奨学金を返せない 大学卒業から12年、生活の重荷に

2016年6月15日16時53分
http://www.asahi.com/articles/ASJ6B3QK2J6BUTIL00M.html  

写真・図版: 就職活動中の愛知県の大学4年生。返済の不安から昨秋、借りる額を減らしたという=3日、愛知県、貞国聖子撮影(省略)
 
 大学卒業から12年。那覇市の食品会社員比嘉勝子さん(35)は、120万円以上が返済できていない。

 4人きょうだいの一番上。琉球ガラス職人の父は収入が安定せず、母は夜勤のパートで体を壊した。高校と大学時代に奨学金を計380万円借りた。

 社会人1年目にして、母や下のきょうだい2人を扶養する世帯主となった。手取りの月給14万円は家賃や食費、妹や弟の学費で消えた。月2万1千円を奨学金の返済に充て、自由なお金は何もなかった。「結婚とか出産とか、人生設計なんて考えられない」

 4年後、低収入の場合の返済猶予の制度を知り、申し込んだ。ただ、それができるのも残り5年だ。

 今年、一番下の妹が独り立ちし、母親も親戚の家に移った。給料が初めて自分のために使えるようになったが、それでも「将来の返済が不安」という。

 ログイン前の続き愛知県の大学4年の女性(21)は就職活動中だ。大学4年間で奨学金を約400万円借りた。エントリーシートを書き、企業を回る間も「返済できるんだろうか」との思いが浮かぶ。まだ就職先は決まっていない。「安心して学べるような制度ってないのかな」

■滞納32万人、計900億円

 民間保険会社の試算では、子ども1人の幼稚園から大学卒業までの教育費は国公立の場合で約1300万円、私立だと2千万円を超える。奨学金の約9割を担う日本学生支援機構の貸与型奨学金の利用者は134万人(2015年度)にのぼる。

 14年度末時点の未返済者は約32万8千人で、滞納額は計約900億円。同年度に返済を求めて起こした訴訟は8495件で、10年前の146倍になった。月々の返済額は借りた額に応じて一律に決まるため、年収が低いと負担が重くなる。

 そのため14年、卒業後の年収に応じて月々の返済額が決まる「所得連動返還型奨学金」を導入することが決まった。17年度に始まる。ただ返済が長期化し、利息が増える懸念はある。

 返還不要の「給付型奨学金」については今年4月、文部科学省で議論が始まった。6月に閣議決定した「1億総活躍プラン」では、来年度の導入に向けた「検討項目」にとどまった。

 国立教育政策研究所の浜中義隆・総括研究官は「低所得者への対策として給付型は一定の効果があるが、これまでの対策は急場しのぎの部分がある。教育税の導入など抜本的な議論が必要だ」と話す。(石原孝、佐藤恵子、貞国聖子)

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