アルバイト、期間工などの直接雇用の非正規労働者の解雇・雇い止めによるものです。

しかし、この製造業の数字には製造業で働いていても製造企業に雇用されていない派遣労働者の人数は含まれていません。派遣労働者の人数が出ているのは、サービス業のなかの「職業紹介・労働者派遣業」の欄です。その欄をみると、同じく2008年8月から2009年3月までに、雇用者は126万人から98万人に、28万人減っています。しかし、このうち何人あるいは何%が製造業で働いていたかは不明です。

厚生労働省が集計した派遣会社の事業報告によると、2007年度現在、派遣労働者総数は381万人で、そのうち、47万人が製造業務に従事しています。しかし、今回の恐慌で何人減少したかはまだ発表されていません。そのかわり、同省の非正規労働者の解雇・雇い止めに関する集計によると、2008年10月から2009年3月までに製造業で失職した派遣労働者は約12万人と推定されます。これにさきに述べた直接雇用者の減少61万人を加えると、この間の製造業の失職者は73万人に上ることになります。しかし、これはあまりにも大雑把で、実態を適正に反映しているとはいえません。

製造業の事業所には多数の請負労働者が働いています。彼ら/彼女らは「労働力調査」の産業別就業者でみれば製造業の就業者に分類されていると考えられます。けれども、製造業の就業者の何%が請負労働者であるかは「労働力調査」には出てきません。

2004年「派遣労働者実態調査」によれば、製造業で85万6000人の請負労働者が働いていることになっていますが、最近では請負会社が指揮命令すべき請負労働者をメーカの現場担当者が派遣労働者と同様に指揮命令する違法な偽装請負が横行しています。そういう事情もあって、この請負労働者の統計も実態を適正に反映していない疑いがあります。

結局、派遣労働者も請負労働者も統計の上では見えない(インビジブルな)存在であると言わなければなりません。

追記: この文章は5月17日に「オピニオン」欄に掲載しましたが、画面表示上の都合から方針を変更し、これまでと同様にこの欄に移すことにしました。

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