保育士確保ままならず 札幌の認可施設4割定員割れ 来月から幼保無償化 (9/30)

保育士確保ままならず 札幌の認可施設4割定員割れ 来月から幼保無償化
https://mainichi.jp/articles/20190930/k00/00m/040/016000c
毎日新聞2019年9月30日 08時17分(最終更新 9月30日 08時17分)

〔写真〕保育士の話を聴く園児たち。保育士は首から無線をかけており、園内連絡など業務の効率化も図っている=札幌市東区の認定こども園「せいめいのもり」で

 10月から幼児教育・保育の無償化が始まる。認可保育所などに通う3〜5歳児と住民税非課税世帯の0〜2歳児の保育料が無償になり、子育て世代には負担軽減となる一方、待機児童の増加が懸念されている。札幌市では保育士不足などの理由で認可施設の4割以上が園児の定員割れを起こしており、現場からは「保育士確保もままならず、保育の質の低下につながる」などの指摘もあり、課題を抱えている。【今井美津子】

格差広がる恐れ
「保育士の争奪戦になっている。募集しても人が集まらず、定員まで園児を入れられない。無償化で利用者が増えれば、どうなるのか」。市内のある認定こども園の園長は不安を口にした。

 この園では産休中の職員2人の代替職員が見つからなかった。保護者の就労の有無を問わない幼稚園部分を除く在園児は定員に2人満たない88人。保育士養成学校に求人票を出すものの、他園からも多くの求人票が届き、学生の目に留まるのは難しいという。

 園長は「保育士が集まれば付加価値をつけた教育ができるのに、それができる園とできない園で格差が広がってしまうかもしれない」と危惧する。

 北海道労働局によると、今年7月の道内の保育士の有効求人倍率は2・65倍だった。5月以降、3カ月連続で2倍を超える高水準を維持する一方、保育士不足などを理由に札幌市の認可施設では43%(8月1日現在)が定員まで園児を受け入れることができずにいる。

対策が追いつかず
保育士不足の最大の要因は賃金の低さといわれてきたが、国は2017年から、経験7年以上の中堅保育士を対象に、月給に4万円を加算するなどの処遇改善を進めてきた。札幌市も今年度、勤続年数に応じて10万円を給付する独自事業を開始するが、それでも保育士不足が解消されない。

 背景の一つに挙げられているのが、利用希望者の増加。今年4月1日時点で、札幌市の待機児童数は0人だが、希望する認可施設に入れないなどの「潜在的待機児童」は1947人に上った。市は来年度までに定員を新たに2073人増やす予定だが、担当者は「利用希望者の増加に追いついていない」と話す。

 市は16年、保育士の就職をサポートする「保育士・保育所支援センター」も開設。保育士資格を持ちながら、職に就いていない「潜在保育士」の掘り起こしや求職中の保育士と認可施設のマッチングを行っているが、同センターにあった昨年の求人1175人のうち、実際に採用されたのは94人にとどまった。

就職希望者多い園も
独自の施策で保育士の確保に成功している園もある。札幌市東区の認定こども園「せいめいのもり」は、職員の平均勤続年数が9年と市内の平均(7・7年)を上回る。63人いる職員のうち、今年度の離職者は0人で、他園からの移籍など就職希望者も後を絶たない。司馬政一園長は、その理由を「先生たちの生きがい作りを大切にしているから」と説明する。

 同園では子ども一人一人の発達に合わせた保育を重視し、運動会など一律の指導になりがちな行事を廃止した。決まったカリキュラム通りの保育をするのではなく、毎日の子どもの様子を見て柔軟に保育内容を決定するという。

 保育士の紺谷美沙貴さんは「一律の指導では子どもの発達段階に合わないことが多く、子どもも大人もストレスを感じていた」。他園から移籍して3年目の佐藤麻紀子さんは「自分で考えなければならないことが多く、その結果がダイレクトに子どもに影響する。悩むことは多いが、手応えも感じる」という。

 一方、同園では保育の質の維持に向け、3歳児以上の保育料として10月から、1人当たり一律5000円を新たに徴収する。司馬園長は「保育士は国家資格を持ったプロ。国は予算を保育の質の確保に当ててほしい」と訴えている。

 保育士の待遇などに詳しい藤女子大の吾田(あづた)富士子教授(保育学)
(先進工業国中心に36カ国が加盟する)経済協力開発機構(OECD)の中で、幼児教育を無償化していないのは日本だけだったことを考えれば、国が幼児教育の重要性を認めたことは大きな一歩だ。保育士はAI(人工知能)に代わることができない未来を作る仕事。保育の質の確保や人材育成は一保育園の努力でどうにかなることではない。保育士の社会的評価を高めることが重要ではないか。 

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