[若者S・O・S](下)「ブラック企業」横行 劣悪な職場環境(連載)

2012/12/08 大阪読売新聞 朝刊
 
◇働く現場から

 ◆就職難背景に“使い捨て”

サービス残業の強要など、法令違反を含む劣悪な環境で従業員を働かせる会社を「ブラック企業」と呼ぶ。

 大阪市内の男性(33)は2010年8月、飲食チェーンを運営する会社を辞めた。大学院修了後に派遣社員などを転々とした後、07年に就職。2年目に店長になり、新店舗の設立も任された。

 午前9時に出勤し、店の仕事が終わるのは午後10時頃。その後、エリアを管轄する上司から「接客が悪い」「店が汚い」とダメ出しがある。連日、夜中まで接客の練習や店内清掃をさせられた。

 月給は約19万円。月の残業が100時間、200時間になっても、休みが1日もなくても、額はほぼ同じだ。疲れ果てて出勤が遅れがちになると、上司が自宅に来た。「家で遊んでいるせいだ」とパソコンやDVDを持ち去った。

 「もう限界」。個人加盟の労働組合に駆け込んだ。会社と団体交渉をする間に体調が悪化。うつ病と診断され、休職を経て退職した。今は生活保護を受けている。「やっとつかんだ正社員の職だったのに……。今は、社会復帰ができるか不安」

◆年間相談300件超

「仕事を続けたいなら、パートになってもらうと言われて困っている」。11月28日夜、NPO法人「POSSE(ポッセ)」の京都支部が入るビルの一室で、メンバー約20人が電話相談に応じていた。20代の学生が中心だ。

 ポッセは若者の労働問題を若者自身で解決しようと、06年に東京で発足。年間の相談件数は300件を超え、最近はブラック企業で働く正社員からの相談が急増している。労組を紹介し、生活保護の申請に同行することもある。

 若者の早期離職が問題となっている。厚生労働省によると、09年3月に卒業後、就職した大学生のうち、3年以内に辞めたのは28・8%。なぜ、そうなるのか。

 ポッセは10年6〜10月、東京、仙台、大阪、京都のハローワーク前で、求職に訪れた若者(18〜34歳)223人に聞き取りをした。半数以上の122人で、離職理由が「自己都合」とされていた。雇用保険では、自らの都合で辞めると「会社都合」に比べて、失業手当の給付開始が遅れる場合がある。

 だが、事情を聞くと約8割で労働環境に問題があった。「産休を取らせてくれない」「頭をたたかれ、机を蹴られた」「辞めろ、死んでこい、とどなられた」――。証言からはパワハラが横行し、残業代不払いなどの違法行為が常態化している現実が浮かぶ。

 ポッセ京都支部代表の川久保尭弘(たかひろ)さん(25)は「こうした企業は、就職難を背景に『代わりはいくらでもいる』と脅して働かせる。疲弊したら退職に追い込み、使い捨てる」と指摘。決して身勝手に職場を去っている訳ではない――と強調する。

 ◆社会全体で解決を

 甲南大准教授で「搾取される若者たち」の著書がある阿部真大(まさひろ)さん(36)(労働社会学)によると、最近の若者は真面目で何でも器用にこなすタイプが多いという。「それは、大人が求める若者像に自分を合わせた結果」と分析する。

 阿部さんは「競争が激化し、若手を“コマ”としかみなさない企業が増えた。だが、若者が成長しながら、働き続けられないような社会に、未来はない」と話す。「若者の苦境を当事者だけの問題とせず、社会全体で解決策を探るべきだ」
(古岡三枝子が担当しました)

 ◆自分を責めずに専門家に話して

 「自分の会社はブラックかもしれない」と感じたら、どうすればいいのか。

 川久保さんは「決して『つらいのは能力がないからだ』などと自分を責めないで」と訴える。ポッセに相談する若者の多くは、違法な状態で働かされていても会社の言い分をうのみにし、非は自分にあると考えがちだという。「おかしい」と感じたら、その気持ちを大切にしてほしい。

 長時間労働やパワハラの被害を受けているなら、証拠を残すことが大切だ。勤務時間を手帳に記録し、ICレコーダーで上司とのやりとりを録音する。何より「弁護士や労働組合、NPOなど専門家に相談を。支えてくれる仲間がいます」と呼び掛ける。

写真(略)=ポッセ京都支部への相談は電話(075・365・5101)かメール(kyoto@npoposse.jp)で。

写真(略)=電話相談に応えるポッセのメンバーたち(京都市内で)

この記事を書いた人