第75回 書評? 岩田正美『現代の貧困』(ちくま新書)

2007年6月26日号掲載 『週刊エコノミスト』

岩田正美著(日本女子大学教授)
『現代の貧困――ワーキングプア/ホームレス/生活保護』(ちくま新書)735円

さまざまな姿を考察し 格差論から貧困論へ踏み込む

格差は「ある」ということが示されても、しばしば程度の問題ですまされる。それに対して、貧困は「あってはならない」存在として人びとが考えることによって「発見」され、その解決を社会と政治に迫らずにはおかない。本書を読んで第一に教えられたのはこのことである。

金融・流通・情報・サービス関連産業だけでなく、製造業においても非正規雇用が増えた結果、働いても働いても貧しいワーキングプアと呼ばれる人びとに注目が集まっている。こうした人びとに限らず、ホームレスや生活保護の受給者についても、どのような状態をもって貧困というかによって、貧困の増減や対策についての認識は異なってくる。だからこそ著者は「貧困の境界」問題とそれをめぐる貧困の理論史にこだわっているのである。

読者は本書を読み進むうちに、イギリスをはじめとする欧米における貧困に関する代表的な調査と研究を簡単に学ぶことができる。そこでは「社会的剥奪」や「社会的排除」といった重要な概念も要領よく解説されている。

議論の焦点は現在の日本における貧困の再発見にある。著者は、生活保護基準をもとにした駒村康平氏の推計を援用して、2005年現在、日本では約390万世帯が貧困だと言う。これは同年の国勢調査の世帯人員に直せば約1000万人(総人口の約8%)に上る。経済協力開発機構(OECD)が昨年発表した00年の勤労者層の相対的貧困率の国際比較では、日本は先進17カ国中第2位(13・5%)で、トップのアメリカ(13・7%)とほとんど並んでいる。

しかし、貧困は単一の基準では捉えられない。貧困を統計で捉えることにも困難がともなう。ホームレスは普通の調査からは落ちてしまう。転変する生活においては住居がある状態とない状態の区別も簡単ではない。派遣や請負などのなかには飯場のような労働宿舎を転々としている若者が少なくない。

貧困は低学歴、低賃金、失業、離婚、債務、無貯蓄、高家賃、病気、家族の崩壊など多様な要因から生まれる。低学歴の未婚男性、高齢単身女性、シングルマザーなどは、ささいなことで貧困に陥りやすい「不利な人々」である確率が高い。

最後は「どうしたらよいか」対策を考える章で結ばれている。文庫の解説では最後の筋書きは読者には明かさない慣わしがある。ここでもそれを尊重して、貧困対策を考えるためにも格差論から貧困論に踏み込んだ本書を薦めたい。

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