教えてワークルール:時給800円だけど仕方ない

毎日新聞 2014年12月29日 東京朝刊

労働教育のシンポジウムでワークルール授業の報告を行う神奈川県立田奈高校の吉田美穂教諭=東京都内で、東海林智撮影(省略)

 <第2、5月曜>

 ◇高校で広がるクイズ形式授業

 前回、労働法を無視して若者を使い潰す「ブラックアルバイト」の実態を紹介しましたが、大学生だけでなく、高校生も同様の被害に遭っています。悪質なバイトから身を守るため、学校現場でワークルールを教えようという動きが広がり、労働教育研究会も結成されています。どんな授業が行われているのでしょうか。

 Q ワークルールってこれまで学校では教えていなかったの?

 A 全くなかったわけではありません。例えば、昼働いて夜に学ぶ定時制高校などでは、独自にテキストを作り、ワークルールを教えている先生もいます。けれど、ほとんどの場合、労働基準法が最低限の働くルールであることや団結権など労働三権の説明をする程度で、実際にどのようにワークルールを使うかなどは教えていないのが現実です。

 Q キャリア教育は最近盛んだと聞くけれど。

 A そうですね。世の中にはどういう仕事があり、それに就くにはどういう勉強が必要か、とか職業体験を通じて働く意義を学ぶなどの教育は盛んになっています。それも大事ですが、実際に働き始めて困難に直面した時に、どういう解決方法があるのか、働く者の権利などについては十分な教育が行われているとは言い難い現状です。

 Q どうして、ワークルールの教育が必要なの。

 A アルバイトする高校生は多くいますが、高校教諭によると、休憩時間なしの8時間労働をさせられたり、最低賃金以下で働かされている例が実際にあるというのです。いずれも違法行為ですが、正しいルールを知らないために、それが当たり前だと思ってしまうのです。労働教育研究会の呼びかけ人でもある宮里邦雄弁護士は「ブラック企業に見られるように、ワークルールが守られない状況が常態化してしまえばルールなき世界になる。学校教育でルールを教えることの重要性が増している」と話しています。

 Q 高校ではどんな授業が行われているの?

 A 20日に東京都内で開かれた、研究会などが主催した公開シンポジウムでは、神奈川県立田奈高校(全日制・普通科)と東京都立世田谷泉高校(単位制)の二つの公立高校の授業が報告されました。

 田奈高校の吉田美穂教諭は、働き方をテーマにしたクイズを作り、ワークルールの基礎知識を学ぶ方法を紹介しました。例えばクイズの問題は、「バイト先の賃金が時給800円です。安くて不満だけど、その契約で始めたので仕方ない?」「仕事が遅いと言われ、バイト代は同じままで残って仕事をしています。残業代は払ってもらえないの?」−−などです。答えは、神奈川県の最低賃金(887円)を下回るため、800円の契約があっても違法です。また、所定時間を超えて働かせたら、割増賃金を加算しなければなりません。実際、授業の後、最低賃金以下で働いている生徒が相談に来て、バイト先が最低賃金の更新を行っていないことが分かり、申し入れて是正されました。

 クイズなどを通した学びを受けて、労働問題に取り組むNPO「POSSE」のメンバーがワークショップ方式で授業をします。例えば、コンビニエンスストアで余ったおでんを買わされたという事例で、どうお金を取り返すかなどを考えます。吉田教諭は「賃金が上がった子もおり、ワークルールは自分たちが使えるルールだと実感してくれます」といいます。

 Q 教科書などはどうしているの?

 A 総合的な学習の時間や政経の授業の中で行われるので、教科書があるわけではありません。世田谷泉高校の西村由夏教諭もワークショップとクイズ形式の授業が中心です。ただ、東京都産業労働局が作製した「これだけは知っておきたい 働くときの知識〜高校生編〜」というワークルールを分かりやすく解説したパンフレットを配布し、クイズの答え合わせに使い、理解を深めています。

 Q 他にワークルールを解説したパンフレットなどはあるの?

 A 厚生労働省がホームページで「知っておきたい 働くときのルールについて」という分かりやすく書かれたパンフを公開しています。

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 ◇答える人・東海林智(とうかいりん・さとし)

 1988年入社。東京本社社会部で労働問題を担当。著書「貧困の現場」(毎日新聞社)で日本労働ペンクラブ賞、数々の新聞報道で貧困ジャーナリズム賞を受賞、近著に「15歳からの労働組合入門」(毎日新聞社)。

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