映画「THIS IS IT」 マイケルは天才だ!

  年末年始は映画三昧だった。クエンティン・タランティーノ監督の「イングロリアル・バスターズ」はかなりグロテスクな作品で、途中数人の女性が退席した。ローランド・エメリッヒ監督の「2012」、ジョナサン・モストウ監督の「サロ・ゲート」、ジェイムス・キャメロン監督の「アバター」はSFXを駆使した映画だった。なかでも「アバター」は最新3D映像によって、スクリーンから人や物がポンポン飛び出し迫力満点だったが、観終わったあとは頭が痛くなり目眩がした。ポン・ジュノ監督の韓国映画「母なる証明」とオーレ・クリスチャン・マセン監督のデンマーク映画「誰がために」はなかなかの力作だった。
ケニー・オルテガ監督の「THIS IS IT」には胸が熱くなった。映画はロンドン公演に向けてリハーサルをおこなうマイケル・ジャクソンの姿を克明に記録した映画である。彼の死の直前まで撮り続けられたという。
この作品の魅力はなんといってもマイケルの歌と踊りだろう。「フォー」とか「ヒッ」と奇声を発し、身体がアップテンポに躍動する。足と足首が、手と指先が別の生きもののように蠢(うごめ)く。僕は知らないうちに身体全体でリズムをとっていた。
映画のラスト近く、マイケルは「(自分のショーを見にくる)ファンの望みは『日常』を忘れる体験だ」と語った。これはすべての芸術に通じる言葉ではないだろうか。優れた映画や演劇や文学や音楽は僕たちを「非日常」世界の奥深くに誘(いざな)う。さすがマイケル! あなたは天才だ。
マイケルはリハーサルを絶対に撮影させなかったが、これを撮らせたのは彼の中に何か予感するものがあったからだろうか。ロンドン公演は実現しなかったけれど、まさに奇跡としかいいようのないこの作品が残った。
ところで映画の中の「非日常」が終わったあとでも、それが「日常」世界にまで浸蝕してきて、しばらくは座席から立ち上がれなくなるときがある。数年に一度だが、そんな打ちのめされるような作品に出会う。この話は次回にしよう。
(月藻照之(つきもてるゆき)進(しん))

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