「月刊日本 ルポ 外国人労働者」取材班が選ぶ、外国人問題を理解するための3冊 (2/23)

「月刊日本 ルポ 外国人労働者」取材班が選ぶ、外国人問題を理解するための3冊
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2020.02.23 月刊日本

tsukat / PIXTA(ピクスタ)

 これまで本連載では知られざる外国人労働者の実態を伝えてきたが、外国人問題は多くのメディアやジャーナリストが真摯な問題意識を持って取材、報道をおこなっている。その成果として、国内では日本で暮らす外国人の実態に迫ったルポタージュが数多く出版されている。今回はその中でも外国人問題を理解するうえで有益な書籍を紹介したい(引用文中の……は中略の意である)。

圧巻の海外取材! 西日本新聞取材班渾身の書

『新移民時代』書影 西日本新聞社

■『新 移民時代』(西日本新聞社編・明石書店)

 本書は2016年12月から西日本新聞で展開してきたキャンペーン報道「新 移民時代」を再構成してまとめた意欲作だ。一連のシリーズは好評を博し、「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」も受賞した。

 西日本新聞は九州のブロック紙であり、まえがきで「日本で暮らす外国人の実像や、彼らなしには成り立たない日本社会の現実をアジアの玄関口・九州から見つめ、共生の道を探ろう――」とあるように、本書が取り上げている事例は九州が中心だ。しかし、基本的な問題点は日本全国に共通するため、地域性は問題にならない。

 本書の内容は出稼ぎ留学生、日本語学校、技能実習生、外国人労働者が働く企業、共生に向けた民間の取り組みなどで、外国人の問題を一通り紹介している。

 圧巻なのは、海外取材の量である。ネパール、ベトナム、ミャンマー、タイ、中国、台湾、韓国、アメリカ。これだけの国々の取材記事を一冊で読める本は他に例がないのではないだろうか。

 本書の特徴は、外国人を雇用する企業の声を伝えていることだ。本誌に限らず、外国人問題の取材先は留学生や技能実習生、彼らと関わる支援者ら日本人の関係者になりやすい。企業に取材を申し込んでも、なかなか受けつけてもらえないのが実情だ。その意味で、本書のような企業の考えや立場を知ることができる報道や書籍は貴重だ。

 「実習生がいなかったら、会社をたたまなければならなくなるかもしれない。救世主だ」という感謝から、「会社の将来を考えれば、日本の若者に技術を伝えたいのに」というため息まで聞こえてくる(98頁)。

 「高度人材」と呼ばれる正社員や管理職の外国人労働者への取材も貴重で、彼らが日本企業で活躍する姿が紹介されている。

 新聞社が出版しただけあって、本書は書籍としての完成度が高い。実態を伝える現地のルポタージュ、予備知識を補うコラム、有識者へのインタビューなどがバランス良く構成されている。見開きページにはほぼ全て写真や図表などが入っており、分かりやすく読みやすい。入門書として最適な一冊だ。

差別や排除をテーマに追い続ける、安田浩一氏

『団地と移民 課題最先端「空間」の闘い』 安田浩一 書影

■『団地と移民』(安田浩一著・角川書店)

 筆者は『サンデー毎日』記者などを経てフリーになったジャーナリストで、差別や排除をテーマにネット右翼や外国人への取材で知られている。外国人の生活に迫ったルポタージュは少なくないが、その中でも本書は「団地」という斬新な切り口から問題に迫った異色の作品だ。その問題意識は、「あとがき」の一文に象徴されている。

 〈しかし政府の思惑が何であれ、少子化と急激な高齢化が進行する以上、好むと好まざるとにかかわらず、移民は増え続ける。その際、文字通りの受け皿として機能するのは団地であろう。そう、団地という存在こそが、移民のゲートウェイとなる。私はそこに、団地の高齢化問題を解決するひとつの回答が示されているようにも思うのだ。互いに孤立する高齢者と外国人に、「かけはし」をつないだ芝園団地の事例は本書でも触れた。〉(251頁)

 本書では主に芝園団地(埼玉県川口市)と保見団地(愛知県豊田市)の事例が取り上げられ、日本人と外国人の住民同士がいかにぶつかり、いかに共生の道を模索したかという「団地の苦闘」が紹介されている。その他にも団地の高齢者問題やパリの移民問題、中国残留孤児の問題にも触れられている。

 注目すべきは、外国人住民の肉声だけでなく日本人住民の肉声も伝えている点だ。

「実際に怖い目にあったわけではありません。ただ、中国人ばかりになってしまうと、なんとなく肩身が狭い思いをする。ここは日本なんですし……」(84頁)という漠然とした不安から、「深く対立しているわけではないと思う。要するに、興味がないんですよ。無関心、非協力。それが団地に住む日本人住民の平均的な姿かもしれません」(233頁)という本音、「知り合ってみればなんてことはなかった。お互い、当たり前の人間だということに気が付きました。ごみの問題にしても、調べてみれば誤解に基づくものが多かった」(237頁)という相互理解まで、読者は当事者の生の声が聞けるだろう。

 それにしても、筆者はなぜ差別や排除の問題を取材し続けているのか。それは2009年に埼玉県蕨市内で行われた「フィリピン人一家追放」を訴えるデモを取材した時の一文に表れている。

 〈デモのコースには、当事者である娘が通う蕨市立第一中学校前も含まれていた。デモ隊は中学校の校門に差し掛かると、わざわざそこで立ち止まり、「ここに娘が通っている。怒りの声を上げましょう!」と叫ぶ先導役に合わせて、「追放せよ!」と繰り返した。このとき、娘は音楽部の活動のため、学校内にいた。彼女はどんな思いで、この罵声を、ヘイトスピーチを聞いたのだろうか。一三歳の少女を名指しで攻撃するこの集団に、私は心底怒りを感じた。〉

 本書からは外国人住民、日本人住民、そして筆者の声と体温が伝わってくる。筆者の前作『ルポ差別と貧困の外国人労働者』(光文社新書)と合わせて読みたい一冊だ。

統計データや制度を丁寧に読み解く書

『ふたつの日本』望月優大 書影

■『ふたつの日本』(望月優大著・講談社現代新書)

 ルポタージュは個人に焦点を当て、当事者の肉声を伝えることができる。ただ、それだけでは全体像を把握することができない。そこで読みたいのが本書だ。

 著者は日本の移民文化・移民事情を伝えるウェブマガジン「ニッポン複雑紀行」の編集長。現場取材もしているが、本書ではあえてルポタージュの手法をとらず、外国人に関する日本の制度や統計データを丁寧かつ分かりやすく読み解くことで、外国人問題の全体像が俯瞰できるようになっている。一例をあげよう。

 〈現実はといえば、どの定義を選ぶのであれ、日本に「移民」は存在するし増え続けている。「移民」ではない、「移民政策」ではない――どんなにその呪文を唱えても、この現実事態が変わることはない。最も分かりやすいのは、政府自身の「移民」の定義に最も近い「永住する外国人」の数の推移を見ることだ。……1992年に4万5229人しかいなかった(一般)永住者の数は、25年後の2017年には16倍以上の74万9191人になった。政府が公表している「永住許可に関するガイドライン」によれば、永住権の申請には原則として10年以上の在留が条件となる(例外あり)。日本で長く暮らし、永住権を取得する外国人が増え続けている。彼らを「移民」と呼ぶか否かに関わらず、これは現実である〉(24〜25頁)

 2018年6月時点で約246万人いる在留外国人のうち、3割は永住外国人なのだ。本書には、このように目から鱗のデータが満載されている。特に印象的だったのは、以下の指摘だ。

 〈同じ日本に暮らしていても、国籍によって、在留資格によって、この国で通過する経験は大きく異なる。……何年滞在できるか、働くことができるか、働き先を変えることができるか、家族と共に暮らすことができるか、一人ひとりが違う。同じ「外国人」でもその境遇は大きく異なる。……日本で日本国籍を持って生まれた自分のような人間は、この国で享受可能なフルスペックの権利と自由を持っているとも言える。期限なく日本に滞在できるし、働くこともできる。転職も自由だし、家族と共に暮らすことができる。……日本で「日本人」であるということはそうした最大限の権利を持っているということを意味する。勤め先から解雇されて国を出るように促されることもないし、退去強制の憂き目に遭って突然収容されることもない。〉(208頁)

 この一文を読んだ時、日本人と外国人の間にある境界線が見えた気がした。読者は虫の目で木を見るのではなく、鳥の目で森を見るように外国人問題の全体像を俯瞰できるだろう。図表やグラフも多いため、「読んで分かる」だけでなく「見て分かる」こともできる一冊だ。

 紹介したい書籍は他にも多くある。いずれ紹介したい。

◆ルポ 外国人労働者第6回

<取材・文/月刊日本編集部>
月刊日本
げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。 

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