東京新聞【社説】新型コロナ対策 雇用不安を広げている (3/6)

【社説】新型コロナ対策 雇用不安を広げている
https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2020030602000167.html
東京新聞 2020年3月6日

新型コロナウイルスの感染対策として安倍晋三首相が唐突に要請した小中高校の一斉休校により、多くの人の就労に支障がでている。解雇の懸念もある。だが、働く人への支援策は後手後手だ。

 政権には働く現場への想像力がないのではないか。一斉休校と同時に示すべきだった雇用対策の泥縄式の対応を見ていると、そう思わざるを得ない。

 学校現場の混乱に加え、代わりに児童を受け入れる放課後児童クラブ(学童保育)は人材のやりくりに四苦八苦している。放課後からではなく朝から対応しなければならないからだ。

 厚生労働省と文部科学省は今週になってやっと、小学校の空き教室を居場所として活用できるよう決めた。

 休校で子どもが自宅で過ごすため仕事を休まざるを得ない人への支援が整っていない。

 首相は二月二十九日の会見で、休業する保護者の所得減少対策の具体的な内容は語らなかった。

 今は、共働き世帯は千二百四十五万世帯と専業主婦世帯の二倍を超える。多くの女性が働く時代だ。「女性の活躍」を重要な政策に掲げる割に目配りが足りない。

 厚労省は急きょ、休業する人への助成制度の検討を始めたが、非正規雇用の人も対象にする以外、詳細は決まっていない。

 一方で、雇用されていない自営業者やフリーランスは対象外だ。政府は「多様な働き方」の実現も進めているが、これでは働き方の違いで格差がでる。不十分な支援は逆に雇用不安を広げている。

 非正規の人は、休校で就労できないと解雇される懸念がある。解雇されると助成制度の対象外になる。短時間労働者だと失業しても雇用保険の失業給付を受けられない場合もある。労働相談に応じている労働組合には既にそうした相談が寄せられているという。

 人手不足に陥る職場の対応も課題だ。既に医療機関で看護師が足りなくなる問題がでている。保育所や介護現場なども含め女性職員の多い職場で支障がでている。

 人手が足りない職場では過重労働も心配だ。過労対策は欠かせない。人手不足で十分なサービスを受けられなくなる子どもたちや高齢者にもしわ寄せがいくことも忘れるべきではない。

 とても感染症対策の「先手」を打っているようには見えない。

 今後、感染封じ込めが遅れれば倒産する企業がでかねない。もっと想像力を働かせてほしい。
 

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