24時間365日営業を強いられては普通に生活することもできない。コンビニ元旦休業に向けたオーナーの悲痛の訴え (12/13)

24時間365日営業を強いられては普通に生活することもできない。コンビニ元旦休業に向けたオーナーの悲痛の訴え
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20191213-00208620-hbolz-soci&p=1
2019/12/13(金) 8:34配信 HARBOR BUSINESS Online

24時間365日営業を強いられては普通に生活することもできない。コンビニ元旦休業に向けたオーナーの悲痛の訴え

〔写真〕(ハーバー・ビジネス・オンライン)

売り上げがほとんどない元日に営業する必要はあるのか?
今月11日、都内でコンビニ関連ユニオンの組合員らが記者会見を開き、全国のコンビニオーナーに対して年末年始に行うストライキへの決起を呼びかけた。同ユニオンは本部社員、フランチャイズ加盟店オーナー、店舗従業員、アルバイト、配送ドライバーなど、コンビニ関連のあらゆる労働者が加入できる労働組合だ。

 セブン‐イレブン・ジャパンの本部社員でありユニオンの委員長を務める河野正史さんは「セブン‐イレブンのデータを見てみると、元日の売上は全然ありません。赤字まで出して店を開ける必要はない。倒れるまで働く必要はない、休みたい時は店閉めちゃいましょう。これを私たちはストライキと位置付けています」と語った。元旦ストには現時点で全国から20〜30店舗の参加が決まっているとのことだ。

 今回の会見にはローソンとミニストップからもオーナーが参加し、苛酷な労働条件を強いられている現状について語った。コンビニ関連ユニオンは9月11日から毎月11日に記者会見を開いており、今回で4回目。これまでの会見ではセブン‐イレブンの本部社員・オーナーが公正取引委員会への集団申告について報告する内容が中心だったのに対して、今回の会見は各コンビニのオーナーが正月ストの参加を呼びかけ、またユニオンの活動の意義について訴えるものとなった。

 本記事では、オーナーらがそれぞれどのような思いで会見に臨んだのかに焦点を当てて会見の内容をお伝えしていきたい。

河野委員長「一人の勇気ある行動が団結を生み出す」
会見はセブン‐イレブン・ジャパンの永松文彦社長に対する批判から始まった。今月10日、永松社長はパート・アルバイト従業員に対する4.9億円以上の未払い残業手当が存在することを会見で発表した。

「永松社長は人事部長をやっていた時代もあり、この問題をずっと知っていたはずです。セブン‐イレブン・ジャパンという会社はずっと嘘をついてオーナーさんや従業員さんを騙してきた。その中でどれだけのオーナーさん、従業員さん、ドライバーさん、工場員さんが苦しみ、そして亡くなってきたか。それを思うと許せない。過去の記録がないと言って済まされる問題ではない。今コンビニで働いているパート・アルバイトの人たちはそのほとんどが各都道府県で最低時給で働かされています。その人たちにとって10円20円、それがどれだけ大切かを永松社長には分かってもらいたいです。永松社長は3ヶ月減給で賠償すると言っていますが、年間1億円以上の報酬をもらっています。もうそれを全部返上しろと言いたい。昨日の会見を見ても反省の顔をしているとは思えなかった」

 そして河野委員長は24時間365日営業を強いられる日本のコンビニ業界の異常さを具体的に語り、それを変えていくための行動をオーナーのみならず本部社員に対しても訴えた。

「私たちは24時間365日やる必要はまったくないと思います。先月私は韓国に行ってきたのですが、日本で言えば歌舞伎町にあたるような歓楽街・明洞(ミョンドン)のセブン‐イレブンに夜7時頃に行ったら閉まっていたんです。出てこなかったらレジをドンドン叩かれるだとか、そんなのは日本だけなんです。日本がこういうふうになってしまった新自由主義の台頭してきた30年間、この30年間を覆していきましょうよ。

 8時間は労働してもいいけれども、8時間は睡眠をとって、8時間は自分の時間を、こういうふうにしていかないと本当に体がもたないですよ。正月は家で酒を飲んで餅を食う、そんな経験を20年も30年もしたことがないオーナーさんがいるんです。迷っているオーナーさん、疲れていると思います。人の命がかかっている問題です。今年の1年間だけを見ても、加盟店共済会の調べだと年間30人位のオーナーが若くして亡くなっているというデータがあるんです。

 私たちはストライキをどんどん増やしていこうと考えています。コンビニだけではなくて、他の業種も正月くらい休んじゃおうよと。正月に休めなくても他の日に休みましょうと呼びかけています。元旦ストライキ、一緒にやりましょう。

 さらに、私は何よりもセブン‐イレブンの本部社員として、コンビニの本部社員に訴えたいんです。おかしいことにはおかしいと、間違っていることには間違っていると声を上げましょうよ。一人の勇気ある行動が団結に絶対繋がると思います」

本部社員の無断発注などから見える「体質」
次にユニオンの副委員長を務めるセブン‐イレブン前橋荻窪町店の永尾潤さんからの発言があった。永尾副委員長は今回の年末年始ストでは12月30日から1月3日まで店を閉めるつもりでいるが、本部からは認められず、コンビニ経営により借金を抱えているという事情もあり、実際に数日間に及ぶストライキを行うかどうかはまだ思案中だという。

 永尾副委員長は2009年にセブン‐イレブン・ジャパンが見切り販売の制限に関して公取委から排除措置命令を受けた時から本部と闘ってきたオーナーの一人であり、今回の会見でもかなり古い資料を交えながら本部の不正を告発した。永尾副委員長の発言のうちで特に重要だと思われるのは、「おでん無断発注」を結果として生み出した原因であるセブン本部の闇が暴露された点である。本部が事前にメーカーとの間で仕入数量を指定して契約を結び、そうして仕入れた商品をオーナーに押し付ける形になっている問題については第二次集団申告の記事でも言及したが、今回の会見ではより一層深い問題提起が行われた。

 オーナーがOFC(店舗経営相談員)の役職にある本部社員におでんを無断発注されるという個別的・局所的な問題の背景には、セブン‐イレブンという会社の腐敗した体質が全体的な問題として存在している。本部がメーカーとの間に契約を結んで仕入れてきた商品をとても売りさばけないほど大量に押し付けられ、断れば契約を解除すると脅される。この点でオーナーが被害者であることは上掲の記事で書いたが、今回の永尾委員長の発言は本部社員の側が抱える問題、つまり何故無断発注をしてしまうのかという事情に迫っていた。

「OFCはオーナーに発注させることができないとFC会議で立たされてしまう。結果、発注の強制、無断発注が起こってしまうということになります。まず数量契約ありきになっていて、それをOFC個人のノルマとして押し付けてくるんです」

永尾副委員長が語る、鈴木敏文の「魔女狩り経営」
永尾副委員長はイトーヨーカ堂で働いていたこともあり、創業以来数十年にわたってセブンの経営を主導し続けた鈴木敏文氏のもとで三十年以上前からこうした事態が横行していたことを指摘した。

「これは三十数年前のイトーヨーカ堂の時からやってました。今から30年くらい前、日糧製パンのチーズ蒸しパンが流行った時、イトーヨーカ堂の店長会議で売っていない店が立たされて、うちの店は売っていたから立たされずに済んだ。当時のイトーヨーカ堂の店長は泣きながら『立たされずに済んだ、ありがとう』と俺に言っていました。そういうことをずっと鈴木敏文さんは続けてきた。俺はこれを魔女狩り経営と言うんですけど、本部のやり方に従わないOFCは魔女狩りのように断罪される。だからオーナーに押しつけちまえということになるんです」

 本部社員による無断発注も、数量契約ありきでノルマを押し付けられ、そうした圧力のもとでやむを得ず選択するしかない手段と化してしまっているのだ。これを本部社員個人の人格の問題と見なし、すべての責任をそこに帰してしまうのは明らかに間違いである。「おでん無断発注」については、やられるオーナーもたまったものではないのは言うまでもないことだが、本部社員もこのようなハラスメントを受けた結果そうした行動に走ってしまうという点でまた別種の被害者だといえる。末端の社員ではなく、それを指導した上層部の責任が問われるべきなのだ。

 この問題については、被害者どうしが殴り合う地獄のような状況が出現してしまっている。だがこうした状況を打ち破っていくためにこそ労働組合がある。河野委員長は筆者に対して「組合員のオーナーと話していると未だに本部のクソ社員め、などと言われます。もちろんこれは冗談として言うんですが」と話した。コンビニ関連労働者のあいだでもオーナーや本部社員といった地位・待遇の差はあり、組合に入ったからといってそうした条件がなくなるわけではない。しかし、コンビニ関連ユニオンはそのような分断を団結によって乗り越えていくことを目標として掲げている。そしてそうした形の団結はユニオンのなかで現に芽生えてきている。

ローソン、ミニストップのオーナーも本部の実態を暴露
今回の会見にはミニストップ、ローソンから計3人のオーナーが参加し、これまでの会見ではあまり語られなかったセブン‐イレブン以外のコンビニの実態が明らかになった。

 ローソンは10月に元旦休業を全国の約100店舗で認める実験をすると発表し、これについてはネットで賞賛の声が上がっていた。しかし、公式に認められたこの元旦休業は実際にどの程度オーナーを利する効果を持つものなのか。ローソンは全国に14000店以上の店舗を抱えるコンビニであり、そのほとんどは元旦も営業することを強いられている。今回会見に参加したオーナーの発言からは、その大多数を占める末端オーナーの苦悩が伝わってきた。

「本部の言う通りにやっても利益が出ず、人件費を抑えるしかないという判断をしましたが、24時間営業しなければならない状況だとにっちもさっちもいかない。利益が出ないから人件費も出せず、借金するか、それとも自分で身を粉にして働いて病気になるかのどちらかしかない、というところまでいきました。

 でも時短したいって言ったらダメだと言われたんですよ。ローソンの社長は前から時短を認めていたと言っていたけれど、それはほんの一部の人だけで、私たちみたいな普通のお店のオーナーはダメだとずっと言われています。24時間労働で普通に生活することもできない、そのためには自分の力だけでは無理だということでユニオンに加入しました。

 それで、『今のコンビニのシステムはおかしいから、このままじゃダメだということを訴えていきたいと思います』ということを本部の人に訴えましたら、急に慌ててやってきて、『やめたいならやめていい。違約金もいらないし借金もチャラにします』と言われた。もうびっくりしました。今は交渉中です」

時短は利益の問題じゃない、体の問題
また、ローソンだけではなくセブン‐イレブンもファミリーマートも、時短を行う時は必ず「実験」という名目でやることになっているが、ローソンのオーナーからはその是非を疑問視する発言もあった。

「本部は時短の場合に客入りなどの状況を調べるために『実験』をするといつも言うんですけど、私たちにとって時短は利益の問題じゃないんです。体の問題です。そこの問題意識をまったく共有してくれていない。現場の労働者が24時間営業で重労働をさせられているのを認識しているのかなと疑問に思います」

 ミニストップのオーナーは赤字で経営ができず、やむを得ず閉店に追い込まれてしまった。それは借金を抱え込んでしまった結果だったのだが、雪だるま式に借金が膨らんでいく過程を歩ませた元凶は、経営のサポートを放棄しあらゆる責任をオーナー自身に背負い込ませる本部のやり口だった。

「開業当初からミニストップ専用のはずの駐車場のはずが、三分の一くらいの駐車場が使えず売り上げが下がりました。あとは設備の不良です。たとえば水道の水漏れですと、本部の人に交渉してもまったく直してもらえない。それで仕方なく弁護士に頼むとすぐに修理を手配してくる。保険も直接交渉しないと使えない状況で、交渉している時間がないので弁護士に頼むことになりました。そうして借金が雪だるま式に膨らんでいって、とうとう閉店という形になったということです」

 ローソン、ミニストップのどちらとも、既に閉店が決まったかもしくは交渉中の段階にあるオーナーであり、その表情は険しいものだった。

生きるための元旦ストを
今回の会見ではコンビニ労働者にスト権があるのかどうかという話も出てきた。ユニオン側からも「必ずしもストライキという形でなくても構わない。ヘルプ制度を使うという形でも、時短営業という形でもいいので、元旦に休みを取ってほしい」との意見が述べられ、コンビニ関連労働者の闘いの厳しさを垣間見た思いがした。

 確かに今年3月に中央労働委員会から「コンビニオーナーは労働組合法上の労働者には当たらない」との判断が示された。これについては東京地裁で係争中であり、法律的に言っても中労委の判断が正しいと完全に確定されたとはいえない。しかし、中労委の判断が正しいか否かという議論がどういった方向へ向かうのかには関係なしに、今回の会見を通して見えてきたのは、24時間365日の営業を強制されている現状の苦しみを訴えるオーナーたちの姿であった。彼らが「労働者」であるか「個人事業主」であるかは定かではなくても、そうした法律上の定義とは関係なく、現に生きるか死ぬかの問題を抱えながらこうして声を上げているというのは否定しようのない堅固な現実である。

 「労働者には法によってストライキが権利として保障されている」という状態を、法の抜け穴をついて労働者側が不利になるよう「『労働者』として認められなければストライキという権利は保障されない」と読み替え、現実の労働者を縛る鉄鎖となすような事態はあってはならない。自らの置かれた困難で理不尽な状況を現実として訴え、そこに依拠し行動を起こす労働者の存在こそがまず何よりも尊重されるべきだ。

 ちなみに永尾副委員長は会見で「法的なところで言っても、3年前に人がどうしても集まらず死にそうになった。弁護士に相談したら『命が優先だからそれは正当防衛が成り立つ。閉めていい』と言われた。そしたら本部の人間がオーナーヘルプ制度ですっとんできましたけどね」と語った。生きることすらできなくなる状況に対して抗議する行動は、それがストライキと呼ばれようと他の名称で呼ばれようと、そんなこととは関係なしに必要だ。「元日くらい休ませろ!」というメッセージは、元日すら休めない状況ではもはや生きていくことすらできない、というオーナーたちの痛切な思いである。

<取材・文/鈴木翔大>

【鈴木翔大】
早稲田大学在学。労働問題に関心を持ち、執筆活動を行う。

ハーバー・ビジネス・オンライン

 

この記事を書いた人