“ギグワーク”で大丈夫? ウーバーCEOに直撃 (3/3)

“ギグワーク”で大丈夫? ウーバーCEOに直撃
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NHK News 2020年3月3日 17時02分

今、「ギグワーク」と呼ばれる働き方をめぐって世界中で波紋が広がっている。日本でも料理のデリバリーで広がっている「ウーバーイーツ」の配達員のように、空いている時間を自由に使って単発で仕事をして収入を得る働き方だ。「ギグワーク」は柔軟に稼げる一方で、待遇がよくないとして激しい議論が起きている。配達員をどう扱うのか、今後の事業をどう展開するのか。来日したウーバーのダラ・コスロシャヒCEOを直撃した。(経済部記者 伊賀亮人)

何世紀も前の考え方に“とらわれすぎ”

2009年の創業以来、わずか10年余りで69か国で事業を展開し、年間の売り上げは141億ドル(=約1兆5500億円)の世界的な企業へと急成長したウーバー。
日本では黒や緑のバッグを背負った一般の人が料理を自転車で配達するイメージが強いが、主力事業は、スマホのアプリで一般のドライバーが運転する車を呼ぶライドシェア事業だ。「ギグワーク」という働き方を生み出した草分け的な存在とも言える。

Q ドライバーや配達員をウーバーではどう待遇しようと考えているのか?

ウーバー ダラ・コスロシャヒCEO
コスロシャヒCEO
「世の中の人は労働について何世紀も前の古い分類にとらわれすぎている。社会保障や福利厚生などが受けられるフルタイムの従業員になるか、それとも何の保障も受けられないパートタイムの従業員になるか。これに対して私たちは、新しい働き方をつくり出したい。好きな時に働いて稼げるという柔軟さとともに、フルタイムの従業員が受けているような保護を一定程度、提供するような働き方だ」

ギグワーカーは“アプリのユーザー”

アプリなどを使って単発で仕事を請け負う「ギグワーカー」。ミュージシャンが単発のコンサートで演奏する「ギグ」という単語から由来し、こうした働き方によって成り立つ経済形態を「ギグエコノミー」とも呼ぶ。

ウーバーなどの企業は、「ギグワーカー」は「個人事業主なので雇用関係がない」と主張しているが、最低賃金の保障や労災保険の適用など、仕事を仲介する企業側が働く人の権利保護に責任を負うべきだという声が世界的に強くなっている。

ウーバーなど多くのテック企業が本社を置く米カリフォルニア州ではことし1月、全米初となる「ギグワーカー保護法」が施行された。個人事業主の定義を厳しくして、働く人をこれまでよりも広い範囲で従業員とみなすよう企業に義務づける内容だ。

Q「新たな働き方」とは、ドライバーや配達員といった「ギグワーカー」を従業員として扱うという意味か?

コスロシャヒCEO
「ウーバーは、A地点からB地点に移動したい人、あるいは料理がほしい人と、収入を得るために運転したり料理を運んだりする人を結び付けるプラットフォームだ。つまり、彼ら(ギグワーカー)もアプリのユーザーであり、従業員ではない。プラットフォームを使うメリットがなければ、彼らはウーバーのアプリを使わないだろう。そうなるとわれわれのビジネスも成り立たない」

Q 日本でも配達員の報酬など待遇改善を求める声が強くなっている。どのように取り組んでいくのか。

コスロシャヒCEO
「常に改善に取り組まなければ、取り残されていくと思っている。だからこそ、われれは常にドライバーや配達員の声に耳を傾け改善に取り組んでいる。すべての人を満足させることはできないが、対話を進めて配達員が収入を得るためのよい機会を提供したい」

空飛ぶ車からキックスケーターまで
ウーバーが共同開発した小型航空機

「ギグワーカー」に支えられて急成長を遂げてきたウーバー。2023年に垂直離着型の小型航空機を使った空のライドシェアを始める構想を打ち出している。
電動キックスケーターや電動アシスト自転車のシェアリング事業も展開し、乗り物のビジネスを拡大している。

Q 将来的にどのようなサービスを目指しているのか。

コスロシャヒCEO
「われわれは現在、2つの大きな転換を進めている。1つはライドシェア事業からオンデマンド型モビリティー事業への転換だ。車でも電動キックスケーターでも航空機でも、街の中を移動する際にはわれわれのAIが一人一人の客にA地点からB地点に移動するための最適な手段をアドバイスする。それも手ごろな料金で、最短時間で簡単に行けるように。もう1つの転換は、食についてだ。料理の配達だけではなく、食料品全般の配達にサービスを拡充している。2つの転換を組み合わせることで、移動手段としても、モノを買う手段としても、皆さんの日常生活のあらゆる側面を支えるシステムになりたい。それが究極の目標だ」

巨額の赤字から脱却できるのか

壮大な目標を掲げる一方で、去年5月の上場後は、株価が一時大幅に下落したことで時価総額も減少。去年12月までの1年間の決算でも85億ドル(=約9300億円)を超える巨額の最終赤字を計上した。ウーバーの主要株主のソフトバンクグループが15年ぶりに営業赤字に陥った原因の1つにもなっている。

Q 上場後の減速の原因をどうとらえ、今後どのように黒字化を図っていくのか。

ダラ・コスロシャヒCEO
コスロシャヒCEO
「われわれがサービスを展開する飲食や輸送の市場規模は、世界で10兆ドル(=1100兆円)にのぼり巨大だ。その市場を取りに行くには積極的な投資が必要だ。ただ、今はマーケットから早期の収益化を求められており、ことしの第4四半期に黒字化するという見通しを最近、投資家に説明したばかりだ。ライドシェア事業でも料理の配達事業でも、われわれは世界でトップの規模を誇っており、他社と比べて優位性があり収益化しやすいポジションにある」

スタートアップの先駆けに問われるのは

コスロシャヒCEOが掲げるのは生活に欠かせない移動・食事を通じて消費者の日常のあらゆる側面に溶け込むようなサービスだ。つまり、1つのアプリを通じて多様なサービスを提供する「スーパーアプリ」のような存在になることではないか。

そして「ギグワーカー」という担い手によってサービスを提供することで、アプリのユーザーにとっても会社にとっても効率よく実現しようとするのがねらいだろう。

ウーバーのようなスタートアップ企業は、それまでのビジネスモデルや社会常識を“disrupt(破壊)”することで成長を遂げてきた。しかし、同じくソフトバンクグループが出資するシェアオフィス大手の米ウィー・ワークが経営難に陥ったことに代表されるように、スタートアップ企業の先行きを疑問視する声も上がっている。

それだけに先駆け的な存在であるウーバーが、コスロシャヒCEOが語るように、働き方やサービスを「破壊する」のではなく、世の中に役立つ形で成長できるのか。その岐路に立たされている。


経済部記者
伊賀亮人

2006年入局
仙台局 沖縄局 経済部 ネットワーク報道部をへて
19年夏から再び経済部
 

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