名護市長選、稲嶺氏が再選 辺野古移設に反対

朝日新聞 2014年1月19日

写真・図版万歳をして喜ぶ稲嶺進氏(中央)=19日午後9時42分、沖縄県名護市、藤脇正真撮(省略)

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)移設計画への賛否が最大の争点となった沖縄県名護市長選は19日、投開票され、同市辺野古への移設に反対する現職の稲嶺進氏(68)が、移設推進を掲げた新顔の前自民県議、末松文信(ぶんしん)氏(65)=いずれも無所属=を破り、再選を果たした。安倍政権は移設方針を堅持する考えだが、反対派の勝利で道のりは険しくなった。

 当日有権者数は4万6582人。投票率は76・71%(前回76・96%)だった。両氏の差は4千票余りで、有権者の意思が明確に示された格好だ。

 安倍政権は、反対派の現職が再選する選挙結果に関わらず、辺野古への移設計画を進める方針だ。沖縄県の仲井真弘多(ひろかず)知事が昨年末に移設先の埋め立てを承認したため、ただちに移設手続きの頓挫につながることはない、と判断しているからだ。菅義偉官房長官は14日の記者会見で「知事が埋め立ての判断を下し、決定している」と述べ、選挙結果と移設作業を切り離して考える方針を示している。

 ただ選挙結果は、振興予算などで基地の受け入れを迫った政権に明確な反対を突きつけたことを意味する。今後の移設作業が遅れる可能性もある。港湾や河川の管理権など移設工事に関わる市の権限があるとする稲嶺氏は19日夜、「埋め立て前提の手続き、協議はすべて断る」と表明した。

 移設の工期は全体で9年余りの予定で、防衛省は今年度内にも着工に向けた事前調査を始める。工事が本格化すれば、辺野古漁港に資材を置くための「作業ヤード」建設や近くの河川の護岸工事などをめぐり、市長権限が関わる側面も出てくる見通し。工事に協力しないと公言する稲嶺氏の対応次第では、移設作業が滞るとの指摘もある。

 また政権内には、反対派が工事に抵抗した場合の警備を懸念する声もある。移設に向けた作業が混乱すれば、日米関係に影響しかねない。

 名護市長選は、移設先に同市が浮上した1996年以降5度目で、初めて推進・反対を明確に主張する2氏の争いとなった。

 稲嶺氏は「未来の子どもたちを守るために新しい基地は造らせない」と強調した。埋め立てを承認した仲井真知事を「観光立県を打ち出しながら、自然を潰そうとしている」と批判。安倍政権や自民党が示した振興策も「札束で県民の心を買う手法は間違い」と訴えた。

 移設推進を訴えた末松氏は、国の振興策や交付金の活用を強調。自民党の石破茂幹事長や仲井真氏が応援に入ったが及ばなかった。移設推進を掲げて立候補を表明した前市長との一本化に時間がかかったうえ、公明党が事実上の自主投票になったことも響いた。

 自民党の河村建夫選挙対策委員長は19日夜、記者団に「残念だが、ひとつの市民の判断なので尊重しながら、沖縄の振興策、基地負担軽減に一層努力しなければいけない」としつつ、辺野古移設については「方針が変わることはない」と語った。公明党の斉藤鉄夫選対委員長は、朝日新聞の取材に「結果は民意として厳粛に受け止めたい」と語った。

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