戦後最大の惨禍と危機にあたって提言し、討論を呼びかけます

森岡孝二先生が、朝日新聞のオンライン「法と経済のジャーナル」に「原発事故で問われる東
電と経団連の企業倫理」を寄稿されました、こちらをごご覧ください。

戦後最大の惨禍と危機にあたって提言し、討論を呼びかけます
 
1 戦後最大の惨禍と危機
 
3月11日に発生した東日本の大地震・大津波と最悪の原発事故から3週間以上が経過しました。
人的被害の全容は未だに不明ですが、4月6日現在の確認された死者12554人、行方不明者15077に、未届けの安否不明者を加えると、犠牲者の総数は3万人を大きく超えると推定されます。物的被害の規模について、政府は、3月23日現在で、設備や道路などの直接的な被害額を16〜25兆円、生産減など経済活動に対する影響額を2011年度だけで1兆2500億〜2兆7500億円と試算しています。これは原発事故やで電力不足などの影響を除いた控え目な数字にすぎず、実際の被害額はこれより遙かに大きくなるものと予想されます。
また、東京電力の福島第一原発の原子炉損傷事故は、いまだ放射性物質の漏洩・放出が続き、住民生活や社会活動に重大な不安と影響を与え、広範で深刻な放射能汚染の恐れを生み出しています。3月30日に発表された原子力専門家の「福島原発事故についての緊急建言」が警告するように「更なる大量の放射能放出があれば避難地域にとどまらず、さらに広範な地域での生活が困難になることも予測」される事態にまでなっています。
この惨禍と危機にあたり、私達は以下のことを、政府と産業界に要望するとともに、国民のみなさんに提案します。
 
2 政府・産業界への6つの要望
 
1) 政府は、事故処理能力の欠如を露呈した東京電力を国家管理下に置き、政府関係機関と専門家の英知と経験を結集し、放射能の早急な閉じ込めに総力をあげる。
 
2) 政府は、原発事故関連情報の迅速かつ正確な公開を行う。そのために、経済産業省の「東日本大震災情報」を拡充するかたちで、インターネットを通じて常時アクセスできる、分かりやすい省庁横断的な原発事故関連の「即時開示情報」を開設・運営する。
 
3) 政府は、既存の法制度を全面的に活用して、被災者の雇用と生活の再建を支援する。それとともに、国債発行を含む予算の組換えや補正のかたちで、震災復興のための特別予算措置を緊急に講ずる。
 
4) 産業界は、当面予想される電力・部品供給の制約に対応した生産調整に当たって、雇用の最大限の維持と被災者への雇用機会の積極的提供を柱としたワークシェアリングを行い、震災を理由とした解雇・雇い止めを極力回避する。それとともに、電力・部品供給の制約を理由にした生産の海外移転と雇用の空洞化も極力回避する。
 
5) 政府と産業界は、今回の原発事故を全面的に検証するとともに、新たな原発立地を即時中止する。また、全国の原発54基すべてを総点検し、その結果を公表したうえ、今回の事故と同様の危険を抱えた原発は稼働を中止する。将来的には、太陽光などの自然エネルギーに転換し、広島・長崎の被爆と、阪神淡路大震災に続く東日本大震災の教訓に学び、地震列島日本のすべての原発を廃止する。
 
6) 東電の経営者は、今回の原子炉損傷事件について、放射能汚染拡大の早期収束に全力をあげるとともに、事故原発周辺の避難住民に対してはもちろん、農水産物を含む汚染・風評被害者に対しても最大限の賠償を行う。
 
3 国民のみなさんへの3つの提案
 
1) 戦後の民主化に匹敵する議論を
今後は、救援と復興の取り組みを進めるなかで、日本の経済社会のあり方についての議論を多様なかたちで沸き上がらせましょう。このたびの惨禍と危機の大きさから考えると、それは60数年前の戦後改革と民主化に向けた議論に匹敵する重みや広がりをもつものにしていくことが望まれます。
 
2) 環境・経済危機を乗り越える経済システムへ
今後の議論に際しては、私達は、今日の環境危機と経済危機をともども乗り越える道を展望することが求められています。二酸化炭素の排出量が少ないので地球環境に優しいというこれまでの原発利用の論理は最悪のかたちで破綻しました。今後は脱原発にとどまらず、資源・生産・消費・廃棄のエコロジーへの影響を最大限に考慮した経済システムへの転換が迫られています。
 
3) 働きすぎをなくし、消費生活の見直しを
また救援・復旧活動ではボランティアの役割とともに、人と人との絆あるいは繋がりの意義が強調されています。現代生活から失われた人々の絆・繋がりを取り戻すには、働きすぎをなくして、人々が家族生活と地域社会にもっと参加できる生活様式に転換し、さらにエネルギー多消費型の過剰消費社会を大胆に見直す必要があります。
 
天災と人災の両面をもつ今回の惨禍と危機をまえに、私達は救援と復興のために力を合わせると同時に、今後の日本のあり方について大いに議論し、知恵を出し合って、よりよい経済社会に転換していく端緒を切り開こうではありませんか。
 
2011年4月8日
                                        働き方ネット大阪 会長
                                                               関西大学教授 森岡孝二
 

 

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