「派遣はテレワークしちゃダメ」の理不尽 トップ忖度した上司が「来い」で全員出社の実例も (3/4)

「派遣はテレワークしちゃダメ」の理不尽 トップ忖度した上司が「来い」で全員出社の実例も
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井上有紀子2020.3.4 11:30AERA#仕事#働き方#新型コロナウイルス

多くの企業がウイルス対策としてテレワークを活用している。東京五輪期間の混雑緩和に向け、政府が推進してきたテレワークが奏功した形だ (c)朝日新聞社

従業員への感染を防ごうと、多くの企業がテレワークの導入を打ち出した。だが派遣社員は制度を使えないなど、現場では混乱も起きている。AERA2020年3月9日号は、テレワーク導入現場で生じている新たな問題に迫る。

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感染が拡大している新型コロナウイルスから身を守るため、社員の在宅勤務を進める会社が増えている。東京五輪期間中の混雑回避などのため政府がここ数年旗を振ってきた「テレワーク」が奏功している形だが、すべてが解決するわけではない。

 都内のイベントプロダクション会社の男性(20代)は「『痛勤』がなくなった」と安堵している。出勤に使う地下鉄は、いつも満員だった。

「すし詰め状態で、マスクをしていない人もいるし、いつ感染するかって怖かった。それがなくなっただけでも、本当によかったと心の底から思う」

 自宅で働くが、業務内容はオフィスで働いていたときと特に変わらない。会議はオンライン、同僚との会話は社内SNSが中心となった。

 NTTグループ、NEC、楽天など多くの企業が、1月末頃から2月にかけて、在宅での勤務の義務付けや推奨を始めた。社員の多くは出社せず、パソコンや仕事道具を自宅に持ち帰って働いている。テレワークを始めた都内のイベント制作会社の男性(32)は「会社から、期限がいつまでか伝えられていません。今までになく長期で、本格的です」と話す。

 だが同じ社内でも、雇用形態によって、テレワークができないケースがある。

 都内の外資系企業に勤める派遣社員の女性(40代)は2月初旬、CEOから全社員に一斉送信された一通の社内メールを開き、声を失った。

「新型コロナウイルスへの感染を予防するために、テレワークやフレックスを積極的に導入しましょう」

 メールは正社員を対象としており派遣社員には触れられていない。「慣例として派遣はテレワークを認められていません。少数派である派遣の存在が黙殺されていると感じます」(女性)

 なぜ在宅で勤務できないのか、派遣元に確認するが、「テレワークできない契約事項はないが、会社の指示に従って」と言われるだけで埒が明かない。

女性は電子資料をまとめる事務職だ。パソコンとネット環境さえあれば、自宅でもできると思う。

「派遣だとパソコンをなくす、信用ならないとでも思われているのでしょうか。それとも、ただ正規雇用か非正規かの差で、無言の線引きがされているのでしょうか。命の選別をされているように感じます」

 女性の会社では、社員にテレワークが勧められてから、半分以下の人数しか出勤しないようになった。それでも、女性は今も毎朝、満員電車に1時間揺られる。電車の混み具合は変わっていないという。

「ぎゅうぎゅう詰めの車内でちょっとむせると、殺意のこもった目でにらまれます」

 女性には傷病休暇がない。

「感染したら有給休暇を使うしかない。契約更新する数カ月後に、コロナの影響はどうなっているんでしょう。『仕事がないからクビ』と会社から言われたらと思うと、ぞっとします」

 テレワークができる人にも悩みがある。

 1月26日にテレワークへの移行を発表したインターネットサービスのGMOインターネットグループ。熊谷正寿代表は2月16日、ツイッターに「在宅勤務開始から3週間。何が凄いかと言うと、業績に影響がほぼ無い。この結果を見て、そもそもオフィスが必要なのか真剣に考えている(汗)」と書き込んだ。

 だが、ネット上のブログではこのころ、GMOの社員を名乗る匿名の書き込みがあった。

「公式には在宅勤務中であるが、結局、各部門の上司に一任されているので、上司が『来い』と言えば行かなくてはならない。上司にとって大事なのは、『数字』である。そのため、出社させて数字を上げさせなくてはならない」

 業績を落としたくない上司が、部下に出社を迫ってはいないか。GMOインターネットは「グループ内でも、対面営業や金融系システム業の担当などが自宅で業務ができず、出社が多い子会社もある」と認める一方、「在宅で働ける社員が上司や同僚の意向を忖度して出勤するようなことがないようにと、各会社のトップに伝えています」と話す。

 都内の大手IT企業の男性(30)は在宅ならではのプレッシャーを感じる。通勤時間45分はなくなったが、チームの仕事の進み具合を共有するため、1日1時間のウェブ会議を開くことになった。

「上司は進めている案件がどうなったか、オフィスにいたとき以上にこと細かに聞いてくるんですけど、そんなに一気には進まないですよ。さぼっているか監視しているのではなく、上司も心配しているだけだとは思っているんですけど」

 テレワークの準備を周到にした会社もあるが、感染拡大を受けて急遽始めた会社もある。

 冒頭のイベントプロダクション勤務の男性は「テレワークの実施が発表され、実際に始める数日前になって自宅にネット環境のない社員にWi‐Fiルーターの貸し出しがあった。仕事の分担も急いで決められた。仕事の仕方は変わったけれど、評価基準がどうなったかは、特に伝えられていません」と話す。

 働き方が変わっても、求めるものが同じままでは、担当や立場によっては働き手が苦境に立たされる。(ライター・井上有紀子)

※AERA 2020年3月9日号
 

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