第75回 ラナプラザ事件と労働人権実現をめざす国際動向

 今回は、前回のエッセイ〔第74回 映画「メイド・イン・バングラデシュ」を見て考える〕に続いて、2013年の「ラナプラザ事件」以降、世界の衣料品下請網(Global Supply Chain)の最上流国バングラデシュの労働人権実現のための国際的な努力に注目してエッセイを書いてみました。 
 このエッセイのために詳しい知識がなかった私は、関連の情報を集めて見て、改めて気がつきました。日本では2013年4月、多くの犠牲者を出したバングラデシュのラナプラザ事件について、メディアなどによる一時性の記事はありましたが、この問題を重視し、継続的に取り上げる記事・日本語情報がきわめて少ないことです。ジェトロ(日本貿易振興)バングラデシュ事務所らのバングラデシュをめぐる報告が目立っている程度で、労働・市民運動では、国際NGOのHuman Rights Nowなどの注目すべき調査報告がありましたが、目立った調査や交流の取り組みや関連記事を見つけることができませんでした。研究者の関心も大きくなく、長田華子・茨城大学准教授の優れた先行研究を見つけましたが、国際情報が豊富なJILのサイトにも「ラナプラザ」や「バングラデシュ」で検索しても情報が少なく困りました。労働法文献では、「ラナプラザ事件」や後述の「バングラデシュ協定」に関する文献は見当たりませんでした。
 やむを得ず、英語を中心に外国の労働・市民運動のサイトやメディア、研究文献から関連の情報を集めました。調べれば調べるほど、「ラナプラザ事件」とそれ以降、世界の多くの市民・労働者が大きな関心を示し、9年間に及ぶ国際的な努力を重ねてきました。この動向に、日本の労働運動、市民運動、さらに労働法関係者は大きな関心を示していませんが、日本にも重要な意義と関連を有することを確信し、これまで関心をもたず、知識が乏しかったことを恥ずかしく思いました。乏しい知識と不十分な英語力での情報収集による考察ですが、自分なりに中間的に問題点を整理してみました。ご指摘、ご教示をいただければ幸いです。 (2022年9月4日 S.Wakita)

ラナプラザ事件の発生(2013年)

 2013年4月24日、バングラデシュの首都ダッカ近郊にある「ラナプラザ(Rana Plaza)」ビルが崩壊し、ビルの中にあった縫製工場で働いていた多数の労働者が死傷するという前代未聞の大災害が発生しました。ILOによれば、少なくとも死亡1,132人、負傷2,500人と推定されています〔ILO, The Rana Plaza Accident and its aftermath.〕。即死した人、生き埋めになった人、負傷して四肢を失った人、何日も地下に閉じ込められた人など、重篤な人的被害を伴う、世界の衣料品産業の歴史で最悪の災害でした。

ラナプラザは2006年に建てられた8階建てビル(左上図:日本風に1階を計算すれば9階建て)でしたが、当初は商業用として設計されましたが、上層3階は許可を受けずに工場を配置した違法建築でした。重機の重量や機械の振動に耐えられる強度があったのか疑問であった。事故当時、この危険な工場では、約5000人の労働者が働いていました。
 崩壊の前日にはビルの建物にひび割れが入っていることが確認され、低層の店舗や銀行は閉鎖されました。不安に思った労働者たちが出社を拒否しようとしましたが、ビルの所有者は「建物は安全だ」と言いました。工場側は出勤を拒否する場合には、給与を差し引くなどの脅しをしたということです。事故当日の朝、最上階のディーゼル発電機が始動した後、午前8時57分頃にビルは突然、崩壊を始め、高層階の重みで下層階が次々と崩壊し、8階建てのビルはあっという間にコンクリートと鉄の山と化しました(左下図)〔Jason Motlagh The Ghosts of Rana Plaza(2014)〕。

 ラナプラザ・ビルのスペースを借りて稼働していた地元の縫製工場では、世界的ブランド企業や小売業者向けに衣料品を生産していました。工場の中で衣料品(既製服)の縫製作業に従事していた労働者の大部分が、低賃金(月給約37ドル≒1日1ドル)の女性労働者でした。これらの工場を利用していた欧米ブランドは、ウォルマート(Walmart)、ベネトン(Benetton)、ペニー(Penny)、カルフール(Carrefour)、エル・コルテ・イングレス(El Corte Ingles)、インディテックス(Inditex)、ロブロー(Loblaw)、マンゴー(Mango)、プライマーク(Primark)、チルドレンズプレイス(The Children’s Place)などの有名企業31社が含まれていました〔Robert Ross(2015), Bringing Labor Rights to Bangladesh.〕。

製造販売の世界化と企業責任

「ファースト・ファッション」と衣料品製造・販売の外注化、さらに世界化へ

 このラナプラザ事件を調べる過程で、この事件を契機として製作された映画「ザ・トゥルー・コスト(The True Cost)」(2015年)のことを知り、見てみました。

映画『ザ・トゥルー・コスト ~ファストファッション 真の代償~』予告編

 この映画はアンドリュー・モルガン(Andrew Morgan)監督によるドキュメンタリーで、グローバル資本主義による河川・土壌汚染、農薬汚染などへの被害・悪影響とともに、開発途上国の低賃金・劣悪労働に依存して莫大な利益を上げる国際衣料産業の問題点に焦点を当てています。アメリカや欧州諸国では、以前は国内での生産・販売が中心であった衣服産業が一方では「ファースト・ファッション」と呼ばれる衣料品の消費を煽るとともに、他方では低賃金労働によって安上がりの生産を進める異常さを浮き彫りにします。映画では、アメリカの衣服産業は、1960年代までは95%を生産していたのに、2010年代にはアメリカ国内ではわずか3%しか生産していないことを指摘しています〔The True Cost(Wikipedia)〕。

 下図のように、原料供給、部品供給、生産、輸出、販売の何層にもわたる「サプライ・チェーン」、主要なブランド企業を軸に、国際的な外注化による供給網(supply chain)が形成されました〔図は、ILO(2016), Decent work in global supply chains, International Labour Conference 105th Session. Repot IV.p.9.を日本語仮訳〕。この供給網の中で、バングラデシュ、インド、パキスタン、カンボジア、中国、ベトナム、ミャンマーなどのアジア諸国の縫製労働者の低賃金・劣悪環境による徹底したコスト削減が追求されたのです。

グローバル・サプライ・チェーンがもたらす雇用・労働の劣悪化

 衣料品部門では、労働者の格安賃金を求めてアジア地域への生産委託が追求されました。最貧国であるバングラデシュは、短い期間で世界第2位の規模に成長し、同国の経済発展の重要な原動力となりました。ハングラデシュの既製服部門の輸出総額は245億米ドル(2013-14年)で、輸出収入の80%以上を占め、約400万人の労働者(うち55~60%は女性)の雇用を生み出しました〔ILO(2016)Improving working conditions in the ready made garment industry: Progress and achievements〕。

 しかし、ILOは2016年の文書で、「グローバル・サプライチェーンは、世界経済における投資、生産、貿易を組織化する一般的な方法となった。多くの国、特に発展途上国において、雇用と経済・社会発展の機会を生み出してきた」とし、その一方で、「グローバル経済における生産と雇用の関係の力学が、労働条件に対して否定的な意味を持ちうるという証拠もある。2013年のラナプラザビルの崩壊、2012年のパキスタンとバングラデシュの工場火災は1500人以上の命を奪い、グローバルサプライチェーンにおけるディーセントな労働条件の実現に向けたグローバルアクションの再要求を促した」と指摘しました。〔ILO(2016) Report IV Decent work in global supply chains.
 ILOは、とくに、世界的な「リード企業(lead firms)」が雇用に直接責任を持たずに投資や調達の決定をした場合、生産者価格や納期への圧力や、供給業者(supplier)間の激しい競争が生まれ、賃金や労働条件、労働者の基本的権利の尊重に下方圧力をかける可能性があることを強調しています。とくに、労働法規制を受けない雇用形態の使用につながり易く、極端な場合には強制労働や児童労働に依存する場合があるとしています。その一方、このような劣悪雇用慣行は、労働法や国際労働基準を遵守している供給業者が競争で不利になるという「不公正な競争」を生み出すことを警告しています。

バングラデシュ縫製工場での火災・事故防止をめぐる動き

火災・事故防止をめぐる関係者の話し合い

 バングラデシュの既製服工場では、これまで火災や事故が頻発していました。国内法があってもそれを無視・軽視する工場主が少なくなく、バングラデシュ政府の労働監督や消防行政が十分に機能せず、火災や事故を防止できませんでした。こうした中で、国内外の労働組合や労働権団体が、火災や事故の度に強制力のある効果的な安全基準を策定し合意を得る努力を長年にわたって尽くしてきました。

 2010年2月には、ダッカにあった「ガリブ&ガリブ・セーター工場」での火災で21人の労働者が死亡しました。この火災の後、国際繊維被服皮革労連(ITGLWF、現在の「IndustriALL」の一部)が、バングラデシュ国内の組合と協力して、火災と建物の安全性を改善する一連の提案をしました。CCC、ILRF、WRC、マキラ連帯ネットワーク(Maquila Solidarity Network MSN)※が参加して、安全衛生行動ポイントとしてまとめられ、2010年4月に発表されました。

マキラ連帯ネットワーク(Maquila Solidarity Network MSN)は、MSN はカナダのトロントに本拠を置く、賃金と労働条件の改善、および労働者の権利の尊重を勝ち取るために、世界の衣料品および履物業界の労働者の努力を支援するために25年以上にわたって活動してきた労働および女性の権利団体です。

 この後、他の工場でも死者が出る事故あり、2011年4月、ダッカで、バングラデシュ国内の労働組合、国際的労働組合・NGO、ブランド、小売業者、バングラデシュ縫製・輸出業者協会(BGMEA)、政府(火災安全局と建築工場局)の職員が参加する会合が開かれました。この会合では、将来の火災や事故を防ぐことを目的に、参加者が監督する「作業プログラムを確立するための覚書」(MoU)の作成が話し合われました。しかし、最終的な覚書(MoU)を締結する過程で、業者やブランドの代表者が脱落したため、労働組合やNGOは個別のブランドと覚書締結について話し合いを続けました。

 ブランド企業の多くは、それ以前の約20年間続いた「自己規制アプローチ」にこだわり、会社が拘束されることを嫌って、透明性のない工場監視、労働者・労働組合の役割、法的拘束力などに合意することを受け入れなかったのです。

バングラデシュ火災建築安全協定(BFBSA)

 しかし、ブランド企業の中でも、PVH(米国)とTchibo(ドイツ)は、労働組合・労働権団体との覚書(MoU)を締結しました。この覚書(MoU)は、「バングラデシュ火災建築安全協定(BFBSA)」と改名されました。他のグローバル企業にも、この協定締結への署名が呼びかけられましたが、署名に前向きな企業はありませんでした。企業側も、業界主導の外部機関に委託して、BFBSAとは異なり、かなり曖昧な内容の案を検討する動きを示しました。

※この間に、国際繊維被服皮革労連(ITGLWF)は、国際化学エネルギー鉱山一般労連(ICEM)、国際金属労連(IMF)と合併し、グローバルユニオンとして、「インダストリオール」を結成しています。

 2012年11月24日には、ダッカにある9階建ての「タズレーンファッション縫製工場」で大火災が発生し、112人以上の労働者の命が失われました。

 この火災の後、バングラデシュの政府、業界団体(BGMEA)、労働組合が2013年1月15日に「国家行動計画」を策定することに合意しました。これは、国の安全基準の見直し、検査能力の向上、管理者と労働者のための火災安全訓練、火災安全ホットラインの設置などを含む作業計画を定めたものです。これは、国際的ブランド企業の役割については具体的に言及されていませんでした。

画期的な「協定(Accord)」(2013年5月開始)

 ラナプラザ惨事に国際的に大きな注目が集まりました。法的にはブランド企業には注意義務がないとされていましたが、最終的には大きな利益を得てきたのはブランド企業であることは明らかでした。そして、バングラデシュ縫製労働者の健康と安全に対して、ブランド企業が責任を持つべきだとする国際的世論の圧力が強まりました。その結果、それまで工場の安全性向上の話し合いに前向きでなかったブランド企業は、従来の消極的な態度を取ることができなくなりました。

 惨事から約1ヵ月後、2013年5月23日、40以上の世界の既製服企業、2つの国際労働組合(IndustriAll Global Union UNI Global Union)、4つのバングラデシュ国内の労働組合連合が当事者となって、「バングラデシュの火災と建物の安全のための協定」(以下、「協定(Accord)」と略)を締結しました。この協定は、従来にない画期的な性格を帯びることになり、協定当事者だけでなく、4つの国際的労働権非営利組織(NGO)が証人として署名しています(以下の「全文仮訳」参照)。その後、署名企業が徐々に増えていき、2013年7月4日現在では合計67社、その後200を超えています。日本の企業「ファーストリテイリング」(ユニクロで知られる)は、2013年8月に署名しています。

 この「協定(Accord)」は、労働者、工場管理者、アパレル企業の間で結ばれた、ブランドと小売業者に次のことを要求する最初の法的拘束力のある協定です。①資格のある専門家とエンジニアによる完全に独立した透明性の高い工場検査検査結果の検索可能なデータベースでの報告、②安全衛生訓練と労働者の権限強化(empowerment)、③重要な安全改修の費用支援などの改善措置、④「協定(Accord)」遵守を拒否する工場・業者との取引を停止すること、⑤労働者の匿名による苦情手続き、違反署名企業に対する法的措置など、包括的な枠組みを定めています。従来の企業主導のプログラムは、任意であること、実施手続きと透明性に欠けているという欠陥がありましたが、「協定(Accord)」は、ブランド企業と小売業者は、衣服を製造する労働者の安全保証に法的責任を負うとした点で画期的な意義があります。国連事務総長、国際労働機関(ILO)、経済協力開発機構(OECD)なども、この「協定(Accord)」を支持しています。

 この2013年「協定(Accord)」が、ラナプラザ事故から間もない時期に締結されたのは、とくに、2010年以降の合意に向けての労働組合や労働権NGOらの粘り強い努力があったからです。

バングラデシュの火災と建物の安全に関する協定(Accord)(2013) 全文仮訳 上〔1~11〕Clickして読んで下さい)

 以下の署名当事者は、火災、建物の倒壊、または合理的な安全衛生対策で防ぐことができるその他の事故を、労働者が恐れる必要がない安全で持続可能なバングラデシュの既製服(以下、「RMG」)産業の目標に尽力している。
 本協定の署名者は、バングラデシュにおいて、5年間にわたって火災・建物安全プログラムを確立することに同意する。
 このプログラムは、火災安全に関する国家行動計画(National Action Plan on Fire Safety – NAP)に基づき、バングラデシュにおける火災安全の改善に有意義に寄与する他の活動を、あらゆる関係者が開発し実施することを明示的に歓迎するものである。署名者は、このプログラムとその活動を国家行動計画(NAP)と調整し、例えば、共通のプログラム、連絡、諮問機構を確立することによって、密接な協力関係を確保することを約束する。
 署名者はまた、国際労働機関(ILO)が、バングラデシュ事務所および国際プログラムを通じて、国家行動計画および本協定の署名者によって予見されたプログラムの両方を確実に実施するための強力な役割を果たすことを歓迎する。
 署名者は、本協定の署名後45日以内に実施計画を策定し、同意するものとする。火災と建築の安全に関する共同覚書(2012年3月15日付)の署名者である非政府組織は、このプログラムの実施を支援する意思を表明し、自らの選択でこの協定の署名証人となるものとする。
 本協定は、署名者らが国家行動計画(NAP)に記載された実践活動を認識し、少なくとも以下の要素を含むプログラムに資金を提供し、実施することを約束する。

  対象範囲(SCOPE):
 本協定は、署名企業向けに製品を生産するすべての納入業者(suppliers)を対象とする。
 署名企業は、これらの納入業者(suppliers)を以下の区分(categories)に分類して指定し、これに従って、納入業者(suppliers)に対して、その工場で監督(inspections)を受け、改善措置(remediation measures)を実施するよう要求するものとする。
 1. バングラデシュにおける各署名企業の年間生産量の合計約30%以上に相当する施設(以下「第一順位工場」)における安全監督、改善および火災安全訓練。
 2. 各企業の他の主要または長期にわたる納入業者(suppliers)(以下、「第2順位工場」)に対する監督と改善。バングラデシュにおける第1順位工場と第2順位工場を合わせて、署名企業の年間生産量の約65%以上を占める〔場合とする〕。
 3. 高危険を特定するために、以下の場合に行われる限定的な初回監督。つまり、臨時の注文、一度だけの注文、または一企業からの注文がバングラデシュにおける生産量の10%未満である工場(「第3順位工場」)の場合。〔ただし、〕本条のいかなる内容も、署名企業が第3順位として指定した工場が、バングラデシュでの生産量の約35%以下であることを保証する義務を軽減するものとはみなされない。初回監督の結果、高危険と判断された施設は、第2順位工場と同様の扱いを受けるものとする。
 運営(governance):
 4. 署名者は、労働組合署名者と企業署名者から選出された平等な代表(各最大3席)と、国際労働機関(ILO)から選出された代表を中立の議長として、運営委員会(Steering Committee – SC)を設置する。運営委員会(SC)は、安全監督者(Safety Inspector)と訓練調整者(Training Coordinator)の選定、契約、報酬、業績評価、プログラム予算の監督と承認、財務報告の監督と監査人(auditor)の採用、その他必要とされる管理業務に責任を持つものとする。運営委員会(SC)は、合意による意思決定に努めるが、合意が得られない場合は、多数決により決定される。運営委員会(SC)の活動を発展させるために、運営規程を策定する。
 5. 紛争の解決。本協定の条項の下で発生した当事者間の紛争は、まず運営委員会(SC)に提出され、運営委員会(SC)が決定するものとし、運営委員会(SC)は、当事者の一方から申し立てがあった場合、最長21日以内に運営委員会(SC)の多数決によりその紛争を決定するものとする。いずれかの当事者の要請があれば、運営委員会(SC)の決定を最終的かつ拘束力のある仲裁手続きに訴えることができる。いかなる仲裁判断も、執行が求められる署名者の居住地の裁判所において執行可能であり、適用可能な場合には「外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約」(ニューヨーク条約)の適用を受けるものとする。拘束力のある仲裁のプロセスは、仲裁に関する費用の配分および仲裁人の選定プロセスを含むがこれに限定されず、1985年国際商事仲裁に関するUNCITRALモデル法(2006年に採択された修正を含む)に準拠するものとする。
6. 署名者は、ブランド及び小売業者、供給業者、政府機関、労働組合及びNGOが参加する諮問委員会(Advisory Board)を任命するものとする。この諮問委員会は、国内外のすべての利害関係者が互いに建設的な対話を行い、運営委員会(SC)にフィードバックとインプットを提供できるようにし、それによって質、効率、信頼性、相乗効果を高める。運営委員会(SC)は国家行動計画(NAP)の締約国と 協議し、共有の諮問組織の実現可能性を決定する。
7. プログラムの管理・運営は、運営レベルでの相乗効果を最大化するため、火災安全に関する国家行動計画を実施・監督するために設立された「ハイレベル三者委員会」、およびバングラデシュ労働雇用省(MoLE)、ILO、国際協力銀行(GIZ)と協議して運営委員会(SC)が策定し、運営委員会(SC)は事務的調整と支援のためにGIZのオフィスを利用できるものとする。
 信頼性の高い監督(CREDIBLE INSPECTIONS):
8. 火災および建物の安全に関する専門知識と非の打ちどころのない資格を有し、企業、労働組合、工場から独立し、兼業していない安全監督者が運営委員会(SC)によって任命されるものとする。主任監督官が本協定の規定に基づく職務権限に合致した方法で行動することを条件に、また、主任監督官側に不正行為または無能の明確な証拠がない限り、運営委員会(SC)は、主任監督官が本協定に定める職務(監督の日程調整および報告書の発行を含む)を適当に行うことを制限またはその他の方法で妨害してはならないものとする。
9. 第1順位、第2順位、第3順位工場の徹底的で信頼できる安全監督は、安全監督者によって選ばれ、その指示の下で行動する熟練した人材によって、国際的に認められた職場安全基準および/または国内基準(国家行動計画(NAP)の下で予期されるレビューが2013年6月に完了した後)に基づき実施されるものとする。安全監督者は、本契約の対象となる各工場の初回監督が本契約の期間の最初の2年以内に実施されるよう、あらゆる合理的な努力をするものとする。安全監督者は、国家行動計画(NAP)の立法レビューに意見を提供し、国家行動計画(NAP)の下で予見される労働雇用省(MoLE)による監督に関する能力向上作業をサポートするために対応可能である。
10. 署名企業の監督プログラムが、安全監督者の見解において、安全監督者が定義する徹底的で信頼できる監督の基準を満たす、または超えている場合、それは本契約に規定されたプログラム活動の不可欠な一部とみなされる。監督プログラムをそのように見なされることを希望する署名企業は、安全監督者に監督結果への完全なアクセスを提供し、安全監督者はこれを報告および改善活動に統合するものとする。この規定にかかわらず、本協定の範囲内にあるすべての工場は、安全監督者の指示のもとに行動する人員によって実施される少なくとも1回の安全監督を含むが、これに限らず、本協定のすべての規定に従わなければならない。
 安全監督者(Safety Inspector
11. 本プログラムの下で監督されたすべての工場の書面による監督報告書は、監督日から2週間以内に安全監督者が作成し、完了次第、工場の経営者、工場の安全衛生委員会、労働者の代表(1つ以上の組合が存在する場合)、署名企業、運営委員会(SC)と共有するものとします。安全監督者の意見により、工場で安全衛生委員会が機能していない場合、報告書は本契約の署名者である労働組合と共有される。安全監督者は、6週間を超えない範囲で運営委員会(SC)が合意した期間内に、工場の改善計画(ある場合)を添えて監督報告書を一般に開示するものとする。安全監督者の意見により、監督により労働者の安全に対する重大かつ差し迫った危険が特定された場合、安全監督者は、直ちに工場の経営者、工場の安全衛生委員会、労働者の代表(1つ以上の組合が存在する場合)、運営委員会および本契約に署名している組合に知らせ、是正計画を指示しなければならない。

バングラデシュの火災と建物の安全に関する協定(Accord)(2013) 全文仮訳 下〔12~25〕Clickして読んで下さい)

 改善措置(REMEDIATION):
12. 安全監督者により、工場を建築、火災、電気安全基準に適合させるために必要な是正措置が特定された場合、当該工場を第1順位、第2順位、第3順位納入業者(suppliers)として指定した署名企業または会社は、義務的かつ期限付きで、すべての大規模改修に十分な時間が割り当てられたスケジュールに従い、これらの改善措置を実施するよう当該工場に要求するものとする。
13. 署名企業は、本プログラムの下で監督される納入業者(suppliers)工場に対し、工場(または工場の一部)が是正措置の完了に必要な改修のために閉鎖されている期間中、労働者の雇用関係および定期収入を維持するよう6ヶ月を超えない期間で要求するものとする。.これを怠った場合、第21項に記載されているように、通知、警告、および最終的には取引関係の終了の引き金となる可能性がある。
14. 署名企業は、工場の受注がなくなった結果、労働者が雇用を打ち切られた場合、必要に応じて他の納入業者(suppliers)と積極的に協力し、これらの労働者の雇用を優先させることにより、安定した納入業者(suppliers)での雇用を確保するために合理的な努力をするものとする。
15. 署名企業は、安全でないと信じる合理的理由がある仕事を拒否する労働者の権利(職業にとって安全でないと信じる合理的な理由がある建物に入ることや中に留まることを拒否する権利など)を尊重し、差別や賃金の損失を受けることがないようにすることを納入業者(suppliers)工場に対して求めるものとする。
 訓練(TRAINING):
16. 運営委員会(SC)によって任命された訓練コーディネーターは、広範な火災および建物の安全に関する訓練プログラムを確立するものとする。訓練プログラムは、労働組合及び現地の専門家の関与のもと、第1順位施設の労働者、管理者及び保安要員を対象に、訓練コーディネータが選定した熟練要員によって実施されるものとする。これらの訓練プログラムは、基本的な安全手順と注意事項を網羅し、また、労働者が懸念を表明し、自らの安全を確保するための活動に積極的に参加できるようにしなければならない。署名企業は、安全教育の専門家および資格を有する労働組合の代表者を含む訓練コーディネーターが指定する訓練チームが、労働者および経営者に安全教育を定期的に提供できるよう、納入業者(suppliers)に工場へのアクセスを提供することを要求するものとする。
17. 署名企業は、供給するすべてのバングラデシュの工場において、安全衛生委員会を義務付けるものとし、この委員会はバングラデシュの法律に従って機能し、該当する工場の労働者と管理者で構成されなければならない。労働者メンバーは、委員会の50%以上を占めなければならず、工場の労働組合がある場合はその労働組合により、労働組合がない場合は労働者の民主的な選挙により選ばれるものとする。
 苦情処理(COMPLAINTS PROCESS):
18. 安全監督者は、署名企業に供給している工場の労働者が安全衛生リスクに関する懸念を安全かつ内密に、タイムリーに安全監督者に提起できるような労働者の苦情処理プロセスと仕組みを確立しなければならない。これは、国家行動計画(NAP)のもとで設立される「ホットライン」と連携されるべきである。
 透明性と報告(TRANSPARENCY AND REPORTING):
19. 運営委員会(SC)は、本プログラムの主要な側面について、以下を含む情報を一般に公開し、定期的に更新するものとする。
a. 署名企業が使用するバングラデシュの全納入業者(suppliers)(下請け業者を含む)の単一集計リスト。このリストは、運営委員会(SC)に提供され各署名企業によって定期的に更新されるデータに基づき、このリスト上のどの工場が第1順位工場としてその企業によって指定されており、どの工場が第2順位工場としてその企業によって指定されているかを示す。
b. 本プログラムの下で監督されたすべての工場について安全監督者が作成する書面による監督報告書は、本協定の第11項に規定する利害関係者および公衆に開示されるものとする。改善勧告を実施するために迅速な行動をとっていない工場を特定する安全監督者による公的声明。
c. 四半期ごとの集計報告書。これは、業界のコンプライアンス集計データ、ならびに監督が完了した全工場の所見、改善勧告、および現在までの改善の進捗状況の詳細なレビューの両方をまとめたものである。
20. 本協定の署名者は、ILO、ハイレベル三者委員会、バングラデシュ政府などの他の組織と協力し、本協定の監督・改善活動に完全に参加する納入業者(suppliers)が、本協定の透明性規定の結果として罰せられることがないようにすることを目指す議定書の確立を奨励するものとする。この議定書の目的は、(i)使用者が労働者と部門の利益のために改善努力をすることを支援し、動機付けること、(ii)納入業者(suppliers)が国内法を遵守するために必要な是正措置を拒否した場合、迅速な法的措置を取ることである。
 納入業者への刺激(SUPPLIER INCENTIVE:
21. 各署名企業は、バングラデシュの納入業者(suppliers)に対し、本協定に記載された監督、改善、安全衛生、および該当する場合は訓練活動に全面的に参加するよう求めるものとする。これらの取り組みが成功しない場合、署名企業は、取引関係の終了につながる通知と警告のプロセスを速やかに実施する。
22. 第1順位および第2順位の工場が本プログラムの更新と改善の要件を遵守するよう誘導するために、参加ブランドと小売業者は、工場が安全な職場を維持し、安全監督者が設定した更新と改善の要件を遵守することが金銭的に可能であることを保証する商業条件を納入業者(suppliers)と交渉する。各署名企業は、共同投資、融資、ドナーまたは政府の支援、ビジネス・インセンティブの提供、または改修費用の直接支払いを含むがこれに限定されない、改善要件を遵守するための資金力を工場に持たせるための代替手段を、自らの選択で使用することができる。
23. この協定の署名企業は、この5カ年計画へのコミットメントによって示されるように、バ ングラデシュとの長期的な調達関係を維持することを約束する。署名企業は、少なくとも本協定の期間の最初の2年間は、第1順位および第2順位の工場と、本協定の開始前の年に存在したものと同等以上の注文量で取引を継続するものとする。ただし、(a)そのような取引が各企業にとって商業的に可能であり、(b)工場は引き続き企業の条件を実質的に満たし、本契約に基づく企業の納入業者工場に対する要件を遵守している。
 財政支援(FINANCIAL SUPPORT):
24. 本協定に基づく義務に加え、署名企業は、本協定に規定される 運営委員会(SC)、安全監督者、訓練コーディネーターの活動に対する資金提供の責任を負うものとし、各企業は実施計画で定められる計算式に従って資金の衡平分を拠出するものとする。運営委員会(SC)は、政府及びその他の寄付者に費用拠出を求める権限を有するものとする。各署名企業は、バングラデシュにおける各企業の年間衣料品生産量と他の署名企業のそれぞれの年間衣料品生産量に比例して、本協定期間中の各年度の最大貢献額が50万ドルであることを条件に、これらの活動のための資金を拠出するものとする。バングラデシュにおける収益や年間生産量などの要因に基づく最低拠出額のスライド制は、本合意と計画の適切な実施のための十分な資金を確保しつつ、毎年の修正を伴う実施計画で設定される。
25. 運営委員会(SC)は、拠出された全ての資金の会計処理と監視のために、信頼性が高く、強固で、透明性のある 手続きが存在することを保証するものとする。
 労働組合署名者
 企業署名者

「提携(Alliance)」(2013年7月開始)

 2013年5月「協定(Accord)」が締結されましたが、米国系のブランドであるGapやWalmatをはじめとする北米を中心とした29ブランドは、企業が主導権をもつ自主規制を基本とすることに固執し、「協定(Accord)」への参加をせず、2ヵ月遅れて2013年7月に「バングラデシュ労働者の安全のための提携(the Alliance for Bangladesh Worker Safety)」(以下「提携(Alliance)」と略)が開始されました。

 「提携(Alliance)」は、とくに、労働者や労働組合の参加を好ましいと思わない企業本位の考え方が強く、ブランド企業による集団的アプローチということができます。ただし、「協定(Accord)」と同様に、労働者の安全確保、教育・訓練など幅広いブランド企業の義務を表明しており、工場の構造、電気、火災安全に関する専門的な監査、監査員の報告をオンラインで公表するなど、「協定(Accord)」と表面的にはかなりの点で共通しています。

 しかし、「協定(Accord)」とは違って、「提携(Alliance)」には労働組合が参加していないという点で重大な違いがあります。「提携(Alliance)」では、理事会労働委員会を通じて、助言者的な立場で地元の労働組合が参加しているだけで、労働者は意思決定の際に正式な発言権を持っていません。「提携(Alliance)」の理事会は、ブランド企業代表4名、外部専門家3名、独立委員長、そして2015年7月までは地元企業代表としてバングラデシュ縫製輸出業者協会(BGMEA)会長が選任されており、すべてが企業の利害関係者で構成されています。これは、バングラデシュ政府やバングラデシュの経営者の中にあった、地元使用者を排除している点で「協定(Accord)」への反発があったことを考慮したものと考えられています。

 「協定(Accord)」と「提携(Alliance)」の違いについては、J. Donaghey とJ. Reineckeの2018年の論文「産業民主主義が企業の社会的責任と出会うときーラナプラザ事件への対応としてのバングラデシュ協定と提携の比較」は、労働組合との団体交渉・労働者参加を重視する「産業民主主義(industrial democracy)」 と、企業主導の自主的規制による「企業の社会的責任(corporate social responsibility)」の対抗という視点から、「協定(Accord)」と「提携(Alliance)」を比較する、きわめて興味深い論文です。※

Jimmy Donaghey and Juliane Reinecke, When Industrial Democracy Meets Corporate Social Responsibility — A Comparison of the Bangladesh Accord and Alliance as Responses to the Rana Plaza Disaster, British Journal of Industrial Relations 56:1 March 2018 0007–1080 pp. 14–42(doi: 10.1111/bjir.12242)

 この論文に掲載された下の比較表は、「協定(Accord)」と「提携(Alliance)」を分かりやすく示しています。

 注目されるのは、「提携(Alliance)」は、労働組合の参加を排除するという点だけでなく、「法的拘束力」という点で「提携(Alliance)」には企業への義務づけが弱いという点です。つまり、「提携(Alliance)」参加企業は、会費の支払い義務はありますが、それ以外の点で法的拘束力を定める「協定(Accord)」参加企業のような拘束を受けていません。つまり、「提携(Alliance)」傘下のブランドは、最低2年間、年間100万米ドルを上限として、購買量に応じた金額を支払う義務がありますが、「協定(Accord)」で定められた、「購買量の維持」や「法的拘束力のある仲裁」は義務づけられていないのです。

2018年「協定」から2021年の「新国際協定」へ

 2013年の「協定(Accord)」では、加盟工場1,600社を対象にした最初の検査から、構造的損傷から危険な避難経路まで、約13万件の違反が発見され、それらの危険の約90%が修正されるなど、大きな成果を挙げました。ただ、当初予定の5年の期限である2018年を前に、まだ深刻な問題を抱える工場が残っていることは明らかでした。「提携(alliance)」は、5年を限度に延長をせず、バングラデシュの関係機関・団体に委ねることにしました。

 しかし、「協定(Accord)」の関係者は、2013年協定の枠組みを維持するために「2018年協定(Accord)」に署名し、さらに3年間(2021年8月31日まで)延長することになりました。同協定には、世界の119のブランドが署名し、バングラデシュの200万人以上の労働者を雇用する1,600以上の工場が対象となりまし。この「2018年協定(Accord)」は、「2013年協定(Accord)」の目的・内容を持続するとともに、労働組合の自由をより重視し、安全問題で工場が閉鎖・移転する場合、労働者が失職した場合の解雇補償を確立するなど、新たな要素が盛り込まれていました。

画期的な2021年「新国際協定」

 そして、2020年6月1日、「協定(Accord)」のバングラデシュ事務所は、その役割を新たに設立された現地組織の「衣服産業持続可能性協議会(RMG Sustainability Council – RSC)」に移行し、RSCが、「協定(Accord)」の安全プログラムの実施機関になりました。
 その後、「2018年協定(Accord)」の期限が終了する直前の2021年8月26日、新しい安全協定「International Accord for Health and Safety in the textile and Garment Industry(繊維および既製服産業における健康と安全のための国際協定)」が、ブランド企業と国際労働組合らとの数カ月にわたる交渉の末に合意され、2021年9月1日に発効しました。(2022年9月1日現在、世界の177ブランド企業が署名。)

 この新たな国際協定の主な内容は次の通りです。

・ 職場の安全に関する合意の法的拘束力を維持する。
有効期間は2年2カ月とする。
他の国にも拡大することを約束する。発効後6カ月以内に、協定の署名国は、いつどこに延長するのが適切かを決定するための基準を共同で定め、最初に検討する国のリストに関して、実現可能性調査によりその範囲について合意する。
・ 従来の「国際的複数企業間協定(global, multi-enterprise agreement)」に、「国際的複数国間協定(global, multi-country agreement)」という新たな特徴が加わる。
・ この「国際的複数国間協定」の範囲は、人権分野におけるデューデリジェンス(due diligence)〔人権に対する企業の適切で当然な調査・対応義務〕を扱うために拡大される。
・ 協定の履行を保証するために、新たに「簡略化した任意による仲裁手続き(simplified and optional arbitration process)」を確立する。
結社の自由の尊重を保証する。
情報、透明性、独立性と、その履行を保証する。
・ 署名した各ブランド企業が最大35万ドルを出資する年次基金による財政的改善措置。
・ 安全委員会の訓練、信頼できる独立苦情処理機構による労働者のための意識向上プログラム
バングラデシュの場合には、過去の諸協定の実施を継続し、同国の産業界、労働組合、ブランド企業で構成される全国的な独立した「RSC」がすでに実施している安全衛生プログラムを拡張することを明確かつ具体的に約束する。
産業全体における信頼できる責任とコンプライアンスの仕組みを作る。

CCOO_industria_New International Accord to guarantee(繊維・衣料産業における健康と安全を保証するための新しい国際協定) 〔CCOOは、スペイン最大の労働組合ナショナルセンター。〕

 新たな国際協定の全文(仮訳)は、以下(上下に2分)をClickして参照して下さい。

繊維・縫製産業における安全衛生のための国際協定(2021年9月1日)全文仮訳 上〔1~29〕(Clickして読んで下さい)

I. 前文
 この「繊維・縫製産業における健康と安全のための国際協定」(以下「本協定」)の署名当事者は、バングラデシュで既に実施されている健康と安全に関する作業、および2013年と2018年の「バングラデシュの火災と建物の安全に関する協定(以下「協定(Accord)」)」の原則に基づいて追加の国別の健康と安全プログラム(「国独自安全プログラム」、略称「CSSP」)の拡大を約束する。本協定は、協定(Accord)財団(以下「財団」)[1]とその事務局(以下「事務局」)を通じて実施される予定である。
協定の署名者は、協定の署名者が予見したプログラムが確実に実施され、効果を上げるために、国際労働機関(以下「ILO」)が、労働者保護の取り組みを含む各国事務所や国際プログラムを通じて、強い役割を果たすことを歓迎する。
 本協定の署名者は、安全な職場は、そこで働く人々の積極的な参加なしには長期的に保証されないことを認識する。このため、署名者は、関連するILO条約に従って、結社の自由に対する労働者の権利の尊重を引き続き推進する。
 [1] 本協定の締結日現在、財団の名称は「Stichting Bangladesh Accord Foundation for Fire and Building Safety(火災と建築の安全のためのバングラデシュ協定財団)」である。

II. 運営(GOVERNCE)
 1. この協定の署名者の責任は、運営委員会(Steering Committee – 略称「SC])によって監視され、実施される。運営委員会(SC)は、労働組合署名者とブランド署名者(それぞれ最大3席)から選ばれた平等な代表と、ILOから選ばれた代表が中立的な議長になるものとする。立会人署名機関は、引き続きオブザーバーとして参加するものとする。
 2. 運営委員会(SC)は、本協定の全体的な管理を委託され、上級職員の選定、契約締結、報酬及び業績評価、事務局予算の監督及び承認、財務報告の監督並びに会計監査人及び会計監査人の雇用、その他必要とされる管理職務に責任を負うものとする。運営委員会(SC)は、全会一致による意思決定に努める。
 3. 協定の下で策定された運営機構、規則、方針は、運営委員会(SC)が改訂しない限り、または本協定で別段の定めをする場合を除き、引き続き適用されるものとする。これらは、一連の文書として統合され、当財団のウェブサイトの署名ページで利用可能となる。
 4. ここに、署名者は事務局に対して以下の権限を与える。
 a) 署名者が本協定を遵守しているか否かを監視すること。
 b) 労働者の安全を確保するために必要な措置を講じること。
 c) 本協定に基づく署名者の義務を履行する目的で、運営委員会(SC)に正確な報告を行うこと。
 d) 署名ブランド企業と労働組合が代表的な役割を果たように支援すること。
 5. 事務局は、4半期ごとに、本協定と署名者の義務の履行状況を運営委員会(SC)に報告する。

III. バングラデシュ
 6. 本協定の署名者は、バングラデシュにおいて、縫製持続可能性協議会(以下「RSC」)を通じて、安全衛生プログラムを継続することに同意する。署名者は、縫製業持続可能性協議会(RSC)の独立性を認識し、RSCがバングラデシュの業界全体のプログラムとなるように成長するという展望を共有する。
 7. 2020年6月1日以降、本協定の検査・改善プログラム、安全委員会、安全教育プログラム、安全苦情処理メカニズム、報告・開示要件は、本協定の組合および署名ブランド企業がバングラデシュの業界代表者とともにそれぞれ理事会の3分の1を占める縫製業持続可能性協議会(RSC)を通してバングラデシュで実施されている。RSC理事会の決定は、全当事者の共通合意によって行われる。
 8. 縫製業持続可能性協議会(RSC)の業務は、移行協定及び定款第24条に規定されているように、2013年及び2018年のバングラデシュの火災と建物の安全に関する協定の業務及び議定書を基礎とし、2018年協定運営委員会とバングラデシュ縫製業者・輸出業者協会(BGMEA)の間で移行協定に合意された、協定のバングラデシュベースの資産と人材、プロトコル、手順及び基準の継承を含む。
 9. プログラムの管理・運営は、2013年および2018年の「バングラデシュの火災と建物の安全に関する協定(Accord)」および本協定の下で開発された構造、政策、プログラム、また、本協定と整合する場合には縫製業持続可能性協議会(RSC)のものを引き続き構築するものとする。本協定は、バングラデシュの法律に抵触しないように実施されるものとする。本協定の署名者は、バングラデシュの縫製業持続可能性協議会(RSC)の条文および規則の修正および変更を認識し、遵守することを約束する。
 10. ブランド企業と労働組合の署名者は、縫製業持続可能性協議会(RSC)の理事会の構成員となる代表者を指名するものとする。ブランド企業と労働組合はそれぞれ団体を設立した。その団体は、RSCの正式構成員であり、RSCの理事を務める代表者の責任は、その団体を通じて制限される。
 11. 本協定に署名したブランド企業は、ブランド企業団体に加入することを約束する。ブランド企業団体は、その会員規定に基づき、本協定の期間中、本協定の加盟ブランド企業のみが会員となることができる。
 12. すべての当事者は、バングラデシュにおける部門全体のプログラムに向けて、縫製業持続可能性協議会(RSC)に参加するブランド数を拡大することを約束する。この目的のため、署名者は、RSC内の代表者を通じて共同で作業を行うことを約束する。
 a) 縫製業持続可能性協議会(RSC)の合意事項を監視し、署名者に説明責任を持たせるための、信頼できる効果的なRSCの遵守と責任の仕組みを確立する。
 b) バングラデシュの安全な縫製産業を確保するため、持続可能な資金調達モデルを構築する。この協定の発効日に、運営委員会(SC)は、他の資金調達の機会やブランド署名企業の数を増やす方法を検討するための作業部会を設置する。
 c) 縫製業持続可能性協議会(RSC)の適用範囲を拡大するための追加的なインセンティブを特定し、追求するための ロードマップを支援すること。
 13. 各署名者は、それぞれの代表者に本合意書に従って行動するよう義務づけることを約束する。
 14. 本合意のいかなる内容も、運営員会(SC)が縫製業持続可能性協議会(RSC)への支援を撤回する権限を制限するものではありません。この場合、当事者は、バングラデシュに関する本協定の適用について再交渉を行う。
 15. 事務局は、本協定に基づく義務の履行を確保するため、縫製業持続可能性協議会(RSC)の運営を支援、調整、連絡するものとする。
 16. 本協定は、署名企業のためにバングラデシュで生産する全ての縫製納入業者[2]を対象とする。代理店や他の仲介者が署名者のビジネスモデルの一部である場合、署名者は、仲介者が本協定に署名しているかどうかにかかわらず、本協定の義務を果たすために署名者の努力を支援することを保証する責任がある。
 [2]運営委員会(SC)の合意により、本協定の作業を自主的に縫製産業以外の関連産業に拡大することが可能である。

改善措置
 17. 縫製業持続可能性協議会(RSC)の最高安全責任者(CSO)により、工場を建築、火災、電気安全基準に適合させるために必要な改善措置が特定された場合、当該工場を納入業者として指定した署名企業または会社は、義務的かつ期限付きの、すべての大規模改修に十分な時間が割り当てられた定義済みのスケジュールに従って、これらの改善措置を実施するよう工場に要求するものとする。工場の管理範囲を超えた遅延が発生した場合、CSOは、改善に合理的な進展があることを条件に、改善のタイムラインを修正する。
 18. 署名企業は、縫製業持続可能性協議会(RSC)の下で検査される供給者工場に対し、工場(または工場の一部)が安全上の理由または当該改善措置を完了するために必要な改修のために閉鎖されている期間中、労働者の雇用関係および定期収入を6カ月以内に維持するよう求めるものとする。工場での雇用を維持しないことを選択した労働者は、雇用を打ち切られ、関連する国内法に従って退職金が支払われる。6ヶ月を超える工場閉鎖の場合、労働者は、退職金全額または6ヶ月の定期収入のうち、いずれか多い方を支払われる。これを行わなかった場合、第30条に記載されているように、通知、警告、および最終的にはビジネス関係の終了の引き金となる可能性がある。
 19. 工場が、縫製業持続可能性協議会(RSC)の要件を満たすために新しい施設に移転することを意図しているため、改善措置が実施されないことを示す場合、以下の条件が適用されるものとする。
 a) 工場は、最高安全責任者(CSO)および関連するすべての署名者に、工場の完成日および新しい所在地を含む移転計画に関する文書を提供するものとする。
 b) 最高安全責任者(CSO)は、移転前に作業を安全に継続するために、既存の敷地内でどの緊急改善措置を完了する必要があるか、およびその完了のタイムフレームを決定する。
 c) 労働者は、勤続年数を考慮し、現在の雇用給付をすべて維持したまま新施設に移転する選択肢を与えられる。移動時間の不合理な増加により、労働者が移転先での雇用を継続する意思がない、またはできない場合、使用者は労働者の雇用を終了させ、労働者は退職手当の全額を受け取る。
 20. 上記の移転の場合、修復資金に関する第31条の規定が適用される。第18条に基づき工場が閉鎖される場合、労働者は完全な退職給付を受ける。
 21. 第18条、19条、20条に基づく完全な退職手当の支払いは、解雇以外の方法で使用者によって雇用が終了した労働者に適用されるバングラデシュの法律の規定に従う。
 22. 署名企業は、縫製業持続可能性協議会(RSC)の活動により誘発された工場の閉鎖または移転の結果、雇用を終了した労働者が、安全な納入業者との雇用を提供されるよう、妥当な努力をするものとする。
 23. 署名企業は、納入業者工場に対し、差別や賃金減額を受けることなく、安全でないと信じる合理的な理由がある仕事を拒否する労働者の権利(居住に安全でないと信じる合理的な理由が ある建物に入ることを拒否する権利や建物内に留まることを拒否する権利など)を尊重するよう求めるも のとする。その後できるだけ早く、この事例は縫製業持続可能性協議会(RSC)に報告されるものとする。

訓練
 24. 前項の合意の下で開発されたプログラムを基に、縫製業持続可能性協議会(RSC)は広範囲な火災・建物安全プログラムを改訂し、さらに実施するものとする。研修プログラムは、労働組合や現地の専門家の関与のもと、労働者、管理者、警備員のために、熟練した人材によって実施されなければならない。これらの研修プログラムは、基本的な安全手順と注意事項を網羅し、また、労働者が懸念を表明し、自らの安全を確保するための活動に積極的に参加できるようにしなければならない。
 25. 署名企業は、縫製業持続可能性協議会(RSC)理事会が承認した研修計画に従い、研修コーディネーターが指名した、安全研修の専門家やRSC公認の労働組合トレーナーを含む研修チームに工場を公開するよう、納入業者に要求するものとする。このような研修では、結社の自由の重要性と、効果的な安全衛生委員会の機能と権限を確保し、労働者の健康と安全を守るための労使関係の役割を取り上げるものとする。
 26. 安全衛生委員会は、署名企業が供給するすべてのバングラデシュの工場で要求され、バングラデシュの法律および適用されるILO基準に従って機能するものとする。

苦情処理
 27. 署名企業に供給する工場の労働者が、安全衛生上のリスクに関する懸念を適時に、安全かつ内密に申し出ることができるよう、先の「合意」に基づいて設立された労働者の苦情処理プロセスおよび機構を確保する。署名企業は、労働者の苦情処理手続きを支援し、第三者による干渉を受けずに独立して運営されるよう にしなければならない。署名企業は、労働者の苦情処理プロセスの結果を遵守するよう、納入業者に要求する。

透明性と報告
 28. 当財団は、本プログラムの主要な側面に関する情報を一般に公開し、定期的に更新するものとする。財団のウェブサイトは、これらの重要な側面を公表し、透明性と報告に関する縫製業持続可能性協議会(RSC)のウェブサイトとRSC規定との整合性を確保するものとする。これらの主要な側面には以下が含まれる。
 a) 署名企業が使用するバングラデシュの全納入業者(下請業者を含む)の一元的な名簿。これは、縫製業持続可能性協議会(RSC)および事務局に提供され、各署名企業によって定期的に更新されるデータに基づく。特定の企業と特定の工場との関連情報は、機密として扱われる。
 b) 最高安全責任者(CSO)が作成する、縫製業持続可能性協議会(RSC)の下で検査された全工場の書面による検査報告書は、関係者及び一般に開示されるものとする。
 c) 改善勧告を実施するために迅速な行動をとらない工場を特定する最高安全責任者(CSO)による公表は、縫製業持続可能性協議会(RSC)が定める段階的加重手続き(escalation procedure)に従い行われるものとする。
 d) 四半期ごとの集計報告書。この報告書には、業界全体のコンプライアンスデータに加え、検査および訓練が完了した全工場の調査結果、改善勧告、改善および訓練の進捗状況の詳細が含まれる。
 29. 事務局は、その責任を果たすために必要なすべてのデータおよび情報へのアクセス権を有する。

繊維・縫製産業における安全衛生のための国際協定(2021年9月1日)全文仮訳 上〔30~54〕(Clickして読んで下さい)

納入業者への刺激(incentive)
 30. 署名企業は、バングラデシュの納入業者に対し、縫製業持続可能性協議会(RSC)の検査、改善、安全衛生、研修の各活動に全面的に参加するよう求める。納入業者がこれを怠った場合、署名企業は必要な通知・警告手続きを速やかに実施し、合意された段階的加重計画(Escalation Protocol)に従い、最終的に取引関係を終了する。事務局は、第VI章および第31条に従い、バングラデシュの納入業者に適用される段階的加重計画の署名企業による遵守を監視し、実施するものとする。
 31. 工場が最高安全責任者(CSO)の改善・改善要求事項を遵守するよう促すため、署名企業は、工場が安全な職場を維持し、CSOが制定した改善・改善要求事項を遵守することが経済的に可能であるような商業条件を供給業者と交渉するものとする。各署名企業は、共同投資、融資、出資者または政府の支援、事業奨励の提供、または改修の直接支払いを含むがこれに限定されない、改修要件を遵守するための財政能力を工場が有することを保証するための代替手段を、自らの選択で使用することができる。
 32. 事務局は、署名者の納入業者が、修復の完了が経済的に不可能であると示した場合、通知を受け、遵守を監視するものとする。事務局は、資金要求が満たされていない場合、運営委員会(SC)に照会するものとする。
 33. 本協定の署名企業は、縫製業持続可能性協議会(RSC)と本協定の条件への約束によって示されるように、バングラデシュとの長期的な調達関係を維持することを約束する。

責任免除
 34. 署名企業は、以下の条件のいずれかに該当する場合、バングラデシュの対象工場に関して、本協定に基づく責任を負わない。
 a) 対象工場が、署名者の方針に対して「ゼロトレランス(zero tolerance)」違反〔厳格な遵守を求められる重大な違反〕を犯した場合。この場合、運営委員会に十分な証拠を提出すれば、署名者は署名者の方針に従って当該工場から退出でき、当該工場に関して本協定に基づく責任を負わない。
 b) 署名者は、18ヶ月間対象工場から調達せず、さらに24ヶ月間当該工場から調達しないこと を約束する。協定(Accord)への通知により、署名者は、当該工場に関して本協定に基づく責任を負わない。
 c) 対象工場が、段階的加重計画に従い、縫製業持続可能性協議会(RSC)からされた場合。

IV. プログラムの拡大
 35. 署名者は、将来、安全衛生プログラムを拡大し、実現可能性に基づいて選択された他の国で国独自安全プログラム(CSSP)を展開することに同意する。
 36. 拡大のための国の選択とスケジュールは、第38条の原則を満たし、締約国が共同で定義したその他の中核的基準を考慮に入れたプログラム設立の実現可能性に依存する。
 37. そのため、本協定の発効日から6ヶ月以内に、加盟国は、拡大が適切な場所と時期を決定するための基準を共同で定義し、検討対象となる国の初期リストについて合意するものとする。基準には、その国での署名ブランドの存在と数量、ブランドの関心度、既存のメカニズムが安全性を規制できる程度、安全性の問題の程度などが含まれる。フィージビリティスタディは事務局によって実施される予定である。
 38. 「国独自安全プログラム(CSSP)」は、以下の原則を満たすものとする。
 a) プログラムは、バングラデシュア協定(Accord)の下で開発された原則、プロトコル、手順、方針、プログラムに沿ったものであること。
 b) プログラムは、合意に基づいて、産業界、ブランド企業、労働組合、その他を含む国の構成要員 を統治機関に含める。
 c) プログラムは、国内の政府機関や現地の専門家、また該当する場合はILO – Better Workの影響力を活用し、国内の能力を高め、安全衛生文化を向上させる。
 39. 目的は、この協定の期間内に、少なくとも1つの国独自安全プログラム(CSSP)が定められることである。
 40. 本協定の当事者は、人権デューディリジェンスを扱うための範囲の拡大を検討する。運営委員会(SC)は、この協定のもとでは、このような拡大へのブランドの参加は要求されないことを理解した上で、この可能性を探るためにワーキンググループを創設するものとする。

V. 財政支援
 41. 署名企業は、本協定に定める本プログラムの活動資金を調達する責任を負うものとする。各企業は、本協定の期間中、年間350,000米ドルを上限として、運営委員会(SC)が設定する計算式に従って、資金の衡平な配分を行う。
 42. 本協定の適切な実施のための十分な資金を確保しつつ、収益、工場数、年間生産量などの要因に基づく拠出金のスライド制は、毎年修正を加えながら SC によって定義される。
 43. 運営委員会(SC)は、政府及びその他のドナーからの費用拠出を求める権限を有するものとする。
 44. 運営委員会(SC)は、拠出されたすべての資金の会計処理と監視のために、信頼できる強固で透明な手続が存在することを保証するものとする。財団は、公認会計士(accountant)の毎年の認証によって、これを検証する。
 45. 本協定の初年度、財団は、当事者の実施費用を含め、本協定の実施に必要な資金を集めるものとする。財団は、承認された縫製業持続可能性協議会(RSC)の予算に従って、必要な資金をRSCに振り込む。
 46. 本協定の2年目に、当事者は第45条を見直すことにする。
 47. 新たな国独自安全プログラム(CSSP)の設定には、追加資金が必要となる場合があるが、その場合、運営委員会(SC)の決定に従うものとする。

VI. 紛争解決
 48. 本協定の条項の下で発生した当事者間のいかなる紛争も、運営委員会(SC)に提出され、運営委員会(SC)により決定されるものとする。
 49. 運営委員会(SC)は、公正かつ効率的な手続きを確立することを目的として、紛争がSCに提示される際のタイムライン及び手続を規定する紛争解決手続き(Dispute Resolution Process 略称「DRP」)を採択するものとする。運営員会(SC)の意思決定手続きは、当事者のために初期調査を行う事務局構成員によって支援されるものとする。このような紛争解決手続き(DRP)が運営委員会(SC)によって採択されるまでは、運営委員会(SC)は、紛争解決のために2013年バングラデシュ協定(Accord)で定められたスケジュールと手続きに従うものとする。
 当50. 事者の要請があれば、運営委員会(SC)の決定は、最終的かつ拘束力のある仲裁手続きに訴えることができる。いかなる仲裁判断も、執行が求められる署名者の居住地の裁判所において執行可能であり、適用可能な場合には、外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約(「ニューヨーク条約」)の適用を受けるものとする。拘束力のある仲裁の手続きは、仲裁に関する費用の配分および仲裁人の選定手続きを含むが、これに限定されず、紛争の当事者によって別段の合意がない限り、UNCITRAL仲裁規則(最終改定版)に準拠するものとする。仲裁は、ハーグに置かれ、常設仲裁裁判所によって管理されるものとする。
 51. 紛争解決手続き(DRP)はまた、運営委員会(SC)による紛争解決に至らない場合、仲裁を不要とするために、当事者が調停プロセスに参加する機会を組み込む予定である。
 52. 運営委員会(SC)は、いつでも、この協定に基づく仲裁について、UNICTRAL仲裁規則の代替又は補完として、国際労働仲裁調停規則などの追加規則に合意し、又は参照により指定することができる。

VII. 本協定の終了
 53. バングラデシュまたはその他の国独自安全プログラム(CSSP)からの調達を完全に停止した署名者は、調達が停止された特定の国に関して、本協定の条件に従わなくなる。

VIII. 協定の有効期間
 54. 本協定は、2023年10月31日に終了するものとする。

バングラデシュ協定(Accord)を支えるグローバルな労働・市民運動

グローバル経済の拡大と弊害の広がり

 1980年代以降、新自由主義的労働政策が、イギリス(サッチャー首相)やアメリカ(レーガン大統領)など主要諸国の政権の下で強力に推進されることになり、それまでの労働・社会保障施策が見直され、労働組合運動への抑圧的な立法を含む反労働人権の政策的対応が強まることになりました。こうした動向と共鳴して、高度成長から低成長に移っていた日本は、1980年代初めから従来の労働・社会政策を大きく転換したのです。
 こうした流れは第二次大戦後、国際労働機関(ILO)による労働人権の実現・拡大の推進とは相反して、各国での労働規制緩和や社会保障後退への方向転換を意味するものでした。さらに、1986年のチェルノブイリ原発事故に続いて1988年にはソ連が崩壊し、これらが、利益本位のグローバル経済の広がりに拍車をかけ、開発途上国の低賃金労働力を利用する国際的なサプライ・チェーン拡大の背景となったのです。

弊害克服へ各国政府、国際機関の転換

 しかし、1990年代に入ると新自由主義政策やグローバル経済による弊害の広がり、とくに、社会的格差と貧困の拡大が世界的に多くの問題を発生させることになりました。こうした弊害に対して、停滞していた各国の社会・労働運動が新たな高まりを見せることになります。さらに、ILO、OECD、EU、国連などの国際機関にも新自由主義の弊害克服と社会・労働人権尊重の動きが現れることになりました。
 1990年代後半から、グローバル経済による労働人権の後退を克服することを目的に、ILOは、従来の標準的雇用を対象とは異なる非典型雇用保護を目的に1994年「パートタイム労働(175号)条約」、「在宅形態の労働(177号)条約」を採択しました。さらに、1998年には「グローバル化の挑戦」に対抗するための「労働における基本原則及び権利に関する宣言」を採択するとともに、1999年6月の総会で「ディーセント・ワーク」実現を掲げたのです。2008年には、「公正なグローバル化のための社会正義に関するILO宣言」を採択しました。ILOは、1980年代からの約20年もの長い停滞期を終え、新自由主義やグローバルによる仕事の世界における不確実性や労働の権利侵害を積極的に克服する新時代へ大きく飛躍することになったのです。※

脇田滋(2021)「ディーセント・ワークとSDGs」労働総研クォータリーNo120(2021年夏季号)参照。

弊害克服をめざすグローバルネットワーク

 これらの国際機関の姿勢の転換の背景には、グローバル経済による労働人権後退に対抗し、多くの弊害を克服しようとする各国内、さらに国際的な労働組合や市民団体による多様な反対・抗議運動の高まりがありました。こうしたグローバル人権運動には、国・地域・部門などによる違いを伴った多様な市民団体・労働組合が参加しています。そうした活発なグローバル活動を進めている団体としては、市民団体では、Human Rights Watch(HRW)、Worker Rights Consortium(WRC)Clean Clothes Campaign(CCC)、労働組合としては、ITUC〔国際労働組合総連合〕ETUC〔欧州労働組合連合〕IndustriAll GlobalUnion UNI Global UnionAFL-CIO Solidarity Centerなどを挙げることができます。※

 それぞれ意義のある活動を展開していますが、ここでは、バングラデシュでの縫製労働改善のために大きな役割を果たした、北米を本拠とするWRCと欧州由来のCCCを簡単に紹介することにします。WRCとCCCの代表は、バングラデシュの縫製工場の安全問題にも積極的に関与し、ラナプラザ後の関連協定Accord締結に協力し、「証人」として協定に署名しています。

※ 日本では、国際人権NGOであるHuman Rights Now「【声明】バングラデシュ 「ラナプラザ」後も続く低価格競争のなか、縫製工場の搾取的労働が今も続いている(2014/8/7)」が注目されます。

Worker Rights Consortium(WRC)

 労働者権コンソーシアム(Worker Rights Consortium -略称 WRC) は、米国とカナダの150の大学とカレッジに関連組織がある、労働者の権利を監視する独立した国際組織です。WRCは、1998年に設立された「反搾取工場学生連合」(United Students Against Sweatshops -略称 USAS)という学生団体が母体となり、2000年4月、国際的な労働権の専門家、学生、主要な大学が中心となって、世界中の大学アパレルを生産する工場の労働条件を調査する独立した監視組織として設立されました。WRCは、参加大学から年会費を徴収し、それを監視活動の資金に充てています。

 WRCは、発足当時から米国やカナダの大学は、ロゴが付いたスポーツウェアなどの衣料品やその他の商品を生産する労働者を保護する活動に取り組みました。世界最大のブランドの多くが、この大学関連の衣料品生産に関与し、その額は年間40億ドル規模に達していました。2000年以降、主要大学はAdidasやNikeなどの大手企業にサプライチェーン行動規範(codes of conduct)を組み込むようになっていました。しかし、WRCとUSASは、既存の行動規範は、個々の工場や特定分野で一定の成果を上げているが、さらに大学とブランド間の商標ライセンス契約に、法的拘束力のある「大学行動規範(university codes of conduct)」を定めることを求める活動を展開して注目を浴びていました。※

M. Anner, J. Bair and J. Blasi(2013), Toward joint liability in global supply chains: addressing the root causes of labor violations in international subcontracting networks(グローバル・サプライ・チェーンにおける連帯責任に向けて:国際的な相互協力ネットワークにおける労働違反の根本原因に対処するために)

 WRCは、2022年8月現在、米国・カナダの150大学と提携しており、また、地方自治体や政府機関と協力して、人権基準の施行を目指す活動、世界中の工場の労働条件を調査し、搾取工場の状況を明確化する活動、衣料品(アパレル)やその他を製造する労働者の権利を保護する活動を進めています。WRCは、現在、12か国に調査員を置き、東南アジア、東アジア、南アジア、ラテンアメリカ、カリブ海、サハラ以南のアフリカの数百の市民社会組織と協力しています。

Clean Clothes Campaign(CCC)

 1989年にオランダで設立されたクリーン・クローズ・キャンペーン〔Clean Clothes Campaign(略称 CCC)〕は、「労働条件の実質的かつ持続可能な改善を目指す縫製労働者を支援するヨーロッパ12カ国の組織の連合体」でしたが(2009年)、2022年現在、45カ国以上で活動する235の団体からなるグローバル・ネットワークに拡大しています。衣料品およびスポーツウェア産業全体の関係者を結びつけ、労働組合、労働者組織、女性組織、労働権団体、フェミニスト組織、衣料品生産国と消費市場の両方の国の活動家たちを結びつけています。北半球の高所得国における「反搾取工場」の立場に立つ消費者志向(consumer-oriented)の最も代表的な国際的NGOです。
 CCCの活動は、労働者中心で、労働者の基本的権利を尊重するために、消費者を教育し、動員し、地域・国家規模で企業や政府に働きかけ、ネットワーク外の労働権キャンペーンにも幅広く協力しています。各国のキャンペーンは自律的ですが、アムステルダムの「事務局」が国際的な活動の多くを調整して、ローカルな問題や目標をグローバルな行動へと転換することを可能にしています。CCCの活動の対象は、ほぼアジアの輸出業者に限られますが、アフリカ、東欧、トルコの労働団体とも連携しています。
 より安全な衣料品・スポーツウェア産業の形成を支援する中で、CCCは、パキスタンのアリ・エンタープライズの工場災害(2012年)と、バングラデシュのラナプラザ災害の生存者と犠牲者家族に対する補償と、安全確保のために努力して、Accordの締結や更新で大きな役割を果たしています。

小括 企業責任をめぐる国際動向と日本の課題

 映画「メイド・イン・バングラデシュ」を見た後の感想は、前回のエッセイで紹介したように、バングラデシュ縫製労働者の劣悪な労働環境への驚きと、労働人権を実現するには労働組合活動の保障が不可欠であるということでした。
 今回は、2013年の縫製労働の歴史上最悪と言える「ラナプラザ事件」をめぐる国際労働人権運動に注目しました。そして、「グローバル・サプライ・チェーン」の弊害克服を目指すグローバルな労働組合、労働権団体が推進役となって、国連、国際労働機関(ILO)を巻き込み、世界の200を超えるブランド企業、現地の政府、経営者団体、労働組合が参加した「バングラデシュ協定(Accord)」が生まれた背景と経過について、詳しく調べて見ました。そこで得た知見から、以下のように中間的にいくつかの問題点を整理することにしました。

 (1)新たな労働人権をめぐる「国際協定」に注目しなければならない。
 第1に、この「協定(Accord)」は、従来の労働法の「常識」と大きくかけ離れています。ガラパゴス化した日本の労働法や労働慣行の常識に慣らされた関係者には、この新たな「国際協定」の意義を理解することは難しく、受け入れ難いものです。従来の労働法では、あくまでも「国家法」が基本で、労働組合や労使の労働協約も、基本的にはこの国家法の枠組みのなかで位置づけられるものです。とくに、最近の30年間、日本では労働組合が主体となる集団的労使関係は衰退し、企業優位の個別的労働関係が支配的です。その点からも「提携(Alliance)」が親和的です。欧州的産業民主主義を背景にし、しかも国際的な広がりの労使対抗関係を重視する「協定(Accord)」は、日本の現実とは大きくかけ離れていると言うことになります。

 また、日本では労働に関わる国際規範と言えば、国際労働機関(ILO)の条約や勧告ですが、このILO条約は、政労使の三者構成によるILOの総会で採択されます。そして、各国の批准を通じて国内での法的効力が生ずることになります。この9年間、とくにその後半には「協定(Accord)」はバングラデシュ政府と軋轢(あつれき)を生みました。従来から、国内での労働組合の活動を抑圧する姿勢が強かった同国政府は、労働組合の参加や「結社の自由」を盛り込むことを好ましく思っていなかったようです(前回エッセイ参照)。とくに、ラナプラザ事件から時間を経て、協定の更新や延長が問題になったときに、バングラデシュの政府や裁判所が、「協定(Accord)」は「国家主権」の侵害であるという態度を示しました。延長された2018年協定は、事務局が、Accordバングラデシュ事務所から「縫製産業持続可能性協議会(RSC)」に移行にも、こうした同国政府の姿勢が反映していたと思います。

 日本や韓国でも、依然として公務員の労働基本権をめぐってILO条約の批准が問題になり、性差別をめぐって日本政府は、国連女性差別撤廃委員会から改善勧告を受けています。また、外国人技能実習生問題では、国際的な労働人権NGOから日本政府は人権侵害を指摘されています。このように日本政府はILOや国連からの何度も改善勧告を受けても労働人権に対する消極的な姿勢を変えようとせず「国家主権」を口実に、進んだ国際労働人権の保障に背を向けてきました。日本は世界の動きから数周後れた「労働人権後進国」という点では、欧米よりもアジア諸国に近いと思います。このように考えると、縫製労働者の安全・災害をめぐるバングラデシュとの状況は日本とも共通ししており、日本の労働人権実現にとっても9年間のバングラデシュの経験は大いに参考にすべきだと思います。

(2)サプライ・チェーン≒外注化・下請化規制の運動論的意義

 第2に、グローバル・サプライ・チェーンは国際的外注化です。これに対してバングラデシュ「協定(Accord)」が、最終かつ最大の受益者であるブランド企業(元請的な最初の委託者)が現場労働者の労働安全を保障するために経済的支援を義務づけるなど、法的強制力のある規制を加えました。これは使用者が直接雇用している労働者に限って安全配慮義務を負うとする、古い労働法の考え方に重大な修正を導入する画期的な事実です。

 外注化・下請化・派遣化は労働によって利益を受ける企業が労働者の直接の雇用主でないことを口実にした使用者責任回避を許すものです。しかし、ラナプラザの惨事は、劣悪労働による被害に責任を負わない、最大・最終の受益企業が責任回避する「不正義」を浮き彫りにしました。そして、ブランド企業は「協定(Accord)」による規制に応じ、広義の「使用者責任」を負担せざる得なくなったのです。

 「利益あるところに責任あり」「実態が契約を破る」・・・・19世紀に、従来の市民法の形式論理を打破し、労働人権実現に向かう労働法を誕生させた歴史的事実を想起させます。

 新たなバングラデシュ協定に由来する「国際協定」は、21世紀のグローバル経済において国を越えての新たな複合的多数参加の「労使関係」を産み出しました。「労働組合と委託者・発注者(直接の形式上の使用者でないブランド企業)との集団的対抗関係」の中で、新たな国際的な労働組合と国際的な委託企業、現地の労働組合と使用者団体、現地の行政機関とILO、国際労働権NGOが参加する、複数の関係者(stakeholders)による労働関連協定が生まれたのです。これは、新たな国際的複合的集団協約と言ってもよいと思います。21世紀に国際的労働人権運動が、21世紀的「集団関係」「団体協約」を生んだと言えると思います。これはグロ一バル経済の弊害を克服する集団的労働法の新たなグローバル的再生を予感させる「21世紀労働法の新しい芽」だと思います。

 これに対して日本の労働組合は、依然として、企業別組織で個別資本との関係での権利主張や交渉が中心です。ただ、日本でも、外注化が進み、ほとんどの企業・職場で事業場内下請や、その歪んだ合法化である派遣労働が広がっています。建設、原発、情報など多くの分野で重層下請化が進み、さらに労働者でない、個人請負化も広がっています。公共部門、国や自治体の公務関係でも非正規化さらに民間委託(外注化)が進んでいます。つまり外注化(outsourcing )を通じて、企業別労働組合との閉鎖的企業別労使関係を前提とした日本の集団的労働法は大きく縮小・後退し、団体交渉や労働協約の機能は形骸化してきました。「外注化」は労働組合の役割を重視する「産業民主主義」やILOのディーセント・ワークの考え方と対立します。とくに、企業別労使関係が支配的な国の場合、下請企業労働者や派遣労働者を代表しない労働組合は全体代表性を失い、弱体化しがちです。企業や行政当局は外注化によって団体交渉を含む使用者責任を容易に回避することができます。その結果、現場で働く下請や派遣労働者は労働組合によって権利を守ることが困難になって労働人権が守られない現実が広がるのです。。

 残念ながら外注化・派遣化が広がった日本の労働社会では、企業別労働組合は、同じ企業に属する正規雇用労働者のみを組織しており、同じ職場で働く別企業社員(派遣労働者や構内下請労働者)を組織したり、代表して団交や協約でその権利を守る例はほとんど見られません。まして、事業場外の下請労働者を組織したり、その労働条件改善の団体交渉をすることもほとんど見られません。

 これに対して、欧州の産業別労組は、企業の枠を超えた産業別、職種別に労働市場全体の労働者を代表しようとしているのとは大きく異なっている点です。

 今回、調べた「グローバル・サプライ・チェーン」での労働人権保障の枠組みは、企業を超え、さらに国を超えての「外注化」に対抗して現場で働く労働者の労働人権を守る、ユニークな試みであり、新たな工夫です。企業の枠だけでなく、国の枠を超えて、すべての労働者を代表しようとするグローバルな労働組合や労働権NGOらの取り組みの成果だと思います。

 日本でも「外注化」「派遣化」が、企業別正社員組合の存在を無意味化しています。改めて、「外注化」「下請化」の問題を労働組合運動の課題にすることが重要であることを再確認し、従来の組合活動の限界とその克服を考えることが喫緊の課題になっていると思います。

(3)企業別組合・企業別交渉の限界克服の意義

 第3に、欧州や北米では、何故、「外注化」に労働組合や労働権団体が問題意識をもつのか、労働法・労働運動の歴史を振り返る必要があると思います。欧米でも、以前は縫製工場が国内にありましたが、国内での外注化、下請化による労働条件低下の問題がありました。

 産業別労働組合が、団体交渉、労働協約で、企業を超えた規制を加えることが慣行化している欧州では、労働組合が労働市場全体を代表する意識や傾向が強いことを指摘できます。このような欧州の労働組合は、グローバル経済化の中で、労働組合が、国内労働市場だけでなく、国際的労働市場でも全体労働者を代表するという視点からバングラデシュの労働人権実現を位置づけているのだと考えられます。

 米国では、ラナプラザ事件の約100年前の1911年、ニューヨークの「トライアングル社」の縫製工場での火災で146人が死亡するという大事件があり、労働組合の取り組みを経て、労働法的な改善がありました。意識的な米国の研究者は、この「トライアングル社」災害と、ラナプラザ事件を比較・検討しています。トライアル社火災では、外注生産方式と下請ネットワークが縫製工場間にもたらす競争の問題が背景にあるとされ、その後、労働組合との間で締結された「jobbers agreement」が、下請構造による企業責任回避を防ぐ点で大きな役割を果たしたという研究が発表されています。※そして、この「jobbers agreement」と「バングラデシュ協定(Accord)」の共通点の指摘に続いて、団体交渉を企業内の枠に閉じ込める、時代錯誤の現行米国労働組合法改正の必要性が明らかにされ、米国での労働法活性化を目指すという展望が示されています。大いに注目される研究です。日本でも、外注化や間接雇用による弊害が第二次大戦前にあり、それが戦後直後の直用原則、間接雇用の禁止の法制度化につながったという歴史があります。バングラデシュ「協定(Accord)」は、日本の労働法、労働組合運動の悲惨な現実を直視するときに、多くの示唆を与えていると思います。

M. Anner, J. Bair and J. Blasi(2013), Toward joint liability in global supply chains: addressing the root causes of labor violations in international subcontracting networks(グローバル・サプライ・チェーンにおける連帯責任に向けて:国際的な相互協力ネットワークにおける労働違反の根本原因に対処するために)

日本語訳

(4)労働人権デュー・デリジェンス法制化(=労働法をめぐる最新国際動向)

 第4に、この9年間のバングラデシュでの「協定(Accord)」と「提携(Alliance)」の並立という経験は、現在、問題になっている労働事件をめぐる「デュー・ディリジェンス(due diligence)」の議論との関連で深く考える必要を感じました。この点では、「産業民主主義」の視点を重視して「協定(Accord)」の意義を深く調べてみたいと思います。
 とくに、2010年代以降、従来の一般的な労働組合活動とは違って、「劣悪労働」「搾取工場(sweatshop)」を許さないという視点から、「労働人権」が新たなグローバルの取り組みの前面に出ています。世界で、労働人権をめぐるNGOが、労働組合と共同しながら目立った活動を展開していることは示唆的です。日本には、上記のWRCやCCCのような活発な労働人権をめぐる国際組織や、そのグローバル・ネットワーク活動はないか、少なくとも目立っていません。(私たち「働き方Asu-net」も、労働人権NPOの一つですが、残念ながら、グローバルネットワークに参加できていません)

 この労働人権保障という点では、最近、EUで、新たに「企業持続可能性報告指令(corporate sustainability reporting directive)」案が出されており、注目されます。同案では、企業は、自社の事業とそのバリュー チェーンおける「持続可能性」について「デュー・デリジェンス過程」を公開するとされており、企業は、外注化・下請の詳細や相手先、それに関連する主な実際のまたは潜在的な悪影響を開示し、実際のまたは潜在的な悪影響を防止、軽減、是正、または終わらせるために講じた措置を開示する必要があります。

 同様な方向で、既に、イギリスでは「現代奴隷労働法」(2015年)が制定されています。日本では、企業だけでなく、国・自治体も「外注化」「下請化」を「民営化」「民間委託」として拡大することが新たな傾向であり、「改革」であるとする考え方が広がってきました。

 こうした日本の状況は、EUや英国、豪州の新たな動向、さらには国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」(2011年)相容れないものと考えられます。労働組合や労働関連の市民運動も、2010年代以降、大きく様変わりした労働人権をめぐる国際動向、とくに、企業の労働人権をめぐる「デュー・ディジリエンス(due diligence)」の議論に注目し、関連した運動的課題について積極的に議論していくことが必要だと思います。私も、労働法を学ぶ研究者の一人として、この問題に取り組んでいきたいと思います。

 

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