運行会社ずさん 運転手の点呼漏れ常態化 安全教育なく過労運転も

長野・軽井沢のスキーバス転落 http://mainichi.jp/articles/20160119/dde/041/040/068000c

 

 15人が死亡した長野県軽井沢町のスキーツアーバス転落事故で、道路運送法上の不備が相次いで発覚しているバス運行会社「イーエスピー」(東京都羽村市)。事故を受け、イ社は大型バス事業からの撤退を表明したが、日常の運行管理は極めてずさんなものだった。【坂口雄亮、内橋寿明】

 

 「かなりひどい状態。この業者については徹底的にやるしかない」。事故後、特別監査を実施した国土交通省の担当者はそう漏らした。

 道路運送法は、バスの運行管理者が運転手に対面し、運行前に健康状態や酒気帯びの有無を確認する「運行前点呼」を義務付けている。イ社の運行管理者は1人で、運行管理者がバスに乗っている時は、「代務者」が運行管理を代行していた。

 高橋美作(みさく)社長も代務者で、事故車両に乗務する土屋広運転手(65)と勝原恵造運転手(57)の点呼を担当するはずだった。

 しかし、高橋社長は集合時間に5分ほど遅刻し、点呼場所の車庫に着くと、両運転手は出発した後だった。しかも2人から出発の連絡もなかった。点呼ができていないのに、点呼の書類には、点呼を終えたことを示す欄に社員があらかじめ社長の印を押していた。社員は「社長の負担を減らしたかった」と話しているという。

 高橋社長は「申し訳ない。何か問題があったとしても、2人が(出発時に)バスを引き継ぐ際、別の運転手が確認すると思った」と釈明した。

 点呼漏れは今回だけではない。高橋社長は「何回かあったと思う」と述べ、常態化していたことを示唆した。

 国交省の特別監査は15〜17日の3日間と異例の長さとなったが、その間、さまざまな問題点が浮上した。

 その一つが健康診断。2014年度の業務に対する昨年2月の国交省の一般監査で、13人中10人の運転手の定期健康診断を実施していなかったことが発覚した。更に、土屋運転手を昨年12月に採用した際、法令上必要な雇い入れ時の健康診断も怠っていた。

 安全教育もずさんだった。国交省は、運転手に対し定期的に運転上の注意点などを教育するようバス事業者に求めているが、イ社は昨年1月以降、全運転手に教育していなかった。

 複数の運転手の過労運転も確認されている。終業から始業までに8時間の休息が必要と定められているが、5時間しか休んでいないケースがあった。

車両にも違反の疑い

 バスにも法令上の不備や違反の疑いが次々に見つかっている。無理な運転がないかを走行後に検証する運行記録計が装着されていない車両があったほか、3カ月に1回実施することが義務付けられた定期点検整備の実施が確認できない車両もあった。

厚労省緊急調査、勤務実態確認へ

 塩崎恭久厚生労働相は19日の閣議後記者会見で、全国の貸し切りバス事業者を対象に労働基準法に基づいて緊急の集中監督を実施すると発表した。

 抜き打ちで立ち入り調査をし、運転手の勤務実態や健康診断の実施状況などを確認する。

 早ければ週内にも調査を始める方針。【古関俊樹】

国交省監査、週内に実施

 石井啓一国土交通相は19日の閣議後の記者会見で、事故を受けて実施する緊急の抜き打ち監査を週内に始めることを明らかにした。

 スキーシーズンが終わる3月半ばまでに、行政処分歴があるバス会社を中心に約100社を監査する。

 また、街頭で出発に向け待機しているツアーバスを対象に、交代運転手がいるかどうかや法令が定める書類を車内に備えているか確認する。

 石井国交相は監査の実効性を高める方策を検討するため、有識者委員会を設置する方針も示した。【内橋寿明】

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