須藤みかさん「学童保育「体力の限界」コロナで疲弊する現場 かつてない状況に子供たちもパニック状態」 (3/20)

学童保育「体力の限界」コロナで疲弊する現場 かつてない状況に子供たちもパニック状態
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須藤 みか : ノンフィクションライター 東洋経済オンライン 2020/03/20 5:20

〔写真〕学童保育所の運営形態による“格差”が現場にどのような影響をもたらしているか、指導員の悩みや不安の声をお伝えする(写真:YsPhoto/PIXTA)

新型コロナウイルス感染拡大を防ぐために行われている臨時休校措置。働く保護者の子どもを預かるため、全国各地で多くの学童保育所が朝から開所を続けている。

人員不足や感染を広げないかという不安を抱えながら働く指導員(放課後児童支援員)の声が多数のメディアに伝えられ、「学童保育にこれほどスポットがあたったことはこれまでなかった」と多くの指導員が口をそろえる。その一方で、伝えられてない現場の悩みもある。

指導員を疲弊させる「連日の超過勤務」

「学童保育に注目が集まるのはうれしいことですが、同じような報道ばかりで……。この機会に学童のことをもっと知ってほしい」と、大阪市内の学童保育所で働く30代指導員Aさんから連絡があったのが3月9日。

学童保育と言っても、ひとくくりにできない地域差がある。例えば保育料ひとつとっても、1カ月5000円程度のところもあれば、2万円を超えるところもある(最近、進出著しい英語学童や習い事系学童を除く)。

そのほか、設置場所、保育内容、指導員の雇用形態などさまざまな違いがあるが、その大本にあるのが運営形態の差だ。公設公営、公設民営、民設民営と大きく3つに分けられる。その“格差”は現場にどのような影響をもたらしているのか、近畿圏の指導員7人に話を聞いた。

まずAさんの話を聞こう。

「8時から19時半まで開所しています。長期休み期間中であれば全体の計画を事前に立て、日案というその日ごとの計画も立てていきますが、今回はいきなり朝からの保育になってしまったので、十分な保育ができないというもどかしさを感じています」。連日の超過勤務もあってか、声に疲れがにじんでいた。

大阪市学童保育連絡協議会が行った調査によれば、回答のあった46施設のうち、最長勤務時間が11時間を超えた施設が7割近くあり、13時間以上という施設も約1割あった。

「学童保育って、ただ遊んでいるだけでしょ」。そう思われがちなのだが、異なる年齢の、そしてさまざまな特性を持った子どもたちの自主性を重んじながら、指導員は子どもたちに寄り添い、遊びやさまざまな活動を通して成長を支えている。

「指導員がそろってミーティングを行う時間がないので、日々の子どもたちの変化や気になる言動などの共有も難しく、保育中に細切れに立ち話で済ませるか保育後に残って話し合うしかありません」と、Aさんは嘆く。

臨時休校を受けて朝から開所している学童保育所が多いのだが、地域によって開所時間は異なる。例えば、Aさんと同じ大阪市内でも、校内で5時間目まで子どもたちが過ごす校区もある。

そのため、「いつもと同じように放課後の時間帯のみ」と話すBさん(50代)のような、超過勤務とは無縁の指導員もいる。大阪市内は、保護者会が運営する民設民営。当然、施設は学校外にあるのだが、学校との連携がスムーズに行われているところもあるのだ。

指導員を襲う「コロナショック」

では、公設公営はどうか。学校内に設置され、指導員は常勤・非常勤・嘱託・任期付き短時間勤務など身分は異なるものの、自治体に直接雇用されている。

5、6時間目までは学校で受け入れる方針を決めた自治体で働くCさん。20年以上のキャリアを持つ。

「うちでは超過勤務ということはありません。なぜこうなったかは推測ですが、指導員の勤務体制と学童保育の事業内容を行政が総合的に判断した結果からではないかと思います。

ただ、さまざまな情報が流れる中で学校によって対応が違い、運動場で遊ぶことができないといった日常生活が制限されているところもあれば、自由に運動場で遊べるところもあります。適度な距離を保つために、施設を貸してくれるなど柔軟な対応をしてくれる学校もあります」

しかし、Cさんのような自治体が少数派で、朝からの開所のために綱渡りの勤務体制を敷く地域のほうが圧倒的に多い。もともと学童保育の現場では人員不足が慢性化している。責任が重いにもかかわらず、待遇はいいとは言えないからだ。そこに来てのコロナショックだ。

「とにかく人の配置が間に合っていません。子育て中の人もいますし、私のように親の介護を抱えている人もいます。互いの事情を聞いて、シフトを組むだけでも一苦労」と話すのは、異業種から転身して30年のDさん。

勤務先の開所時間は、8時から18時半まで。出席率は約50%。

「通常3クラスを2クラスに編成して保育をしているので、子どもたちの集団が変わったり、いつもの指導員とは違う体制になっています。すると、コミュニケーションをとるのが苦手な子のなかには、パニックになる子もいます。

また、春休みからの登所予定だった子どもたちが『もう家の中にいるのは限界』と言って、前倒しして登所するケースもありますし、学童に登録していない子も預かることになっています。人数は増えていく傾向にあるだけでなく、新たに来る子たちがどんな子たちかわからないのが不安です」

――不安とは?

「どんな特徴や性質を持っている子たちかわからないので、例えば友達とケンカしたときに、どのように声をかけてあげるのが適切かはすぐにわかりません」と言った後、Dさんは「その子の困っていることに気づいてあげられないかもしれない」と続けた。保育者として、どの子にもできる限り寄り添ってあげたい――。そう思うからこその不安なのだ。

軽視される指導員の仕事

40代のEさんも、公設公営の学童保育所に朝から勤務する。運動場や多目的室も使用でき、他自治体に比べると、マスクや消毒液なども比較的支給されているほうだという。市の担当課から応援要員も派遣しようという話もあった、とEさんは口ごもる。

「閉館中の公共施設の職員を派遣しようということになったんですが、丁重にお断りしました。はっきり言って、この非常事態に部外者には来てほしくないんです。いつも以上に忙しいときに仕事を教えねばならず、指導員の負担が増えるだけだからです」

よかれと思っての応援体制だろうが、そこには学童保育指導員という仕事への軽視が透けて見える。

「誰でもできる仕事だと思われているんですよね。残念なことです」と、Eさんはため息をついた。

――ほかに困っていることは?

「3月は新年度から入所する子どもたちの準備をする時期でもあるのですが、まったくできません。通常の保育の打ち合わせすらもままならなくて、子どもたちが帰った後しかできませんから1時間から1時間半の残業が毎日続いています」

新年度の準備ができないことへの不安は、ほとんどの指導員が口にしていた。公設民営で働く30代のFさんもその1人。市が委託した民間企業の社員という立場で働く。

「新入所生を迎えるために、子どもたちの特徴や出身保育園、居住エリアなどを見ながらクラス分けをしていきます。その準備に例年3回は会議をして、障害やアレルギーのことなども加味しながら、職員の配置も含めた新年度の体制を作っていかねばなりません。まだ何も手をつけられない状況です」と新年度の不安を口にする。

Fさんの不安はもう1つある。

「指導員の平均年齢も高いため、体力はもう限界に達しています。出席率は通常よりは低いので、当初は会社から指示されているとおり、過密状態にならずに保育ができていましたが、このままでは指導員が倒れてしまいます。2クラスの子どもたちを1クラスに集めて保育するしかなくなりました。予防どころかいつも以上に過密にはなりますが、開所を続けていくにはどうしようもありません」

職場で目下の話題は、万が一感染者が出た場合のこと。開所は続けよ、しかし倒れるな。そして感染者が出たら責任を取れ。そんな無言の圧力がのしかかっているように感じた。

「どんな状況なのか一度見てほしい」

同じ民間委託でも、委託先の企業によって勤務形態は異なる。Fさんとは別の市の公設民営で働く40代のGさんは、週の労働時間が固定されている。

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「超過勤務にはなっていませんが、そのために、アルバイトさんしかいない時間があったりして、すでにトラブルも起きています。私にとっては十分な保育ができないことがいちばんつらいことです」と肩を落とした。

親の介護をしながら働くDさんが訴える。

「すごくしんどいし、疲れています。でも頑張れるのは、保護者の方々が、『先生たちがいちばん大変ですよね、身体は大丈夫ですか。本当に助かっています』と言ってくれるから。感染予防対策について担当部署からFAXがいっぱい流れてきますし、毎日、登所人数を確認する電話は入りますが、現場は見に来てくれない。どんな状況なのか一度見てほしい」

 

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