職安求人票、現実と差 被災地で賃金不払い、短期解雇

河北新報 2013年12月10日

 外国人の男性が見つけた求人票。実際の労働条件とかなり違っていた

 東日本大震災に関する公共職業安定所の求人票が実際の労働条件と懸け離れ、仙台市近郊で働いた労働者が雇用トラブルに巻き込まれていた。労働者は「正規の職業紹介窓口は安心」と信じたが、仕事先で賃金を支払ってもらえず、短期間で解雇された。職安を「橋渡し役」として不適切な雇用が横行している構図が浮かぶ。
 東京都の外国人の40代男性が2011年6月、関東の職安で見つけた求人票には「被災地での家屋解体と整地、片付け」とあった。日給は8000〜1万3000円。雇用期間は3カ月と記されていた。特記事項に「契約は最大で5年間まであります」とも記されていた。
 求人票を出したのは愛知県内の会社。男性は同社の社長と電話でやりとりし、履歴書と健康保険証のコピー、職安による紹介状を送った。
 3カ月後の9月上旬になって、会社から連絡があった。「仙台へ行って地元業者の指示に従ってほしい」
 新幹線で仙台市に向かうと、地元業者が迎えに来た。言われるがままに区役所で住所を変え、市内のアパートに住んだ。
 被災地で破損した家屋の基礎をスコップなどで壊す仕事に就いたが、働いたのはわずか2日間。社長に「あなたはクビだ。仕事中にたばこを吸ったり、携帯電話で話したりした」と告げられた。
 会社側は賃金の支給を拒み、男性側は都内の労働基準監督署に駆け込んだ。最終的に、会社から2日分の賃金など計約2万円が支払われた。
 男性から相談された労働者支援団体によると、会社は建設会社のような名称だが、実態は人材派遣業だという。
 男性は「勤務中に喫煙していないし、携帯電話で話をしていない」と強調。「5年間被災地で頑張るという強い気持ちがあった。こんなことはやめてほしい」と語る。
 日本人の妻は社長から「地元業者が仕事をキャンセルした」と聞いたが、「解雇の正当な理由はなかったとしか思えない」と憤る。

◎労働条件の監督権なく/求人票内容トラブル、司法判断も分かれる

 求人者は通常、各地の職安で賃金や就業時間などを示す。職安が受理して登録すると、求職者は各地の職安で求人票を見ることができる。
 男性の求人票には注意事項として「採用時の賃金・労働時間などの労働条件については事業主と再度確認してください」と記されていた。
 担当者は「求人者の示した内容に間違いがないかを確認し、受理することを徹底している。求人者にうそを言われたらどうしようもない。職安はサービス機関で、強い監督権はない」と話す。
 求人票の内容に関する裁判所の判断は分かれている。
 大阪高裁は1990年、「求職者は求人票の事項が雇用契約の内容になると考える。当事者間で異なる合意など特段の事情がない限り、雇用契約の内容になると解するのが相当だ」と指摘した。
 一方、東京高裁は83年、「募集事項はあくまで採用者側からの申し込みの誘引にすぎない。求人票に記された事項がそのまま労働条件になることを保証したものではない」と解釈した。
 東北の労働者支援団体によると、ある男性は震災後、職安で日当1万5000円の仕事を見つけた。8000円しか支払われず、職安に伝えると「うちは仕事の紹介をするだけ。事業主と相談してほしい」と言われたという。
 団体の担当者は「監督行政がしっかりしていないと、職安を介した震災関連の仕事で賃金などのトラブルが多発する」と危ぶむ。

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