<どうなる年金 読み解き財政検証>(上)(9/1) (中)(9/2)

<どうなる年金 読み解き財政検証>(上)82歳以降 生涯総額プラス 70歳に受給繰り下げた時
https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201909/CK2019090102000140.html
東京新聞 2019年9月1日 朝刊

〔写真〕https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201909/images/PK2019090102100064_size0.jpg

 年金は大きく分けて二種類ある。二十歳から六十歳になるまで全ての人が加入する国民年金と、会社員や公務員が加入する厚生年金だ。年金を受け取るには、十年以上の加入期間が必要で、原則として六十五歳から受け取り始めるが、受給開始年齢は六十〜七十歳の間で選べる。六十五歳から受け取る場合と、受給を早めたり遅らせたりした場合を比べると、生涯の年金額はどちらが多いのか。

 六十五歳よりも前に受け取る「繰り上げ受給」の場合、本来受け取る額よりも一カ月当たり0・5%減額される。六十歳に繰り上げた場合は六十カ月分の合計で30%減る。現在の国民年金の月額に当てはめれば、満額の約六万五千円が約四万五千円になる計算だ。七十六歳八カ月を超えると、六十五歳から受け取る方が総額は多くなる。

 一方、六十六〜七十歳の間に受け取り開始を遅らせる「繰り下げ受給」を選んだ場合は、受給が一カ月当たり0・7%増える。七十歳に繰り下げた場合は42%増額される。国民年金の月額に当てはめれば、約九万二千円に膨らむ。八十一歳十一カ月を超えれば、六十五歳から受け取った場合の総額を上回る。

 厚生労働省によると、日本人の平均寿命(二〇一八年)は、男性八一・二五歳、女性八七・三二歳。男性の場合、平均寿命より少し長生きすれば、七十歳から受け取る方が有利になる計算だ。

 ただ年金受給者の中で、七十歳からの受け取りを選択した人(一七年度)は、国民年金が受給者全体の約1・5%の約四千人、厚生年金が1・2%の約二万一千人にすぎない。七十歳まで働くことを希望する人の雇用が法律で企業に義務付けられていないことが一因とみられる。

 今回の財政検証は、受給開始をさらに繰り下げ、七十五歳とした場合も試算した。経済成長が標準的なケースでは、六十五歳から年金を受け取ると、現役世代の手取り平均収入の半分程度の水準にとどまるが、七十五歳まで働いてから年金を受け取ると、現役世代の収入に迫る水準まで上昇すると見込んでいる。

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 厚労省が公表した公的年金の財政検証では、目減りする年金を増やすための政府の検討案も示された。受給開始年齢の繰り下げやパート労働者らの厚生年金への加入拡大など、検証が示した将来の年金の姿を読み解く。(この連載は村上一樹が担当します)

<どうなる年金 読み解き財政検証>(中)厚生年金 パート職員拡大 支え手増 企業は負担増
https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201909/CK2019090202000132.html
東京新聞 2019年9月2日 朝刊

〔写真〕https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201909/images/PK2019090202100069_size0.jpg

 公的年金は、高齢者の年金収入を、現役世代の保険料と税金が支える形で成り立っている。少子高齢化で減り続ける支え手を増やすため、政府はこれまで厚生年金の対象外だったパート職員らも加入できるようにする制度改正を検討している。

 会社員や公務員が加入する厚生年金は、従業員が五人以上いる会社は原則として加入が義務付けられる。正社員以外のパート職員やアルバイトも、一週間の勤務時間や一カ月間の働く日数が正社員の四分の三以上あれば加入者となる。

 二〇一六年十月からは、勤務時間が週三十時間未満の短時間労働者にも、厚生年金の適用を拡大した。(1)従業員が五百一人以上(2)賃金が月額八万八千円(年収約百六万円)以上(3)労働時間が週二十時間以上−などの条件を満たせば、加入することになった。

 配偶者がパートで働くときの年収を巡る「百六万円の壁」という言葉は、条件(2)に関係がある。専業主婦(主夫)がこの規模の事業所で働き、年収百六万円を超えると、厚生年金と健康保険の保険料が給料から天引きされ手取り額が減る。それを避けるため、年収百六万円を超えないように勤務時間を抑えることだ。

 今回の財政検証では、一六年の制度改正よりもさらに適用範囲を拡大したケースの影響を試算し、(1)の従業員数の条件を撤廃すると百二十五万人、(1)(2)とも条件をなくすと三百二十五万人の加入者が増えると見込んだ。支え手が増えて保険料収入が改善し、年金の給付水準もやや上向くと推計した。

 ただ、厚生年金は月給やボーナスの18・3%に当たる保険料を、社員と会社が半額ずつ負担するため、厚生年金に加入する社員が増えれば、企業の保険料負担はそれだけ大きくなる。

 経済界には「短時間労働者を多く雇用している卸売りや小売業などには、経営に大きな影響が出る」と懸念する声もある。
 

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